投票
恐らく空腹だろうが、朝陽は来なかった。
夕食は、柔らかいのだがしっかり形の残った、ボリュームがある普通の食事に見える物だった。
全員が、久しぶりの食事らしい食事に嬉々としてスプーンを進め、明日は箸でも余裕で食べられるだろうかと期待しながら食事を終えると、史朗が言った。
「…今夜なんだが。」皆が、満足げに食後のお茶を楽しんでいる中で、史朗は言った。「もう朝陽さん吊りは確定だろう。となると占い先を指定して欲しいな。それとも選んで良いのか?」
拓海が、カップを置いて言った。
「どこでも良いんだけど、どこか占いたい所があるなら聞いておきたいな。」
史朗は、頷いた。
「オレは、明さんを占いたい。」拓海が驚いた顔をすると、史朗は続けた。「今のところ発言から見て、明さんがオレの相方ではないかと思っている。だが、違った時は怖い。だからここでしっかり確かめておきたいんだ。」
明は、頷いた。
「そう思うなら私を占うといい。私は…そうだな、できたら狐位置が良いんだが、今はわからない。皆が占いたい所を言って、残った所でもいいがね。」
幸喜が言った。
「占い師に決めさせるのはどうかな。自分に都合の良い所を占いたいと言うんじゃないか?」
拓海は、頷いた。
「分かってる。ただ、一応希望も聞いておこうと思って。こっちから見て誰が誰だかわからないから、人外も混じってるんだし後で精査するのに情報になるかなと思って。」
一真が、頷く。
「じゃあ宏夢は?どこがいい?」
宏夢は顔をしかめた。
「呪殺を出して真確したいけど、どこが狐かわからないしなあ。理央さんが狐だとしたら、あまりにもお粗末だから、もう一人の狐が出る気がするんだよね。狐は二人しかいないのに、しっかりしてないとヤバいじゃないか。だから、あっても最後には切られる事になる狼かなって思う。としたら史朗さんかな。」
理央が言った。
「お粗末ってなに?これでも一生懸命考えてるのよ。そんな風に私の事を言う宏夢さんが怪しい。だったら私は宏夢さんにする。」
明は、ため息をついた。
「まあ、では私は理央さんで。」と、拓海を見た。「どこか何かなんて、占い師同士でも分かっていないのだ。人外でも狐と狼ならば、どちらも誰が真で誰が人外なのか分かっていないはず。狐が黒に白を打っていない限りはな。」
拓海は、頷いた。
「確かにそうだなあ。じゃあ、明さんはこのままで良いと思います?」
明は頷く。
「良いんじゃないか。結局色が落ちるんだし。」
礼二が、言った。
「今の感じだと理由が一番しっかりしてるのは宏夢だな。狐を探したい感じが真っぽい。明さんが怖いっていう史朗さんの気持ちも分かるから次点で史朗さん。理央さんはなんだか相変わらずな感じで村目はないが、どう判断したら良いのかわからない。明さんが、なんだか怪しく見えてくる。何の希望もないなんて。色を見せたくない人外なのかと思えて来た。」
明は、言った。
「どこを占っても私目線で情報が得られるからだよ。私としたら、理央さんが一番これからも色が分かりにくそうなので占い位置としては良かった気がするな。こうなってみると。」
二千翔が言う。
「明さんは狐は無さそうだよね。占い位置にこだわりが無さそうな所がそう見える。でも、確かに狼はありそうだ。盤面が見えてるからって考えると、意見がハッキリしてるのも分かるからね。」
宏夢が、顔をしかめた。
「その考えで行くと、なんか理央さんを見ておきたい気がしてきた。自分が誰に占われても、みんな気にしてないみたいに見えるだろ?分かってないからだとしたら、狐は理央さんなのかなとか。」
言われてみたらそうかも知れない。
明が言う。
「なんだ、ならば君が理央さんを占うのか?だったら私は君を占うがね。」
宏夢は、うーんと唸った。
その悩む様が何やら真に見えてくる。
「…そうだね、じゃあオレが理央さんを占う!明さんにオレを占ってもらったら、オレに出す色で真贋がオレ目線でつくかもしれないし。そうするよ!」
真っぽいなあ。
拓海は、思った。
宏夢は全く占われる事を怖がっていないので、少なくとも狐ではなさそうだ。
明は、頷いた。
「では私は宏夢で。」と、拓海を見た。「それでいいか?」
拓海は、頷いた。
「じゃあ、史朗さんは明さん、明さんは宏夢、宏夢は理央さん…あれ。理央さんが宏夢だから史朗さんを占う人が居なくなるけど。」
明は、クックと笑った。
「だな。では私は史朗で。」
拓海は、ハッとした。
わざとか。
明は、宏夢が占われるのを嫌がるかどうか見ていたのだろう。
宏夢が人外なら、村利のある意見を出している明は真候補の一人に見えているはずなのだ。
お前を占う、と言われて、だったら元通りで、と撤回したら限りなく怪しむつもりでいたのだろう。
明目線でも、宏夢は白く見えたのではないだろうか。
こんなことでも引っ掛けて来るんだなあと、拓海は明に感心した。
こうなって来ると明日以降の結果が物凄く気になった。
早く真贋をハッキリさせたい。
拓海はそう、思っていた。
7時に近くなって、みんながダイニングキッチンから出て来ると、そこにはジョアンに付き添われた朝陽が来て座っていた。
朝陽はむっつりと、皆と目を合わせない。
ジョアンが、タブレットを片手に代わりに言った。
「今日は朝陽さん投票に決めたのだろう?とりあえず、投票だけはしないと棄権になるから君の陣営が勝っても君は特典が得られないと言ったら、投票に来たんだ。終わってから上に連れて行って食事をさせるつもりだ。さっきから気の毒なほどお腹が鳴ってるから、早めにしてやってくれないか。」
朝陽は、それを聞いて顔を赤くして下を向く。
拓海は、皆と一緒に椅子に座りながら、頷いた。
「分かりました。まだ10分前ですけど、良いんですか?」
ジョアンは、頷いた。
「言い忘れていたが、投票時間になったら誰か一人がここへ来て投票を見守るので、我々のうちの一人が居たら投票してくれていい。ただ、7時を5分過ぎたら投票はできなくなって棄権になるから、仮にその人の陣営が勝利しても特典は得られない。ルールブックに書いてあったと思うが。」
それには、明は頷いた。
「読んだ。では、投票するか。」
ジョアンは、頷いてタブレットを持ち上げた。
「では、皆さん腕輪のカバーを開いて下さい。そして、投票したい人の番号を入力し、最後に0を3つ入れて下さい。では、どうぞ。」
朝陽は12。
拓海は思いながら、そこに番号を慎重に入力した。
そして、0を3つ入れると、腕輪から声がした。
『投票を受け付けました。』
ふと顔を上げると、あちこちで同じ機械的な声が聴こえている。
ジョアンがタブレットを見つめて、言った。
「…投票が終わりました。結果は、全員12番。朝陽さんも同じです。朝陽さんが追放されます。」
皆が、淡々と頷く。
ジョアンは、天井から吊り下がっているモニターを指差した。
「あちらに結果を送っておきます。」
モニターが、ぱっと着いてそこに投票結果がずらりと並んだ。
ジョアンが言った通り、全員が朝陽に入れていた。
「では、朝陽さんはつれて行きます。基本的に遺言はナシですので。」
朝陽は下を向いたまま、無言で立ち上がるとジョアンと共に出て行った。
いろいろあったが、一日目の投票はこれで終わったのだった。




