表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/69

25 観光案内

 ギルドを出て街の中心方面へ歩く。せっかくなので何か食べてみたい、というとレティが先導した。今向かっているのは繁華街らしい。


 食事の必要はないが、食べられないわけではない。お茶も美味しかったし、異世界料理はとても興味がある。


「ああそうだ、忘れないうちに」


「え?」


 ポケットから大銀貨を一枚取り出してレティに差し出した。


 街の通行料銀貨三枚と、昨晩の宿泊費だ。宿泊費の相場が分からないが、日本円換算で銀貨七枚は七千円。そう離れてはいないはず。


 ぽかんとした顔のレティにそんなようなことを説明したが、両手と首をぶんぶん振って拒否された。


「そんな! 受け取れません!」


「いや、でもこういうのはきっちりしないとなあ」


 金の切れ目が縁の切れ目、親しき仲にも礼儀あり。こういったことをなあなあにしていると、いつしかそれに慣れきってしまう。よくないことになりかねない。


 まあ、この善性の少女に対し、本気でそう思っているかというとそうでもない。ただ、年下に奢られっぱなしなのが落ち着かないだけだ。


「でも、助けてもらったお礼もまだできていないのに……」


 ご冗談をとつっこみたいが、顔を見るに本気で言っているのがちょっと怖い。通行料や宿泊はお礼の範疇ですらないのか。


「お礼なら十分受け取ってるよ。いろいろ教わってるし」


 常識先生の授業は非常にためになる。今後ともお願いしたい所存。


 だが俺の言葉になぜかレティは狼狽えてしまった。


「あ、あれは……お礼にはなりません」


「どうして?」


「その、……わたしも、楽しいから……」


 顔を赤らめ、恥ずかしげにうつむく。


 …………。


 わしゃわしゃわしゃわしゃ。


「ひゃああああああああ! た、たたタイチロウさん!?」


「今しかないかなって」


「何がですか!」


 人にものを教えることの楽しさは分からないでもないが、それを素直に口に出すのは純粋すぎる。


「ううー……」


 髪を押さえ、真っ赤な顔でジト目を向けてくる。流石に恥ずかしそうだ。天下の往来でやることじゃなかった。


 でも駄目だとか、もうやるなとかは言わないんだよなあ。


「ごめん。もうやらないから。絶対」


 軽く手を合わせて謝る。油断した頃にまたやろう。



 結局俺が食事代を払うことで決着がついた。渋っていたが、俺の心のためにも、と頼むとようやく折れてくれた。


 道すがら、異世界の町並みをぼんやりと眺める。俺の目は暗くても明るくても同じように見えるため、人通りがある以外は、最初に訪れた時と印象の違いもない。それでもまだまだ新鮮で面白い。


 石畳の広い道を馬車が行き交い、人々が賑わいながら歩いている。その中には冒険者らしき一団もいれば、俺のような平服の住人もいる。


「乗り合い馬車もありますけど、どうしますか?」


 乗り合い馬車! 心惹かれる響きだ。


 乗ってみたいが、街並みを見て回りたい気持ちもある。徒歩だとそれなりに……聞いた感じは三十分程度歩くようだ。レティはその程度、問題ないらしい。ちんまりしていても冒険者だしな。


 一分ほど悩み、行きは歩き、帰りは馬車でお願いする。


 歩きながら、フォードカリアについて教えてもらった。


 人口一万人の大都市で、入り口は北と南の二つの門らしい。俺たちが入ってきたのは南門だ。


 南は住宅地が多く、北は鍛冶屋や魔道具工房などの工業地区。西は商業地区で、市場や商店が立ち並ぶそうだ。今向かっているのもこちららしい。


 ちなみに東は歓楽街とのこと。興味がないと言えば嘘になるが、いたいけな少女に案内させるような場所じゃなさそうだ。どのみち、夜にならないと開かない店がほとんどだろうし。


 中央は貴族街で、レティは入ったこともないらしい。領主である辺境伯の城は、その中心にあるそうだ。


 遠目に見える高い城は、辺境のシンボルでもあるらしい。


「あの立派な城は、そのうち間近で見てみたいもんだ」


「でも、教会も貴族街の近くですよ?」


 教会とは神殿の拠点のことらしい。……近づかないほうがよさそうだ。城はまたいずれ。


 話しているうちに商業地区に入り、人の賑わいも増えてきた。レティの案内に従い奥へ進んで行くと、モダンな見た目をした、三階建ての木造建築の前で足を止めた。レティがよく利用するという店は、宿屋と一体になった食堂だった。「カナリアの止まり木亭」と看板が出ている。


「宿泊客でなくても利用できるのか?」


「はい。とても美味しいですよ」


 答えながらドアを引く。からん、とドアベルが鳴った。


「いらっしゃいませ! ーーあ、レティシス姉!」


 中へ入ると、少女がこちらを見て笑顔になった。三つ編みのお下げで、丈の長いワンピースにエプロンをしている。明るい声とおでこの出た前髪から、活発そうな印象を受けた。見た目はレティと同年代……つまりは十二、三歳くらいに見える。


「こんにちは。ピリカ」


「こんにちは! 最近見てなかったから心配してたよー、飽きられちゃったんじゃないかって!」


「飽きるなんてないですよ。ブロンブさんのご飯、美味しいですし」


 少女、ピリカは印象通り元気に話す。洞窟で遭難していたことは伝わっていないらしい。レティも言うつもりはないようなので、わざわざ俺から話したりもしない。


「あれ? お兄さんは誰?」


 後ろにいた俺にようやく気づいたようで、不思議そうな顔を向けた。


「こちらはわたしの恩人で、タイチロウさん」


 レティは具体的には言わず俺を紹介する。ピリカはそれをつつくこともなく、


「そっかあ。レティシス姉の恩人ならうちの恩人だね!」


 と笑った。前もあったなこのやり取り。


「おおい、話してないで手伝ってくれ」


 店の奥からのんびりとした声がかかり「そうだった!」とピリカは背筋を伸ばす。


 こちらにどうぞー、と中へ通された。それほど広くはないが、宿の客全員が入れるくらいの席数はある。背の高い観葉植物や、暖かみのある木目調の調度が、明かり取りの窓から差し込む光で照らされている。テーブル席とカウンター席があり、カウンターの奥が調理場となっていた。


 利用客はまばらだ。閑散としているわけではないが、外の人通りを考えるとちょっと寂しい感じはする。


「お父さーん。レティシス姉が男の人連れてきたー!」


「ピリカ!?」


 間違っちゃいないが、その言い方じゃまるで逢い引きだ。食堂中に響く声で注目が集まり、レティが顔を赤らめる。


 カウンターの奥にいた男が「ほほう」と感心するような声を上げた。


「そうかあ。レティシスのお嬢ちゃんもそんな年頃か」


「ちがっ、違います!」


 慌てて否定するレティを、ピリカは楽しそうに見ている。


 ピリカの父は見上げるほどの大男だった。身長だけでなく、胸板、腕、脚と、体の全てに厚みがある。


 シャツからむき出しになった腕は筋肉質で、緑色をした鱗のようなものが部分的に見えた。顔の造りは人間に近いが、全体的に突き出ているというか……どことなく爬虫類味を感じる。


 恥ずかしさを引きずってか、やや早口でレティは言った。


「こちらは、同じ冒険者のタイチロウさんです」


「レティシス姉の恩人だって」


「ほう。ならうちの恩人だ」


 もうええてそれは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ