24 這いよる真相
少し整理させてくれ、と言われ会議は中断と相成った。部屋を後にする。俺とレティだけでなく、なぜかメルも一緒に出てきた。
衝撃からはあっさり立ち直ったようで、爆弾を投下しまくった俺を優しく叱る。
「もう、タイチロウくん」
「正直反省してる」
あんなに驚かれるとは思わなかったが、それを加味しても悪ふざけが過ぎた。
「朝食、ご馳走くれるなら許してあげましょう。二人ともまだでしょう?」
いい店を知っているの、と笑うメル。ひれ伏すしかない。
「でも、迷宮から出てくるってそんなにおかしいことなのか?」
「すっごくね」
魔術書や稀人の件は置いておいて訊いてみると、予想以上の反応が帰ってきた。
人差し指を立て、大人が子供に言い聞かせるように説明を始める。
「迷宮からは金貨や武器や魔道具、滅多にないけど魔術書だって出てくる。魔獣からは魔石も取れる。でも、ほとんどの国は迷宮を発生させないように魔力溜まりを散らしてる。どうしてだと思う?」
「……危ないから?」
「人の手に負えないくらい、危ないから」
真剣な顔で、極めて危険だということを強調する。
「もちろん、魔力溜まりが全部異空間になるなんてことはない。というより、むしろならない方が多いわ」
通常、魔力溜まりは魔獣を発生させる程度のものらしい。
「魔獣を発生?」
話を遮ってしまうが、どうにも気になったので聞いてみる。
魔獣は動物と同じように繁殖で増える他、魔力溜まりから生まれてくるものもいるようだ。
ちなみに魔獣と動物の違いは、体内に魔石を持つかどうかとのこと。
うーん。ファンタジー。
話を戻す。
魔力溜まりは滅多に迷宮にはならない。仮になったとしても、生まれたての迷宮は階層も浅く、大した危険度でないと言う。だからこそ、レティを含めたEやDランクの冒険者に見に行かせた、とも。
「カーム洞窟までならそんなに危険はないからね。……レティシスちゃんがはぐれちゃったのは予想外だけど」
申し訳なさそうにうつむくレティを「責めてるわけじゃないのよ」と優しく撫でる。
「迷宮って成長するのか?」
生まれたての迷宮は安全……ということは、時間が経つと危険度が上がる?
俺の疑問に「ええ」と頷き、説明を続ける。
「異空間化しても、そこに魔力は流れ込むからね。放っておくと広く深く、魔獣も強くなっていく。それどころか、飽和した魔獣が外に出てくることもあるわ」
通常、迷宮の魔獣は迷宮から出ることはないという。理由はよく分かっていないらしいが、魔力溜まりの魔力で生きているからと言われている。
ただ、成長した迷宮からは魔獣が飛び出してくることがある。それも、大挙して。
魔獣の大量発生で滅んだ街はいくつもあり、過去には国ごとなくなった例もあるらしい。
迷宮の発生を未然に防ぎ、発生してしまったら速やかに潰す。
ギルドは、時に国と連携してその役割を担っているそうだ。
「しかも一番奥にいたってことは、あなた、迷宮主ってことでしょう?」
迷宮主というのは、その迷宮のボスとかそんなイメージだろうか。
浅い階層の魔獣ならともかく、奥の奥にいたボスが飛び出てきた。それは確かに異常事態かもしれない。
「でも、俺のいた迷宮って全く浅くはなかったぞ」
ちょうど地下百階あったし、中も迷路だらけで広々としていた。異世界基準では、あれも浅い迷宮なんだろうか。
疑問を口にしようと思ったところで、後押しするようにレティも言う。
「わたしたちが入ったのは最初の階ですが、それでもカーム洞窟の魔獣よりずっと強かったです」
「……今の話、本当?」
メルが眉を潜める。
周期の早い魔力の溜まり方、突然の大迷宮に入ってすぐの手こずる魔獣、飛び出てくる迷宮主。
通常あり得ないことが起こっているのが、異世界初心者の俺でも分かる。……最後のは俺自身なんだけど。
「まあでも当分魔獣が出てくることはないと思うぞ。大体倒したし」
根絶やしにしたわけではないが、ほとんどはコウモリで切り裂いて影に収納した。安心が得られるかは分からないが伝えておく。
だが、メルが考えていたのは他のことだった。
「確認なんだけど、レティシスちゃんたちは迷宮の中に入ったのね?」
指摘され、目を逸らして小声で「はい」と答える。
「でもギルドの依頼だと、発生だけ確認して引き返すはずだったでしょう?」
「それは……はい」
答えながらもうつむいてしまう。叱られている子供のようで気の毒に見え、つい口を挟む。
「反対したけど、他の冒険者に押し切られたらしい」
「た、タイチロウさん!」
レティの話を聞いた上での想像だが、反応からして当たりのようだ。
「まあ、そんなことだろうとは思ったけど……」
メルも同様に感じていたようだが、俺はそれよりも「迷宮に入ったという話を初めて聞いた」という反応の方が気になった。
「戻ってきた冒険者たちからは、迷宮に入ったことを聞いてなかったのか?」
「それは……ええ、そうね」
話していいのか悩んだものの、隠しようもないと思ったのだろう。躊躇いがちに肯定する。
人間、都合の悪いことを隠すのは珍しくもない。だが一つ嘘が交じると、それ以外のことも疑わしく見えてくる。
冒険者の彼らがした報告は、どこまで真実なのか。
同じように考えたのだろう。「本当はマスターに直接話してもらいたかったけど」と前置きし、レティシスちゃん、と呼びかける。
「洞窟ではぐれた時の話、聞かせてもらえる?」
「は、はい」
レティは俺にした説明を、そのままメルに繰り返す。話が進むごとにメルの表情は曇っていった。
「……聞いていた話と……じゃあ、怪我をしていたレティシスちゃんを置いて、彼らは……」
険しい顔をして口元に手を当て、口の中で呟く。
「ごめんなさい。確認したいことが出来たから、食事は二人で取ってくれる?」
そう言うと、返事も聞かずに部屋の中へ戻っていった。
レティと二人で顔を見合わせる。とても気になるが、後を追っても話してはもらえないだろう。
「まあ、行こうか」
「はい」
どちらからともなく歩きだし、階段を降りて下に戻る。相変わらず一階は冒険者たちで賑わっていた。
「あっ」
喧騒の中で、俺の聴力はその呟きを聞き取った。
冒険者風の若い男だった。明らかにこちらを……というより、レティを見て引きつった顔をしている。悪事が秘密がバレたと言わんばかりの表情だ。
その顔を見て、嫌な直感が働いた。
彼女は「置いていかれた」のではなく……「見捨てられた」のではないか。




