回避
明が、言った。
「…つまり君は、霊能に二人人外が出ているのを知っていたから霊能ローラーを推していたのか?」
朝陽は、項垂れながら頷いた。
「ええ。私が潜伏することで、私は噛まれないと思った。狼か狂信者なのか狐なのかわからないけど、霊能には二人人外が居る。だから、そこを今日吊って明日生き残った人達が結果を出して、私と違う結果の方が残りの人外だって思ったの。仮に真霊能者が吊られていても、私目線じゃ違うって村に提示できるわ。だから潜伏して、人外を引っ掛けようと思ったの。」
拓海は、混乱した。
朝陽の言動は辻褄が合っている。
自分が霊能者だから、三分の二の確立で人外に当たる霊能者から吊って欲しいと意見を出していたのは、真霊能者として間違っていないからだ。
だが、二千翔が言った。
「…となるとグレーじゃ人外に当たる確立が下がるよね。役職に四人外、囲われてもう二人外が白先に居たら残りは一人外だよ。どうする?こうなると霊能からにならない?」
明が、頷く。
「そうなるな。そしてこうなると、ややこしい事になる。」皆が眉を寄せると、明は続けた。「わからないか?霊能に出ているのが狼狐か狼狂かはわからないが、そちらの結果が揃ってしまったら、真霊能の出した結果と違った時にどちらが真なのか我々にはわからない。だからといって霊能を全吊りしたら縄余裕がそれでなくなる。」
一真が言った。
「狼狂はないんじゃないですか?明さん。狂信者が出ていて狼が出る必要はないでしょう。」
明は、首を振った。
「いいや。今言った事を考えろ。結果を合わせられるので狼はそれだけで有利だ。むしろ狐は霊能に出るリスクを冒さないと考えるので、私としては狼狂の方が濃厚だと思っているがね。」
そうか、真霊能者と対抗できるから。
拓海は、聞いていて思った。
二千翔が、言った。
「ってことはさ、今夜はやっぱり朝陽ちゃんだね。」朝陽が、え、と驚いた顔で二千翔を見る。二千翔は続けた。「だってさ、遅いよ。潜伏の理由はしっかりしてるけど、僕から見たら村の判断を誤らせる嫌な潜伏だ。それに、吊り回避にしか見えなかったよ。一真さんは宏夢さんから白が出てるし一旦置いておいて、秋斗さんと将生さんは白くも黒くもないし、そうなったら情報が一番多い朝陽ちゃんから吊るのが良いんじゃない?グレーの時に明さんが言ってたように、明日からの色が見えてくるんだ。一番有意義な場所だよ。」
拓海は、その通りだと頷いた。
「確かに二千翔の言う通りだと思う。白白結果になるかも知れないしね。黒が出たらラインが見える。分かりやすいよ。」
朝陽は、抗議した。
「私は真霊能者なのよ!縄が無駄になるわ、噛まれるならまだしも吊られるなんて納得できない!」
とはいえ、村の雰囲気は朝陽吊りに流れている。
幸喜は、言った。
「真だったらごめん、君の潜伏理由は確かに君目線でしっかりしてるけど、村目線じゃわからないからね。吊り回避にも見えるんだ。それに二千翔も言ったように、他とはまだラインがないけど君にはラインが見えるから。人外なら絶対どこかでそういうのが出て来るものなんだ。村同士だったらお互いわからないから見えないけどね。だから怪しくなる。今日は吊られて欲しい。」
朝陽は、ぶるぶる震えてそれを聞いていたが、いきなり立ち上がった。
「わかったわよ!だったら絶対勝ってよ?!でないと許さないから!」
そうして、リビングを飛び出して行った。
「朝陽ちゃん!」千晶が、立ち上がった。「…もう、良いわよね?吊り先決まったんでしょ?でも、私はあの子は白だと思うけどね。」
千晶は、批判するようにそう言うと、朝陽を追って出て行った。
拓海は、皆の顔を代わる代わる見て、どうしたものかと諦めた気持ちでいた。
何とも言えない嫌な空気が、そこには残ったのだった。
結局、もう話すこともないのでその日はそれぞれ夕御飯まで好きに過ごした。
拓海はまた少し疲れて来ていたので、部屋て横になっているとマルコムがやって来てさっさと注射をし、処置をしてくれた。
なんだか無理に体に力を与えているように感じて、段々命を縮めているような気になって来る。
だが、この戦いに勝てばそんな懸念もなくなるのだ。
そう考えると、一世一代の賭けだった。
少し眠って、軽くなった体を起こすともう5時を過ぎていた。
…夕飯は6時だったっけ。
拓海は、トイレを済ませて階下に降りる事にした。
リビングへと降りると、もうみんなそこで夕飯を待って座っていた。
食事の時間になると、担当者がカートを押して入って来て、ダイニングへ向かう。
ここに居れば、それが見えるのだ。
「みんなもう来てたんだ。」拓海は、ソファの方へと歩いた。「まだ来てないよね。」
圭斗が頷いて言った。
「もう、腹が減って死にそう。オレ、ちょっと点滴してもらったよ。だいぶ腹具合は良いみたいだから、夜はしっかり食べていいって。待ちきれなくてさ。」
それはみんな同じなようだった。
ふと見ると、朝陽と千晶の姿がない。
恐らく、まだ引きずっているのだろう。
「…朝陽さんと千晶さんが来てないね。拗ねてるのかな?」
拓海が言うと、二千翔が頷いた。
「うん、僕一応理解させようと思って話に行ったけど、どうせ吊られるから何でも良いとか言って。村人だったらしっかり考察残して行かないと勝てないよって言ったんだけどね。千晶ちゃんはそんな朝陽ちゃんに疲れて来てたから、多分来るんじゃない?」
二千翔は話に行ってくれたのか。
拓海は、自分の仕事だったのに、と顔を暗くした。
自分のことしか考えていなかった。
「…ごめん。オレが行くべきだったのに。」
二千翔は、笑って首を振った。
「いいよ、僕は体調良いからさ。拓海さんは寝てたじゃん。先生が出入りしてたから疲れたんだろうなって思ってたよ。こういうのは、余裕がある人がやればいいの。」
二千翔は白い。
拓海は、思った。
二千翔はきっと白だ。
だが、明日朝陽が真っ白だったらそれは覆るかもしれなかった。
そこへ、千晶がバツが悪そうな顔をしながら入って来た。
「…あの、ご飯のカートもう、そこまで来てるよ。」と、皆に言った。「ごめんなさい、私ったら感情的になってしまって。あれから朝陽ちゃんと話したんだけど、あなたにはわからないってそればかりで、私まで敵認定なの。もういいわ。村利があるならあの子を吊って色を見るのが一番よね。村役職なんだから、何か見える事があるかなと思ったんだけど。」
幸喜が、頷いた。
「まあ、朝陽ちゃんから見たらみんな敵に見えるよね。あの時、霊能からでなくグレーを推した中に人外が居るように見えるのかもしれない。でも、ほぼみんなグレー吊りに賛成してたからなあ。だから、みんな敵に見えるんじゃない?」
千晶は、ため息をついて頷いた。
「ええ。そうだと思う。ここへ来て初めてできた友達だから、白だと信じていたけどあの行動を見ていると、なんだか人外なのかもって思えて来て。」と、カートを推した人が入って来た。「あ、ご飯来たよ。」
圭斗が、跳び上がるように立った。
「飯だ!もうダメ、オレ先に行くわ。」
カートを追い越す勢いで歩いて行く圭斗に苦笑しながら、幸喜も立ち上がった。
「さて、行くか。拓海さん、体調大丈夫?なんか先生が部屋に行ってたよね。」
拓海は、立ち上がりながら頷いた。
「ちょっと疲れてただけだ。もう大丈夫だよ。」
幸喜は頷いて、歩き出した。
「じゃ、行こう。あーお腹空いたー。」
みんな同感だった。
そうしてみんな、ぞろぞろと食事をとりにダイニングキッチンはと向かったのだった。




