表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/69

52 協力者

「は?」


 リリエラから放たれた言葉に、その一文字だけ口から飛び出る。他は何も言えなかった。


 とんでもないことを言った相手は、目の前で実に楽しそうに笑っている。俺のリアクションを楽しみ、次に何を言うかと待っている。


 魔力が見える。それが事実なら、最初から全部見えていたということだ。


 出会ってから一度も身体強化なんて使っていないことも。今の俺が魔力を隠していることも。


 その上で、身体強化使ってるよね? とか言ってきたのか。


 痒くもない頭をがりがりとかく。


「いい性格してんなあ」


「ごめんねえ。まあ、剣折られたお返しってことでえ」


「あれはそっちがしかけてきたんだろうが」


 軽口を叩きながら、相手の出方を伺う。


 一歩、足音もなく近寄ってきたリリエラに警戒を強める。顔を寄せ、囁くような声で言った。


「それでえ、わざわざ魔力を隠してるってことはあ、お兄さん、魔族?」


「そうだと言ったら、また斬りかかってくるか?」


 首を盛大に曲げながらの質問に質問で返す。


 彼女の腰元に目だけ向けた。装飾品のような細剣だが、恐らく実用性も兼ねているだろう。


「どう思うう?」


 質問で返し返された。一貫して楽しそうな態度を崩さず、まともに話し合う気があるのか怪しくなってくる。


 どう思うかと聞かれたら、答えは一つしかない。


「人通りも多いし、やめてほしいと思う」


 喧騒は相変わらずだ。皆自分が楽しむことに精一杯で、道の端で顔を寄せ合う俺たちなど誰も気にしていない。猛スピードで逃げたスリ少女に対しても、ちょっと歓声が飛んだだけですぐ収まった。酔っ払いの頭は単純にできている。


 ただそれも、刃傷沙汰となれば別だろう。騒ぎになると困る。


 俺の答えを聞いたリリエラは、しばしにたにた笑いながらこちらを見ていたが、


「じゃああ、やめておこうっかなあ」


 と言って身を引いた。


 ほっとするには早い。何せ胸の内がさっぱり読めない。


「……いいのか?」


「こっちの剣まで壊されたくはあ、ないからねえ」


 鞘を撫でながら、本気かどうか分からないことを言う。言外に「魔族を見逃してもいいのか?」と訊いたつもりだが、通じてんのかなこれ。


「ああでもお、代わりに一つう、お願いがあ」


 首をふりふりさせながら、わざとらしい交換条件を持ち出すリリエラ。ちゃんと通じていたようだ。


 頷いて促す。内容にもよるが、無条件で見逃されるよりはよっぽど安心できる。


「案内してほしいんだよねえ、キアネアちゃんの所までえ」


「キアネア?」


 初めて聞く名前に首を捻ると、なぜか俺以上に首を捻ってリリエラは言った。


「さっきのスリの子だよお。追えるよねえ」


 当たり前のように言われて少し驚く。確かに追えるが、そこまで見えていたとは。


 先ほど首根っこをつかんだ際、コウモリを一羽少女の影に忍ばせた。俺の体の一部だが、見えない部分を削っているため傍目には分からない。そもそも一羽分の「欠け」など、小指の爪一枚分にも満たない。


 コウモリは俺と感覚が繋がっているため、辿っていけば見つけられる。


 逃がしてなるものか、と思った時に発現した。久々の勝手に吸血鬼能力だ! 吸血鬼化はこれが怖い。目立つような力でなくてよかった。


 ちなみに本気で追跡しようと思っていたわけではなく、リリエラの登場で回収する隙がなくなった、というのが実情だ。


「構わないけど、どうして追いかけるんだ? 財布は取り戻したろう」


 取り戻しても窃盗は窃盗ということか? 魔族は見逃して窃盗犯は追い詰める神殿騎士、というのも違和感があるな。


 首をいっそうぐらぐら動かしながらリリエラは答える。


「結論から言えばあ、追った先に魔族がいるかもお、しれなくてえ」


「は?」


 またとんでもないことを言われ言語野が止まる。そんな俺を見て、


「けひっ、けひひ」


 とリリエラは笑った。ドレス姿には全く不似合いな笑い方は、しかしリリエラにはよく似合っている。脳がバグりそうだ。


 衝撃的なことを言って絶句させるのはやめろと言いたいが、よく考えれば俺もバートン相手に同じことやってたな……。



 並んで歩く。リリエラの靴はドレスに合わせた踵の高いミュールだが、歩き方に淀みはない。レティと歩く時のような、歩幅を合わせる気遣いすらいらなかった。


 人波を抜け、段々と喧騒が遠ざかる。


 予定とは全く異なる形での情報収集となった。魔族を追っている身としてはこれ以上ない情報源ではあるが、それもリリエラの言葉が真実ならば、だ。神殿関係者なのはクロアと同じだが、クロア以上に真意が読めない。


 例によって間延びした口調で話すのを、油断なく聞く。


 リリエラの所属する第一隊の主な任務は聖女の護衛だ。昨日出くわした時は、他の街からフォードカリアへの護送中だったらしい。


 しばらくは辺境の街に留まるが、聖女の仕事が終わり次第また別の街へ向かう。


 仕事内容や逗留期間についてはぼかされたが、嘘を見抜く聖女の仕事など、ろくなものではないと想像はつく。期間もそう長くはならないだろう。


 ……クロアが一服盛るなんて強行手段に出た原因はここにあるのか? 他の街へ行ってしまったら、流石に協力もしづらく……。


「いや待て」


「んん?」


 思わず声が出て、リリエラの説明を止めてしまう。


「聖女が街を転々としてる? 昨日だけ、たまたま外に出てたとかでなく?」


「そうだよお。何かあ、変?」


 当たり前のように問い返されるが、変に決まってる。それじゃあ、クロアはなんでフォードカリアで密偵をやっているんだ?


 クロアとリィンは双子であることを利用し、日ごと入れ替わっているはずだ。同じ街にいるからぎりぎり成り立つそれも、遠く離れた場所じゃ不可能だ。クロアが旅人や冒険者ならともかく、ギルドの密偵じゃ街から自由には出られまい。


 気にはなるが、リリエラに聞くわけにもいかない。考えても答えは出なさそうなので一旦胸にしまう。


「いや、それで?」


 ごまかして続きを促す。俺が何かを隠しているのはバレバレだろうけど、にんまり笑っただけでつっこまれはしなかった。


「ええっとお、そうそう。だからこれはあ、聞いた話しになるんだけどお」


 同僚からの話や風の噂によると、ここ数日、街で不可解なことが起きているらしい。


 曰く、街の中で魔術をぶっ放して取っ捕まった魔術師がいるとか、領主の城に単身乗り込もうとした馬鹿者がいたとか、仲睦まじかった恋人が急に別れたとか。


「最後のはただの痴情のもつれじゃないのか?」


「急に女性の方があ、お腹をぶっ刺したらしいよお。前兆もなくねえ」


 手を刃物を握る形にし、ぶすう、と言いながら俺の土手っ腹を刺す真似をしてけひけひ笑う。いや、絶対に笑うとこじゃないよね。


 前兆もなしに、となると喧嘩をしていたわけでもないのか。なぜ急に。


「城に乗り込もうとした人はあ、前日まではあ、真面目な石工だったってえ」


 石工って、石材を切り出す人だっけ。街で暮らしているなら、領主に不満でもあったのか?


 そう聞いてみると帰ってきた答えは「ぜえんぜん」だった。


 辺境を治める領主は人道的で、重税を課したり、労働者に不利な制度を決めたりなんてことは一切ないらしい。


「魔術師なんてえ、実力以上の術を使おうとしてえ、ぶっ倒れたらしいよお」


 暴走した魔力で自らも傷ついて半死半生だとか。普通じゃない。


「全員に共通してるのはあ、急に人が変わったようなあ、性格になったってとこだねえ」


 聞き覚えのある話だ。不自然な性格の変容。それは、


「呪術?」


 俺の端的な指摘を、肯定も否定もせず笑う。


「へええ、知ってるんだあ。流石は魔族う」


「……言っておくけど、俺自身がかけたことなんてないからな」


 信じるかどうかはともかく一応言っておく。むしろこれまでで一番使っている魔術が解呪だ! ほんとどうなってんだこの世界!


 リリエラはにやにやしながら続ける。


 今は全員が、なぜあんなことをしたのかと言っているらしい。バッシュたちと全く同じだ。


「でもお、呪術にかかってたなんて話はあ、一切出てこないんだよねえ」


「出てこない?」


 性格が戻っているということは解呪されたということだ。この街で呪いが解ける者は、俺を除けば神殿の術師しかいない。レティは初級の魔術書を、それも途中までしか読んでいないはずだし。


「変でしょお、変だよねえ」


 首どころか、上半身を左右に揺らしながらリリエラが言う。笑顔も相まって煽っているようにしか見えないが、俺を煽る意味はないし素なんだよな、多分……。


 そして、彼女の言う通り不自然がすぎる。


 神殿にとって魔族は絶対の敵だ。呪術はほとんど魔族の代名詞で、住人に呪術の痕跡があったら静観しているはずがない。


 混乱を招かぬよう、住人に明かさないのはまだ分かる。ギルドと仲が良くなさそうなので、ギルドに隠すのもまだ飲み込もう。


 でも、リリエラを含む構成員にまで伏せられているのはおかしい。


「術者自身が解除した?」


 治癒術師が解呪する前にかけた術者が呪術を解けば、もしかすると隠匿できるのかもしれない。


「そうかもねえ。でも、そうじゃないかもお」


 とりあえず「二つ目に」思いついたことを言ってみるが、返ってきたのは曖昧な言葉だった。その流し目が、それだけじゃないだろうと言っている。


 促されるまま、やむなく「最初に」思いついた考えも口にした。


「……神殿と魔族が繋がってる?」


「けひっ、けひっ、けひひひ」


 愉しそうに笑うリリエラに、今度は言葉に出してつっこんだ。


「笑うとこじゃないだろ、絶対」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ