9 新たな場所と新たな展開
もう五十階ほどは上がってきただろうか。いい加減、代わり映えのない風景にうんざりしてくる。
終わりがないんじゃないかとさえ思うが、怪物は弱くなっていて宝箱の中身は質が下がってきている。それだけを根拠にゴールはあると信じて上がっていく。
とある階にて、迷路をコウモリ化で踏破して階段を上がったらまた迷路だった。
大部屋と強制戦闘がない。つまり宝箱もない! ちょっとずつショボくなってきているとはいえ、ほとんど唯一の楽しみだったのに。
コウモリ化して迷路を抜けつつ、敵を倒して収納していく。
次の階も、その次の階も迷路だけだった。だが、そこから更に二階上がったところで大部屋が現れる。
そこにいたのは骨の体だった。
頭蓋骨は山羊のように細長く、黒いローブで羽織っている。ローブからのぞく体や、杖を持った手は人の骨そのものだ。
窪んだ眼窩から、障気とも言うべき真っ黒な煙を垂れ流している。宙に浮かび、こちらを観察するように見ていた。
最初の方に似たような敵はいた。倒したら杖と【エンペラーリッチの魔核】を落としたはずだったか。こいつもその亜種だろうか。
エンペラーリッチは物理攻撃が効きにくかった。見た目はただの骨なのに、変な力に阻まれて攻撃が通りにくかった。
光術には対アンデッドのものもあった。先制で一発打ってみる。
「エクソシズムレイ、ーーうわっっちぃ!」
上級光術の一つで、浄化の光を悪霊にぶち当てる……のだが、なぜか撃った俺が熱い!
右手が、手首まで焼け焦げたように真っ黒だ。聖銀の短剣を触った時より酷い。
だが敵にも効果はあった。
ヴォオオオ……と断末魔の声に、ぶすぶすと煙を上げながらリッチ系の敵が消滅する。後には黒い石……魔核と、持っていた杖が残った。
痛くてしょうがないので、魔力を集めて手を治す。
手をさすり、なんともないのを確認する。
よく考えれば吸血鬼もアンデッドか。不用意というか、考え無しすぎた。
自分に向けて撃ったわけでもないのにと思わないでもないが、手だけで済んでよかったと思おう。
戦利品は【リッチロードの魔核】と【窮魂の霊杖】だった。
宝箱もある。中身は宝石と金貨だった。宝石の大きさは下の階で見た物より小ぶりだが、代わりに数は多い。
金貨の方は……【レヌーヴ金貨】? 前の【フィセルナ金貨】より一回り小さく見える。等価値ではなさそうだ。
やはりグレードは落ちている。それでも、いかにもお宝! という中身にテンションが上がるのもまた事実。
全て影収納に入れて先を急ぐ。
そこから先は、やはり五階に一回で大部屋(と宝箱)だった。その他の階は迷路と、階ごとに一種類の敵だけだ。コウモリ化で駆け抜けるように上を目指していく。
時折適当な魔獣から血を貰いつつ、ひたすらに上へ。
どのくらい上がったろうか。恐らく、更に五十階近く、合計で百階ほどは上がったろう。
そこで景色に変化があった。
ここまではドーム型の大部屋と、人工的な迷路の迷宮だった。だが、この階は鍾乳洞のような自然洞窟に見える。
「暗い……暗くないけど」
それまでは壁自体が謎にうっすら光る迷路だったが、こちらはただの岩らしい。当然光ったりはしない。
岩についた苔が弱々しく明滅していた。そのため真っ暗というほどではないが、今までの通路より明かりは乏しい。
ただ、それでも昼間のように見通せるので不便はない。
天井が高く、道が入り組んでいる。ぱっと見た感じ坂道などもあり、壁なども迂回していかないと先へは進めなさそうだ。
コウモリ化して飛んでいけば何の障害にもならないが、これまでと様相が違うので慎重に進む。
しばらく歩くと目の赤いネズミ型の魔獣が出てきた。中型犬サイズで、普通のネズミよりも大きい。
それが数体、どこからともなく集まってくる。
ヂュウヂュウと濁った鳴き声を交わしつつ、こちらに距離を詰めてくるネズミたち。
飛びかかってきた一匹を霧化してかわし、そのままコウモリに変化する。
ネズミたちの隙間を縫うように飛び交う。複数のコウモリと化した俺に引き裂かれ、ネズミは全て息絶えた。
「名前は【ケイブラット】か」
死体を影に収納する。この自然洞窟でも、戦闘は問題なさそうだ。
そう呟いた瞬間、キイキイと甲高い声が響いた。そちらに目をやると、コウモリが四、五匹飛び回っている。
あのコウモリは俺ではない。元々ここにいたものだ。
「あれ、二種類?」
大部屋は例外として、一つ下の階まで敵は一フロアに一種類だった。迷路に二種類以上出てきたことはない。
首を捻っていると、コウモリがこちらに飛びかかってくる。手で叩き落とすとそのまま動かなくなった。
「今度は【ケイブバット】」
首を捻る。なぜ急に二種類も現れたのだろうか。
ふと、耳を済ませると水の音が聞こえてきた。そちらへ向かってみる。
「湖……いや、地底湖?」
広々とした空間だった。水が張っており、透明度は高い。覗き込んでみると、割と深いところまで魚が泳いでいるのが見えた。
「いや、あり得んだろ」
思わず突っ込んでしまう。この地底湖から、俺の上ってきた階段は遠くない。位置的に、もろ迷路がぶつかると思うのだが……。
地形の整合性も滅茶苦茶か。すげえな異世界。
水面を覗きながら考えていると、水の中から急速に何かが近づいてきた。
それは一匹の魚だ。バシャア、と水面を弾けさせ、俺の顔面に突っ込んでくる。
「あぶっ、危なっ!」
咄嗟にのけ反ってかわす。実際は霧化があるので危なくもなんともないが、急でびくついてしまった。
魚は一メートルほどの大きさで、鱗は銀色に光っている。
なんで魚まで好戦的なんだよ。これも怪物なのか?
俺が避けたことで打ち上げられ、びたんびたんと地面で跳ねている。そのまま見ていると、段々と跳ねる勢いが弱くなっていき……、
「死んだ……」
なんだったんだこいつ。まあ、一応持っていこうか。【ケイブアロワナ】。食えるのかな。
少し前に気づいたが、影収納に入れておくと物が劣化しないようだ。この魚も、持っていくところに持っていけば調理してもらえるかもしれない。
さて、じゃあそろそろ外を目指すとしようか。
地底湖に背を向けて歩き出した瞬間、それは響いた。
「ひゃあああああああああ!」
「!?」
今のは、悲鳴?




