7 解決策?
敵を蹴散らして進む。洞窟内で時間の感覚がないが、多分、丸一日くらいは経っているように思う。
相変わらず疲れも空腹も、眠気もない。吸血鬼って昼間は寝てるイメージだけどな、棺桶の中で。
ある階にて、宝箱に入っていた杖で指先を火傷した。聖銀の短剣に触れた時と同様、火による火傷と違って治りが遅い。
怪しい物は指でつつく癖をつけておいてよかった。
銀製には見えないが、神聖な物なんだろうか。吸血鬼には触れない感じの。
というか、当たり前のように外を目指しているけど、
「俺って、陽の光は大丈夫なんだろうか」
太陽の下、大手を振って歩く吸血鬼を想像する。……駄目っぽいよなぁ。なんなら最大の弱点な気がする。
どうしよう。フードとか被れば大丈夫かな。それとも昼間は引き込もって夜だけ行動する?
一生ここで暮らすなんてまっぴらだ。
「どうにか……弱点をなくせるようになんないかな」
頭をかきながら口にすると、俺の体から勢いよく黒い煙が抜けていった。
「うぇ!? ……あ、あー、これって」
ハイ出ました吸血鬼能力。また言葉にしただけで勝手に発動しやがった! ありがたいけど、ありがたいんだけどさあ。
自分の体を見る。見た目は何も変わっていないが、経験に則れば言葉通りのことが起きているはずだ。
開いたままの宝箱に手を伸ばし、恐る恐る杖に触れる。
火傷はしない。つかんで持ち上げても何も起こらなかった。
「平気だ……」
なんというか、非常に呆気ない。吸血鬼の弱点ってこんなにあっさり克服していいものなんだろうか。
杖を宝箱に戻し、これまで通り箱ごと影の中にしまっておく。
が、影収納が発動しなかった。
「あれ?」
今までどんな物でも触れただけで影の中に沈んでいったのに。
触れてみても、手をかざしてみても「影収納!」と叫んでみても発動しない。
試しに前にしまった物を取り出そうと念じてみるも、やはり何も起こらない。
二度と取り出せないのかと焦りかけ、はっと気づく。
「あ、そういうことか」
影収納が使えないのは、弱点を封じたからだ。弱点と一緒に吸血鬼の力も封じられたのだろう。
霧化もコウモリ化も駄目だった。ただ、視界はそのまま洞窟内でも見渡せている。なんでもかんでも制限されるわけじゃない、のかも。回復能力はどうなんだろう。
吸血鬼の能力が戻ってくるよう念じる。
先程体から抜けた黒い煙が、どこからともなく体にまとわりついてきた。そのまま吸い込まれていく。
手だけを霧に変え、戻してから宝箱を開く。杖をつつくと指先が焼け焦げた。魔力を集めて治す。
「何もかも都合よくはいかないか」
影収納で箱ごと入れた。【神威の聖杖】。やっぱり聖なるアイテムか。
制限モードを「人化」、元に戻ることを「吸血鬼化」と呼称する。この呼び方が適切かどうかはともかく、他に思いつかないし。
少し、人化した状態で進んでみることにした。効率は落ちるが、この状態でどれだけ動けるのかは知っておきたい。
今となっては急いで出る意味もないし。
コウモリになれないため、最初にやっていたように左手の法則で迷路を抜ける。曲がる際は壁に傷をつけ、どちらから来たか把握できるようにしておく。
傷をつける道具は、あらかじめ影から出しておいた「隕鉄のナイフ」。ちょっと下の階の宝箱から出た物だ。
刃渡り一五センチほどで、刃も柄も真っ黒い。装飾は一切ない武骨なデザインをしている。
吸血鬼化していても触ることができた。使う機会はなかったけど。
人化していれば「聖銀の短剣」でも使えるが、あれは極力触りたくない。
グェグェ……。
曲がり角で現れたのは二足歩行の細長いカエルだった。表情の読めない顔で、こちらをじっと見たまま動かない。
にらみ合いになるかと思ったが、不意に口をぱっくりと開いた。
びゅっ、と舌が飛び出して、真っ直ぐ向かってくる。
屈んでかわし、伸びた舌にナイフを振るう。抵抗なく舌先が両断された。
グェェェ!
舌が戻っていく。切れた舌先から血を滴らせながら、カエルの化け物は悲痛な声を上げる。
接近し、カエルを殴り飛ばした。ぬめっとしている!
壁に衝突し、床にべしゃっと落ちる。意識はないようだが、まだ息があった。ナイフで喉を切ってとどめを差す。
戦える。だけど、吸血鬼化している時より力は落ちている。
パンチ一発でミノタウロスの頭を吹き飛ばしたことを考えると、人間サイズのカエルを気絶させることしかできないのは弱い。
吸血鬼化して影収納に入れる。【ヴァリアントフロッグの死体】か。このくらいなら複数出てきても何とかなるだろう。
しかしこの迷宮、一フロアにつき一種類しか敵が出ない。生態とかどうなってんだろう。
誰かがそう設計したかのような不自然さがあるが、穿ちすぎだろうか。
「まあ、その辺も出てから考えるか」
疑問を飲み込んで再び人化し、また左手に沿って先へ進む。




