表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/69

53 情報共有

 神殿と魔族が繋がっている。


 なんてこったと思ったが、ギルドやクロアも俺という魔族と繋がっているし、今はリリエラとも取引中だ。どの口が言うと責められたら閉口するしかない。


 上層部は理念を忘れて腐りきっています……クロアの言葉が脳裏をよぎる。あれはこのことを言っていた? 魔族には魔族を、ということなのか?


 反応からして、リリエラが同じ結論に至ったのは明白だ。だがそれでも疑問は残る。


「でも、魔族は街に入れないはずだろう? 結界が……」


「ごまかす魔道具があるんだなあ、これがあ」


 あんのかい! 夜道ででかい声を上げそうになって口を押さえる。これまでの前提がいろいろ崩れるじゃないか。


「ちょうお高いしでっかいしい、普通に買えるわけじゃあないけどねえ」


 魔封具と言い、魔力を封じ込めて、いわゆる今の俺と同じ状態になれるようだ。


 この街で言えば、北門に一基ある備えつけの魔道具らしい。メルのような魔石を持つ存在は北門からしか出入りできず、それも長々とした手続きがいる。確実な身分証明が求められ、時には心付けなんかも必要になる。


 扱いがほぼ犯罪者だ。思った以上に面倒くさいな。


 さらに驚くべきことに、その魔道具はとっくに小型化されているらしい。備えつけの物が大きいのは盗難対策だ。万一魔族の手に渡れば悪用されかねない。使用どころか、所持も製作も違法な代物。


 だというのにその小型化された魔封具を、神殿は秘密裏に持っている。


「しかも、魔族に使わせてる……?」


「ほんとならあ、世も末だよねえ」


 そう思うなら、もう少し末ってる顔をすべきだろうに。なんでにたにたしてんだ。


 クロアはカテリナが魔族であることを否定した。ただし、普通に考えれば、と頭につけて。あの時の含みはこういうことか。


 状況は完全に、カテリナが魔族であることを示している。しかも神殿と組んだ上でレティを狙った……。


 ため息が出る。レティに色よい報告はできそうにない。


 俺の憂いなど気にせず、リリエラは話を続ける。


「ちょうど時間もあるしい、遊びがてら見て回ろうと思ったらあ」


「たまたまあの子……キアネアから魔族の魔力が見えたってか? ーー嘘つけ」


 先回りして答えた上で否定する。リリエラは驚きもせず一層笑みを深めた。


 それだとキアネアの名前を知っている理由にならない。聖女にくっついて街を転々としている第一隊が、子供一人一人まで把握してはいないだろう。


 初めから知っていて、キアネアに目をつけていた。目の前の女騎士がしていたのは謹慎という名の休暇ではなく、潜入捜査だ。


「建前タテマエえ。大事なんだよお、組織的にい」


 あっさり認める。リリエラの独断ではなく指示されてのことだと。指示を出したのは直属の上司であるウォーグだろうか。神殿側も一枚岩ではないようだ。


 魔族と密約している派閥もあれば、教義通り魔族を滅ぼさんとする派閥もある。


 それがいいことなのか悪いことなのかはまだ分からない。


 リリエラは鞄から財布を取り出してごそごそ漁る。中から赤い宝石のついた細い指輪を取り出した。右手の薬指に、全く同じ指輪をはめている。


「これは魔道具でねえ。対になる指輪の場所が分かるう、優れものお」


 発信器。こんなものまであるのか。血液鑑定、通信機に次ぐ異世界テクノロジー。現代に匹敵する技術もあるのに車も火薬もなく、道には馬車が走り剣と魔法で戦っている。一度この世界の歴史を勉強してみたい。


「財布をわざと盗ませたのか?」


「ここ最近、急にい、スリの被害が増えたらしくてさあ。調べてみたらあ、犯人は一人のお嬢さんだってえ、いうじゃあない」


 性格の急変。ここでキアネアと魔族が繋がるのか。


「実際、キアネアから魔族の痕跡が見えたのか?」


「うっすらとお、だけどねえ」


 キアネア自身が魔族ではないが、近しいところに存在を感じるといったところか。


「取り返されててえ、びっくりしたけどお」


 わざと財布を盗らせて追跡するはずが、俺が取り返している上に衛兵に突き出すなんて言っている。流石のリリエラも驚いたらしい。


 捜査の邪魔をしただけだったのか……いや、俺にとっては結果オーライなんだろうけど。


 徒労感に肩を落とす俺をひとしきり笑い、リリエラは「ところでえ」と話題を変える。


「お兄さんはあ、何の魔族う?」


 興味津々、といった眼差しで問いかけてきた。まあ、そりゃ聞かれるよなあ。


 どう答えたものか。リリエラは上の指示で魔族を追っている魔族排斥派だ。クロアと違い、俺の協力を求めていることもない。こうして情報を共有してくるのが不気味なくらいだ。


 細められた目、広角の上がった口、直角に近い首にふらふらと安定しない体勢。それら全てが何も考えていないようにも、深謀遠慮が巡らされているようにも見える。素なのか演技なのか、俺の人生経験では計れない。


「答える前に聞きたいんだけど、俺をどうにかしようとは思わないのか?」


「どうにかってえ?」


 日和った聞き方をしたらすかさずつつかれた。言いたくないがはっきり答える。


「殺すとか、討伐するとか、退治するとか」


「滅するとかあ、排除するとかあ? それ全部同じだよねえ」


 自分で言ってまた笑い、それが収まってから言った。


「私はあ、どうもするつもりはないよお。命令も街を騒がせてる魔族のお、調査だしい」


 お兄さんはあ、騒がせてないよねえ……と言う態度は、やはり本当か嘘か分からない。


「ぶっちゃけるとお、私は『楽しい』が最優先なんだよねえ」


 種明かしをするように、立てた指をふりふり振ってリリエラは言う。


 彼女自身は魔族排斥に傾倒していないという。神殿騎士をやっているのも、それ以外に生き方を知らないし稼げるし、まあまあ楽しいから。キアネアを追うのも、彼女の影にいる存在を追うのが楽しいから。


 俺のことは黙っている方が楽しいと判断した。だから放っておく。


 混沌、という言葉が思い浮かぶ。まさに今見えているリリエラを言い表すのにぴったりだが……。


「いまいち信用できないんだよなあ、って思ってるでしょお」


「まさしく」


「けひっ。ひっどおい。これでも結構お、大きな秘密話したのにい」


 捜査情報のことかと思ったが、両手の人差し指で両目を指差している。魔力を視認できる目は、彼女的に大きな秘密らしいが、


「さらっと明かされ過ぎて、秘密感が薄いんだけど……」


「ええー」


 わざとらしくのけぞり、そのまま倒れそうなくらい不安定な体勢を取るリリエラ。


 気の抜けたやりとりをしつつ覚悟を決める。


 敵対されぬよう信頼関係を築くなら、今は明かす他にない。


「ヴァンパイアだ」


「えっ」


「だから、俺はヴァンパイア……うおっ」


 のけぞっていた体を勢いよく起こし、思いきり顔を近づけてくる。今度は俺がのけぞらされた。近い近い!


 笑顔が消え、驚き百パーセントみたいな顔でじっと見つめてくる。視線で穴が空きそうだ。


 少しの間固まっていたが、


「けひっ、けひっ、けひひっひゃははっははは!」


 今度は壊れたように笑い出した。近所迷惑も考えず腹を抱えて笑っている。


「騒がしくするなよ」


「いやあ、ごめっ、ごめんっ、けひゃ、ひっ、ひっ……」


 口を押さえて痙攣しつつ、たっぷり一分以上は笑い続けた。……予想外すぎるリアクションだ。早まったかな。


 はーっ、と息を漏らして顔を上げる。目尻に浮いた涙を指で擦っていた。


「いやあ、いっつも予想を越えてくるなあ、お兄さん」


「楽しんでもらえたようで何よりだよ」


 楽しいことが最優先なら、これで味方になったと思っていいのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ