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60 魂の灯火

「姉ちゃん!」


 キアネアは、ストレイガが抜けてくずおれるように倒れたカテリナに駆け寄った。体を揺すって声をかけているが、反応はない。


 リリエラが近づき、手慣れた様子で仰向けにしてまず口元に、そして首に手を当てた。


「呼吸が弱いねえ。脈もお……」


 誰にともなく言う。その口調は悲痛さこそないが、諦めのようなものが混じっていた。


 近づいて膝をつき、手のひらをかざす。


「ホーリーヒール」


 超級の治癒術だ。治りかけていた腕がまた、炭化したように真っ黒に染まる。セイントディスペルを使った時も思ったが、超級の光術は反動も半端じゃない。


 体の方は完全に治ったはずだが……。


「どうだ?」


 再度カテリナの体を確認しているリリエラに聞くが、ゆっくりと首を左右に振った。


「体はともかくう、魔力が弱々しいねえ」


 リリエラの目でも微かな魔力しか見えないようだ。魂がすり減ると、魔力器官が弱まるのだろうか。


「このままだとどうなる?」


「さああ」


「さあ?」


「デミリッチが憑りつくなんてえ、聞いたこともないしい」


 適当な返事に眉根を寄せる俺にそう言い返し、「でもお、多分だけどお」と続ける。


「死んじゃうかなあ」


 ひっ、とキアネアが息を飲む。言葉を選べと言いたいが、カテリナの状態がいまいち分からない。一刻を争うかもしれないので、俺も気遣う余裕がない。


「どうしてそう思う」


「生物から魔力がなくなるのはあ、死ぬ時だからねえ」


 万物に魔力が宿るのに、死体には魔力が残らないとは不思議な話だ。だが実際死に際して魔力が抜けるのを、リリエラは何度も見ているようだ。先ほどストレイガも「魔力のない存在に見えてしまうので困る」と言っていた。


「正しくはあ、大気中と魔力と同化するってえ感じかなあ」


 とリリエラは補足するが、突っ込んで聞いても要領の得ない答えしか返ってこなかった。「見えている」リリエラでないと分からない領域なのだろう。


「延々とお治癒術をかけ続ければあ、命はあ、繋げるかもしれないけどお」


 首をふらふらさせながら歯切れ悪く言う。目を覚まさないんじゃ意味がないし、ずっと治癒術漬けにするのというも現実的じゃない。


「魔力さえあれば生きられるのか?」


 他人に魔力を譲渡する光術があるが、それで延命を図れるか? いや……結局リリエラ自身が魔力を生み出せなければ、治癒術をかけ続けるのと大差ない。ずっと付きっきりで魔力補給をしてやるわけにもいかないし。


 そんな俺の考えを、リリエラはあっさり否定する。


「もしい、本当に魂が傷ついてるならあ、そんな簡単な話じゃないかもお」


「どういう……いや、そもそも、魂って何なんだ?」


 説明を求める前に、頭に湧いた疑問を差し込む。


 概念として理解はしているが、元の世界では存在は証明されていない。もちろん、今となっては実在を疑いはしていない。俺が記憶を持ち越して転生しているのがその証左だ。稀人が魂の実在を証明している。


 だがリリエラの言い方は、「魂とは何か」というところまで知っているように思えた。


「生命の核ってえ、感じかなあ。目には見えない……生きるためのお、臓器?」


 人間にとっての魔石や魔核みたいなものだろうか。目には見えないけど存在していて、魔力と密接に結びついている……。


 それがデミリッチの憑依によってすり減らされ、消えようとしている。だから見えている部分が無事でも、命が潰えるのを止められない。そういうことなのか?



「どうして、こんな……」


 それまで大人しかったキアネアが、かすれるような声を出した。開かれた瞳には涙がにじみ、今にも溢れそうだった。ストレイガに痛めつけられても、新たな魔族が現れても流れなかった涙が。


 そこには怒鳴り散らして威勢を張っていた姿はなく、ただの一人の子供だった。カテリナのローブを握りしめ、折れそうな心を必死に保っている。


 カテリナとキアネア。二人の間柄はよく分からないし、聞き出す必要もないだろう。姉ちゃんというのが、実姉なのか姉貴分なのかというのも重要ではない。


 手段を選ばず金をかき集めて、カテリナの体からストレイガを追い出そうとした。子供が一人で、誰の手も借りず。


 実際のところ神殿とストレイガは繋がっていたので、頼ったところで意味がないどころか、もっと酷いことになっていた可能性はあるが。


 やり方の是非はともかく、助けようとしたのは間違いない。


「どうにかならないか?」


 レティにもカテリナを見つけると約束した。彼女がただ操られていたと知った今、死なせるわけにはいかない。


「ううん、一つう、思いつかないでもないけどお」


「え、マジ?」


 俺の驚く声と共に、キアネアが期待を込めた目を向ける。


 なぜかもったいつけるような言い方をするのが気になるが、とりあえず続きを促した。


「お兄さんのお、眷族にしちゃえばいいんだよお」


 にこやかな顔でとんでもないことを言ってのけた。二の句が継げない俺に、笑顔のまま説明を続ける。


「ヴァンパイアの生命力ならあ、そうそう死ぬことはないしい。お兄さんと繋がりができればあ、魔力も送ってあげられるんじゃあなあい?」


「正気かお前は!」


 今の今までデミリッチに憑りつかれていた相手を吸血鬼に変える? よくそんな発想を思いつくな!


 そもそも眷族化のやり方も分からないし、仮にできたとしても人に戻せるかは未知数だ。二度と日の光を浴びられないかもしれないし、討伐される危険性もある。


 キアネアが怯えるような目で俺たちを見ている。期待を持った分だけ失望もデカそうで、俺のせいじゃないのにちょっと申し訳なくなった。


 長い長い息を吐いて頭をかく。


「却下だ。それ以外に何かないのか?」


「そう言われてもお、私の手には負えないねえ」


 考える素振りも見せずお手上げを表明するな。


「神殿とか、聖女でも無理か?」


「聖女様もお、言っちゃえばただの治癒術師だからねえ。しかもお、お兄さんの方が凄腕だしい」


 俺の問いかけは首を振って否定される。魂の修復に治癒術の効果がない以上、神殿ではどうにもならない。


 魂をイメージできれば、そこに治癒術を注げるか? でもそんなのは雲をつかむような話だ。


「魂に干渉するなんてえ、おとぎ話の世界だからねえ。始まりの聖女かあ、世界樹の霊薬かあ、ハイエルフの秘術かあ……」


 なんだかファンタジーな言葉を指折り並べるリリエラ。諸々詳しく聞きたいところだが、一つ気になったことを確認する。


「霊薬……霊薬エリクシル?」

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