表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/69

26 看板娘

 ピリカの父、ブロンブはリザードマンのハーフだった。顔つきや腕の鱗は父親からの遺伝らしい。


 ピリカの見た目は人間そのものだが、瞳孔は猫や蛇のように縦に伸びていた。俺の目線に気づくと、目蓋を指でぐいんと広げて「お父さんとお揃い!」と楽しげに言う。


「レティシスが人を連れてくるなんて初めてだなあ」


 ブロンブはカウンターから身を乗り出して嬉しそうに笑みを浮かべた。


 よろしく、と会釈して話しかける。


「昔からの知り合いなのか?」


 俺の疑問に「昔ってほどでもないがな」と答え、続けて言う。


「もうどうしようもねえって怪我を、メリシアさんに治してもらってなあ。その時からの付き合いだ」


 メリシアさん、というのはレティの母だろう。


「母が亡くなってからも、いろいろ親切にしてもらっています」


 レティの付け加えるような言葉に、ブロンブは両手を広げて返した。


「そりゃそうさ。メリシアさんがいなけりゃ死んでたし、そうでなくてもレティシスは怪我とか診てくれるからなあ」


「あたし! 熱出たときレティシス姉に治してもらった!」


 手放しで誉められ、恥ずかしげにうつむくレティ。


 あちこちで慕われているようだ。これは治癒術の成果のみならず、レティの人柄によるものだろう。


 中央近くのテーブル席に着く。料理はレティと同じものを注文した。何があるのかも分からないが、おかしな物は出されまい。


 カウンターの奥にはもう一人、人間の女性がいた。ピリカの母だろう。配膳や片付けなどをピリカが、調理をブロンブが行い、奥さんは双方の補佐を担っているようだ。


 料理を待つ間、どうしても気になったことをレティに聞く。


「リザードマンって、魔獣じゃないのか?」


 迷宮にも同型の敵がいた。【ブラストリザードマン】【リザードマンジェネラル】といった遺体が、今も影収納に入っている。


 ブロンブは半分とはいえリザードマンだ。それどころかギルドには、完全にリザードマンの見た目をした冒険者もいた。街の結界に引っかからないのか。


 内容が内容だけに、本人に聞くのは躊躇われる。


 えーと、と整理しながらレティは説明する。


「魔族だったり、魔獣だったり、獣人だったりするそうです」


 なんだそりゃ、と思ったが言葉通りだった。リザードマンは、魔族にも魔獣にも獣人にもいる。


 元々、魔獣と魔族の区分はひどく曖昧らしい。ある程度の知能があって会話ができれば魔獣ではない、とされるようだ。


 迷宮産のリザードマンは見かけるや否や飛びかかってきて、とても会話が楽しめるようには見えなかった。あれは魔獣になるのだろう。


 そして、街の結界は魔石に反応するらしい。より正しく言えば、体内にある「生きた魔石」に。それによって弱い魔獣を阻んだり、魔族の侵入を感知する。獣人は魔石を持たないため、街の結界に引っかかることはない。


「うん? じゃあ、街の出入りに苦労するメルさんって」


「魔石がある、んだと思います。……魔族を祖先に持つ人は、時々そういう人も生まれるみたいですね」


 高い魔力感知能力も、魔石によるものだろうか。


 まとめると、魔石がなくて、コミュニケーションを取れるのが獣人ってことでいいのかな。雑すぎる……研究者とかいないのか?


「でも……見た目じゃ分からないよな、それ」


 魔族か、魔獣か、それとも獣人か。外見からでは、魔石の有無なんて分からない。メルもそうだ。


 そう口にしてみると、やや沈んだ顔でレティは頷く。


「そう、ですね……。ですから、神殿の影響を受けた人は、一部の獣人を下に見ていたりもします」


 また神殿か。今のところ、神殿に関してネガティブな話しか聞いていない。


 下に見る……ね。それはこの店が、人通りの割に客足が鈍いことと関係しているのだろうか。


 ですが、と顔を上げ、真っ直ぐな目でレティは言う。


「人も獣人も、同じ街の住人で、差なんてない。……お母さんはそう言ってました。わたしもそう思っています」


「そうか」


 自然と笑みが溢れる。


 頭をわしゃわしゃしてやりたいが、さっきの今なのでやめておこう。



「お待たせしましたー!」


 ちょうど話の終わったところで、料理が運ばれてきた。ピリカがテーブルに皿を置く。


 これは……魚のクリーム煮だろうか。いい匂いだ。一緒に煮込まれた野菜も入っていて彩りもいい。


 パン二つとサラダがついており、栄養バランスもよさそうだ。


 食器も、水の注がれたコップも、全て木製だった。味がある……と俺は感じるが、むしろこれがスタンダードだった。ガラス製品や陶器はやや高い程度だが、銀食器は文句なく高級品らしい。


 異世界に来てから、血と水と、血の乾きに対して一本だけ飲んだ霊薬と、昨日もらったお茶しか口にしていない。初の固形物だ!


「ピリカ、背、伸びました?」


 配膳するピリカをじっと見てレティが聞く。疑問というよりは、確信に近い聞き方だ。


「伸びた!」


 簡潔、かつ嬉しそうにピリカが答える。レティは複雑そうな顔で「そ、そうですか」と言って、小声で呟く。


「うう……わたしの方がお姉さんなのに」


 年齢を聞いてみると、ピリカは九歳らしい。九歳……言動から子供っぽいとは思っていたが、まさかの一桁。流石はあの父親の子供ってことか。


 あと、子供ががっつり働いていることに困惑する。この世界、労働に関する法律とかあるのかな……。子供は労働力! みたいな考え方がマイノリティとなっていた現代人からすると、ちょっと気になってしまう。


 成人が十五歳。なのに冒険者登録が十二歳からというのも、改めて考えると恐ろしい話だ。


「へっへーん。そろそろ追い抜くかもよ?」


 得意気に胸を張るピリカと、複雑そうなレティ。


 本人が楽しそうなら、外野がとやかく言うことでもないか。


「そうなったらピリカがお姉さんになるのか」


「そうなの!?」


 俺の軽口を真に受けて驚く。すかさずレティが叫んだ。


「なりません!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ