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48 未だ闇の中

 行方不明とは穏やかじゃない。自ら行方をくらませたか、何者かに消されたか。どちらにしても普通じゃないことが起きている。


「バッシュは倒れる前、カテリナに唆されたと言っていた」


 その言葉を引き金としたように呪術が発動した。不吉な黒い紋様と、苦痛に歪む顔は忘れがたい。


 メルは驚くこともなく返す。


「ええ、ギルドの聞き取りでもそう報告しているわ」


「大人しく話してるのか」


 こっちは、口を割らせるのにそこそこ手間取ったのに。


 俺の意外そうな声にメルは苦笑する。


「本来の『狼牙』は、そんなに問題のあるパーティじゃないのよ」


 実力と素行が伴わなければ昇格はできず、D級は冒険者の中じゃ上の方に分類される。問題児じゃ上には上がれない。


 彼らも大きな問題は起こさず、せいぜい肩のぶつかった相手を小突いたとか、酔って絡んできた相手をちょっと強めに返り討ちにしたとか、冒険者的には「よくあるトラブル」の範疇らしい。


 少なくとも依頼に逆らって迷宮へ入ったり、それを隠すために人を斬りつけたりするとは考えにくい。


「そうでなければ、外に慣れていないレティシスちゃんを一緒には行かせられないもの」


 貴重な治癒術師だ。ある程度信用のある面子でなければ預けられないだろう。


 なぜあんな連中に同行させたのかと思っていたし、D級への信用というのもうさんくさいと思っていた。だがもしかするとそうではなく、


「それも、呪術のせいなのか?」


「十分にあり得る話だと思うわ」


 もしやと思った俺の考えをメルが肯定する。マジか。


 呪術にかけられた人間は、考え方が攻撃的や短絡的になることがあるという。それそのものが呪術というより、副作用に近い。


「迷宮に潜ったことも、レティシスちゃんを置いていったことも、モーグくんを斬ったことも……なぜあんなことをしたのか、って口をそろえて言ってる」


 呪術が解けて精神状態が戻り、目が覚めたからか? 完全に操られていたわけではないが、自らの意思というには呪術の影響が大きすぎる。ならば、罪はどこにあるのか。


「本当のところ、洞窟で何があったんだ?」


 洗いざらい話しているのなら、レティ置き去りの詳細も聞いているはずだ。


「それは……」


「教えてくれ」


 悩ましげに言葉を濁すメルに詰め寄る。立場上話しにくいのは承知しているが、ただの好奇心で聞いているわけではない。


 目を逸らさずにじっと見つめる。俺の無言で訴えに、メルもやがて折れてくれた。ため息を一つついて話し出す。



 バッシュ率いる「狼牙」は調査のための人員をそろえた。レティシスはギルドの推薦で、モーグは彼らが雇っている。だがカテリナは彼女自ら立候補した。例えE級でも、魔術師の火力は頼りになる。彼らは喜んでカテリナを引き入れた。


 ちなみに、カテリナは特定のパーティに所属しない魔術師だという。パーティを手助けしつつ報酬を稼ぐスタイルは珍しくない。


 フォードカリアを出てカーム洞窟へ向かい、洞窟の前で夜営した。見張りは「狼牙」が受け持った。


 交代で見張りをしていたバッシュたちは、全員が一人の時にカテリナに話しかけられた。だが、この辺りの記憶が曖昧だという。


「記憶が?」


「彼らが言うには、頭にもやがかかったような感じだそうよ」


 それも呪術の影響だろうか。だとすれば、ほぼ間違いなくそのタイミングで仕込まれたのだろう。


 短絡的になるといっても飽くまで「傾向」で、目に見えて人格が変わるわけではない。翌朝に起きたレティやモーグは気づかず、一緒にカーム洞窟へ入った。


 迷宮を見つけた際、真っ先に入ろうと提案したのはカテリナらしい。「狼牙」の四人もそれに乗っかった。レティとモーグは難色を示したが、じゃあ二人で残るかと言われてついていかざるを得なかった。治癒術師のレティと、荷物持ちのモーグだけでは洞窟の魔獣に対抗できない。


 迷宮内での「狼牙」は精彩を欠いていた。地下一階のグレーパイソンは、本来D級パーティが手こずるような魔獣ではない。無策に突っ込んでは傷を追う様は、あたかも自ら傷つきにいっているようだ、とモーグは述懐した。


 そもそも迷宮に潜る準備もなく、あっという間に物資は尽きた。回復薬や、レティの魔力も。


 洞窟内に戻ってきた後、レティが崖から落ちた。彼らは一旦レティと合流したものの、足手まといとして置いていくことを決めた。決定権はバッシュにあったが、カテリナの意見だという。例によって、モーグは従うしかなかった。


 フォードカリアに戻り、口裏を合わせて報告した。D級という実績を隠れ蓑に。


「おいおい。真っ黒じゃないか」


 途中から思っていたが、話の終わりまで待ってつっこんだ。


「さっき、夜に話した記憶が曖昧だって言ったでしょう?」


 メルは神妙な顔で言い、先ほど省いた部分をつけ加える。


「バッシュくんが言うには、おぼろ気な記憶の中でこう言われたらしいわ。……明日、治癒術師に問題が起きる。それを見過ごせば、神殿から報酬が出るって」


 それはもう、犯行予告というやつでは。


「それとね」


 まだあるのか。自分で聞き出しておいてなんだが、もうお腹いっぱいなんだけど。


「レティシスちゃんが崖から落ちたって話だけど、よく聞いたら、誰かに押されたらしいわ」


「誰かって……」


「はっきり誰とは言わなかった。でも、『狼牙』の四人も、モーグくんも否定してる」


 自然と眉間にしわが寄る。指先で軽く撫でた。


 罪を明かそうとしていたモーグは元より、呪術の解けたバッシュたちが嘘をついているとも考えにくい。


 これまでの流れと、治癒術師に問題が起きる、という発言からしても一人しかいない。


 今になって思い出す。初めてギルドを訪れる際、レティは異様なまでに緊張していた。あれは、カテリナと出くわすことを恐れていたのでは。


 カテリナはレティがいると知ってついてきた。無謀な迷宮挑戦も、レティの魔力を消耗させるため?


 怪しすぎる魔術師は、今は姿を消している。調査から戻ってすぐとメルは言った。レティの生存を知って逃げたとするとタイミングがおかしい。


 神殿からの報酬、という点も気になる。魔族であれば神殿と繋がっているはずはないと思うが……。


 クロアは何も知らなそうだった。でも、あの段階だとどこまで事実を話していたのかも分からない。


 クロアと話したいが、馬鹿正直にそう言って、なぜと聞かれても困る。機を待つしかないか。

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