表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/69

43 冒険者のマナー

 馬車に揺られながら、先ほどの話を思い返す。


 ギルドの設立どころか、建国に関わっているのが稀人だとは。仮にあれが単なるおとぎ話だとしても、稀人がそういう存在という認識なのは変わらない。


 C級では倒せないらしいドラゴンもーーそれもエンペラー種を初戦で倒している。


 貴族にでも王族にでもなれそうな経歴だが、困ったことに魔族だ。元より偉くなろうだなんて思っていないが、自分の抱える秘密の大きさが、イメージすらできなくなってきたのが怖い。


 辻馬車を拾って移動した先は住宅地だった。夕飯より早い時間帯、どんな店に連れてこられると思っていたが……。


「家?」


「いえー」


 俺の端的な疑問に、同じく端的に答えたのはグラスマリーだ。新人が誘いに乗ったのが嬉しかったのか、馬車内でも気さくに話しかけてくれた。ちょっと引くくらいの美人なことに変わりはないが、おっとりした雰囲気もあって緊張は薄れている。


 目の前には白い漆喰の壁に、グレーの三角屋根が乗った家があった。階数こそ二階だが、横の広さが今まで見た家の数倍ある。立派な門や庭まであり、家というより館と呼んだ方が適切そうだ。


 ここが彼らが暮らす、いわゆるパーティハウスらしい。よく見ると、周囲の家も似たような大きさだ。高級住宅街? タルヴォスたちは貴族ではないし、貴族街ではないはず。


「すごいな」


「はっは、まあな」


 家を見上げながらの感想に、タルヴォスは胸を張って自慢げな笑みを浮かべた。


「借家だけどね」


「長く留まるなら、宿暮らしより安く収まりますから」


 その横を通りながら、カノンとロットンがシビアな現実をバラす。一瞬面白くなさそうな顔をしたタルヴォスだが、むしろ発奮した様子で鼻を鳴らした。


「いずれはもっとデカい家を構えてやるさ」



 ソファーとローテーブルのある部屋に通された。応接間のような作りだが、全員思い思いに座っている。ただの休憩室か、もしくは会議室として使われているようだ。


「どうぞ」


 と言ってロットンがお茶を出した。流石に室内ではフードを取っているが、ぼさぼさの髪の毛がより強調されていた。


 ちなみにカノンは三角帽を被ったままだ。こだわりだろうか。


 出されたお茶は薄い紅色で、レティが出してくれたものや、店で飲んだものに近い。この世界のお茶はこれが主流らしい。


「それにしても」


 両手でカップを持ったグラスマリーが口を開いた。


「冒険者だったんだね。ギルドで見た時は、てっきり依頼者なのかなって」


「ギルドで?」


 どのタイミングの話だと思ったところで、カノンが「ああ、今朝ね」と相づちを打った。グラスマリーは、


「治癒術師さんといたでしょ?」


 と訊いてくる。人でごった返す中でよく気づいたなと言いかけたが、メルに呼びかけられて階段を上っていった俺たちは、確かに目を引きそうだ。


「神殿に頼れない貧乏貴族が、治癒術師を頼ってきたんじゃないか……なんてマリーと話してたわ」


「外れだったねカノちゃん」


 カノンとグラスマリーが顔を見合わせて笑う。どこの世界でも、人は噂話が好きらしい。


「今日登録したばかりなんだ」


「そっかー」


 俺の答えに納得したようにグラスマリーが頷くが、カノンにはうろんげな目を向けられた。 


「ふうん、子供ならともかく、あんたくらいの歳で新人ってのも珍しいわね」


 疑い……というほどではないか。疑われるようなことはしていないし、ちょっとうさんくさい程度の目つきだ。秘密を持っているとはいえ、敏感になり過ぎるのもよくない。


 視線を気にせず問いかける。


「冒険者ってのは、やっぱり子供の頃から冒険者なのか?」


 そうですね、と言った後に少し黙考し、ロットンが答える。


「そうとも限りませんが、そういう人が多いのは事実です」


「冒険者じゃなくても食ってけるヤツは、冒険者なんてやらねえからな」


 後頭部で手を組ながら、トートロジーみたいなことを言うタルヴォス。まあ、必要もないのに危険な道に進む者はそういまい。


「そういや、あん時もはぐれの嬢ちゃんといたな」


「商業区でか」


 思い出したようにタルヴォスが言う。あん時、というのは金貨をスリ取られた時のことだろう。


「ギルドの外でも? へえ……」


「珍しいね」


 カノンとグラスマリーが興味深げな目をしている。タルヴォスの言っていた通り、レティが他の冒険者と一緒に行動することはあまりないらしい。


「ちょっと縁があってな」


 言い訳じみたことを口にしてしまう。


 今さらだけど、俺とレティのことってどこまで話していいのだろうか。新人が単身洞窟に乗り込んでレティを救出って、相当不自然だよな。


 いや違う。登録前だから新人どころか一般人だ。尚さら怪しい! どうして洞窟に向かったんだって話にもなる。


 冒険者としては未登録の格闘家だったってことにしようか。……防具も持たない格闘家は、それはそれで不自然か。


 玄人らしく振る舞うには、知識と経験がなさすぎる。


 新人らしく振る舞おうにも、神殿騎士の剣を叩き折っており、あれが知られたら弱いふりも意味がない。そもそもレティは「命の恩人」って隠さず話してしまっているし……。


 ……駄目だ。こんがらがってきた。明日にでもバートンに相談しよう。


 我ながら雑なごまかしだと思ったが、それ以上つついてくることもなかった。カノンとグラスマリーも、


「ふうん」「そっかー」


 とだけ返してくる。


 グラスマリーは急に話題を変えて聞いてきた。


「タイチロウ、って珍しい名前だよね」


 それは自分でも思っていた。誰にもつっこまれないから大丈夫だと思っていたが、ついに指摘されてしまった。


 今のところ偽名を使うつもりはない。ある意味、元の世界との唯一の繋がりみたいなものだし。


「君って、いったいどこから来たの?」


 今日一困る質問が来た。日本から来た稀人です、だなんて言えるわけがない。


「東の方、かな」


 悩むのも怪しいと思い、咄嗟に出たのはそんな言葉だった。絶望的に怪しい。


「ひがしー? ニーレン領? それともリューゲン王国かな?」


 首をかしげながら列挙される地名は、どれも聞いた覚えすらない。そりゃそうだ。この国の名前すらついさっき知ったのに。


「いや、もっと東……」


 この世界の地理も知らずに答えるのは心臓に悪い。元より動いちゃいないけど。


「え? じゃあ大陸の……」


「その辺にしとけ」


 好奇心に満ちた目で問いかけようとしたグラスマリーを、面倒くさそうにタルヴォスが止める。言われたグラスマリーも、やや不服そうながらも「はぁい」と引っ込めた。


 タルヴォスは人指し指を立て、


「あれこれ詮索しねえのが冒険者のルールってやつさ」


 覚えときな、と言って格好つけたように笑う。


 あれこれ不明瞭な俺に何も聞いてこなかったのは、そういった暗黙の了解があったからか。


 正直助かる、そのルール。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ