40 親切な冒険者
背が高く、身につけた革鎧からのぞく腕は筋肉で張っている。背に差した大剣は太く長く、この男が振るえば並の魔獣なら両断できそうだ。
C級冒険者。クロアが言うところの「一握り」の実力者だ。鉢金によって逆立った真っ赤な髪に、切り傷の跡が残る顔。
そんなタルヴォスに、なぜかじろじろ見られている。
「ぶん投げたヤツがお前に当たった気がしたんだけど……気のせいだったか?」
いや、思いっきり当たったけども。それも顔面に。
不意に人が飛んできても平然としているG級は不自然だったか。
どう返すか悩んでいると、
「まあいいか、怪我もねえようだし」
と自己完結した。間を置かず続ける。
「んで、何してんだよこんな所で」
「装備を買いに」
「装備ィ?」
素直に答えたら、思いっきり顔をしかめられた。そう言えば「他の仕事見つけろ」って言われていたな。
ふん、と鼻を鳴らして「やめる気はねえのか」と言った。
正直に言えば、冒険者にこだわる意味は薄い。身分が保証されれば何でもよく、強いて言えばレティを守りやすいというくらいか。ただ、それを素直に言っても不興を買うだけだろう。
「まあな」
とだけ返しておく。
「そうかい。まあ、二度は止めやしねえけどな」
そう言いつつも、飽くまでタルヴォスは不満そうだ。だが反対しつつも止める気はないようで、問いかけてきた。
「で? 店のアテでもあんのか?」
「え?」
「え、じゃねえよ。どこで買うつもりなんだ」
なぜか問い詰めるように顔を寄せてくる。戸惑いつつも、ギルドで聞いてきた店名を教えた。
「ええと、『シュロー武具店』ってとこだけど」
「初心者用の店じゃねえか」
そりゃ初心者だもの。バートンの勧めだし、間違いはないと思うのだが。
「初心者用はほとんど鉄鎧だ。重いし動きにくいし、いいことねえぞ。防具は鉄より、軽くて丈夫な魔獣素材の方がいい」
急に真面目な顔で言われ、大いに戸惑う。そんな俺に気づかず、タルヴォスは続けた。
「金貨パクられてもへこたれねえくらいだ。金はあんだろ? ならもうちょいいいもん買っとけ」
「お、おう」
し、親切ぅー……。レティの言う通り、面倒見のよさがすごい。乱闘や呪いや毒で、知らずささくれ立っていた心が不覚にも癒される。
タルヴォスは道の先を親指で差し、平然と言った。
「ついてこい。それなりの値段でいいもん売ってるとこ紹介してやる」
俺の名前出せば値切りもきくしな、と言って歩き出す。やめろ! それ以上のイケメンムーブは俺に効く!
「魔獣素材もピンキリだけどな。弱ぇ魔獣の素材じゃ、そこそこの強さの敵には紙みてえなもんだ」
だから初心者が鉄を選ぶのも、ある意味間違っちゃいない……そんなことを言いながら、ずんずん進んでいくタルヴォスについていく。
実のところ、いい装備をそろえる意味はあまりない。俺の体は装備なんて必要のない頑丈さだし、鉄の鎧が多少重くたってなんともないだろう。装備を買うのは冒険者らしく振る舞うためで、そういう意味ならG級相当の品を身につけていた方がいい。
ただ、親切心から店を紹介してくれるタルヴォスに、そんなことは言いづらい。
「金があるなら鉄はやめとけ。E級素材なら悪くねえ装備もある」
「E級素材? 魔獣にもランクがあるのか?」
「聞いてねえのかよ」
呆れた顔をされる。文句はギルドに言って欲しい。
強さや危険度などで、ギルドが定めている等級があるらしい。呆れつつもちゃんと教えてはくれるんだな。
「戦い方は? 武器は何を使うんだ?」
「殴る蹴る……だから、素手?」
「馬鹿言えよ、そんな細っこい体で。振り慣れてねえなら短剣か、せめてナイフでも持っとけ。素人なら槍ってのも……」
その後も、タルヴォスはあれこれアドバイスしてくれた。
「なんにしても、外にいく前にギルドの訓練室で慣らしておけよ」
「訓練室?」
「それも聞いてねえのかよ」
首をかしげる俺に、しょうがねえなあといった様子で教えてくれる。訓練室とはギルド内の、体を動かせる場所らしい。トレーニングルームみたいなものか。
初耳だ。多分いろいろあって忘れていたか、言う必要もないと思っていたのだろう。徒手空拳で地下百階から上がってこられる化け物に、訓練室で訓練しろとは言うまい。
話しながら歩いていると、賑やかな商店街から武骨な武具店へ、どんどん雰囲気が変わってきた。道を歩く者も冒険者が主になってくる。
地理的には北西で、北の工業地区寄りになっているそうだ。工業地区で作られた普通の武器や防具が、商業地区の店へ送られる。
「普通の?」
「高ランカーは自分で素材を持ち込んで作ってもらうからな」
高ランク冒険者は、自分たちで狩った魔獣で装備を作ってもらうらしい。
強い魔獣はそうそう狩られないため、店に並ぶことはないようだ。あったとしても初心者が手を出せる価格でないため、どのみち買えるものは限られる。
「専用装備か」
ロマンがあるな、と言うとタルヴォスはにっと笑い、
「おう、こいつもな」
と言って右肩を親指で差した。革鎧の肩部分に、雷と弾けた地面がデフォルメされたようなマークがある。わざわざつけてもらったのか、それ……。
質問は続く。
「どういう冒険者を目指してんだ、お前」
どういうとは。
不思議そうな顔をする俺に、やきもきした顔で言う。
「森で魔獣を狩るのか、迷宮で宝を狙うのか、盗賊や悪党を叩くのか。なんとなくでも方向性はあんだろ」
それによって、必要な道具なんかも変わってくるようだ。例えば、日帰り圏内だけで活動するなら夜営の道具は必要ない。
「装備をそろえようってことは、街の雑用だけで終わるつもりは無いんだろ?」
雑用専門……ではなく、そこで心折れてやめていく者のことだろう。
「武器や防具もいいが、それ以外の道具だって考えとけよ」
丁寧に教えてくれるタルヴォス。とことん親切だな。言葉遣いの荒っぽさも、そんなに気にならなくなってくる。
「誰にでもこんなことをしてやるのか?」
つい気になって訊いてしまうと、途端に渋い顔になった。しまった、質問を間違えたか。
「見込みのねえヤツにはな」
ぶっきらぼうに言いつつ頭をがりがりとかく。
放っておくと死にそうだから助けてくれるってことか。
ありがとう、とか親切だな、とかは嫌がりそうなので、
「助かる」
と短く謝意を述べておく。返事は鼻を鳴らされただけだった。




