23 魔力溜まりと調査
思わぬカミングアウトはあったが、向こうの提案に嘘がないことは理解できた。
「でも、不思議ねえ。最初に会った時もそうだけど、今だって人間にしか見えないわ」
レティから手を離したメルがしみじみと言った。人化している間は魔力も人間仕様となっているようで、感知には引っかからない。
「人に紛れる魔族か。神殿からすれば恐ろしい存在だろう」
バートンが脅すような口振りで言うが、他意はないのだろう。段々と分かってきた。
「神殿にも気づかれてるってはことはないのか?」
「断言はできんが、恐らくはないと思っていい」
「神殿には魔族を使って感知! なんて発想ないもの」
魔族はすべからく滅ぶべし、と思っている以上、身内に魔族を取り込むこともしないか。
いや、魔族を敵視しているからこそ、それを見抜く術を持つべきなんじゃと思うが……。
「そもそも街には結界があって、魔族が侵入するとすぐに分かる」
街に入ってくること自体が考えの外らしい。なるほど。
メルのような魔族の血が混じった存在は、街の出入りにかなりの手間を食うようだ。
「普通はそうでもないんだけどねえ。わたしだけ、魔族の血がちょっと強く出ちゃって」
先祖返りみたいなものだろうか。
ともあれ、俺の冒険者証は無事に交付されることとなった。
「はい、どうぞ。ちょっとだけ魔力を流してもらえる?」
光沢のある銀色のプレートを、テーブルの上にすっと差し出される。大きさや厚みはキャッシュカードとほぼ同じくらいか。言われた通りに指先で触れて軽く魔力を流すと、一瞬淡く光った。個人登録のようなものらしい。
手に取って確かめると、表には名前と「G」のアルファベット。裏に剣と翼の記号が彫られていた。Gは冒険者ランク、剣と翼は冒険者ギルドを示す記号だろう。入り口にもあった。
「冒険者か……」
上にかざして眺めながら呟いた。こうして身分を保証されると安心する。
「おそろいですね」
レティがそう言いながらこちらに冒険者証を見せる。デザインは全く一緒だがランクは「E」だ。
「よろしく、先輩」
「先輩……!」
ちょっと茶化して言ってみたら、予想外に嬉しそうな顔で繰り返した。どこに琴線があるのか分からないなこの子。
「なくさないようにね」
俺とレティのやり取りを微笑ましげに見つつ、メルが注意を促す。紛失による再発行はお金もかかるし、それ以外にもペナルティが課せられるらしい。シャツの胸ポケットにいれたが、落としそうで怖いな。
「それと、登録料は銀貨三枚だけど……」
また立て替えようとしたレティを手で制す。
昨日までの俺とは違う!
「これでよろしく」
ポケットから金貨を一枚取り出して手渡した。
釣り銭として、大銀貨九枚と銀貨七枚を受けとる。……ポケットがちょっと重い。財布か鞄がいるなこれは。
「金貨で支払うなんて豪勢ねえ。でも、あんまり外で見せびらかしちゃ駄目よ」
やんわりと注意される。聞いていた通り、銅貨や銀貨の支払いが一般的らしい。
「金貨どころか大金貨もたんまりあるぞ。迷宮の宝箱からいっぱい出たからな」
俺のその言葉にバートンが反応する。
「迷宮……カームの迷宮か?」
「名前は」
分からないけど、と言いかけて気づく。カーム、それは俺とレティが会った洞窟だ。
「カーム洞窟の奥の迷宮、だよな」
確認するとバートンは「うむ」と頷いた。
「冒険者に調査を命じた。そこの、レティシスもパーティの一人だった」
「そもそも、迷宮の調査って何なんだ?」
気になっていたことを訊いてみると「正しくは迷宮発生の調査だ」と訂正して続けた。
「迷宮は魔力溜まりと呼ばれる、魔力の集まる場所に発生する」
「魔力の、集まる?」
「魔力は人間だけでなく、魔獣や動物、樹や石、大気中にもある」
そういった魔力が地形や外的要因などで流れ、集まった場所が魔力溜まりらしい。
少しばかり魔力が溜まったくらいでは迷宮へと至ることはないが、溜まり続けた結果、異空間化してしまう場合がある。
そうして発生した迷宮が、この世界にはいくつも存在する。
「異空間化……」
地底湖でのことを思い出す。俺の出てきた迷宮は、明らかにあの地底湖と重なっていた。異空間ということなら頷ける。
「通常、そういった場所の魔力は定期的に散らしている」
異空間化する前に溜まった魔力を消費してしまえば、迷宮の発生は防げるようだ。カーム洞窟の魔力溜まりも同様に処理されていた。
「だが数日前、妙なことが起きた」
「妙な?」
「散らしたはずの魔力が、周期より早く溜まっているのを感知したのだ」
ちら、とメルを見てからバートンは言う。感知したのはメルか。
「冒険者数名を確認に向かわせ、迷宮の発生を確認したが……まさか君が先に入っていたとはな」
「入ってたというか、出てきたというか」
俺の返事に一瞬訝しげな顔をし「まさか」と眉を潜める。
「その迷宮の一番奥にいたんだ、俺は」
バートンの眉間にしわが寄り「なんてことだ」と漏らす。これってそんなに驚くような話なのか?
「えっ、そうなんですか」
「あれ、言ってなかったっけ」
横からレティに意外そうな声で尋ねられる。
そういえば、洞窟しか知らないと言ったような。隠していたわけではなく、迷宮も含めて洞窟と思っていたというか、洞窟と迷宮が別枠とは思っていなかったというか……。
「魔術書だって、迷宮から出たもんだしな」
「言われてみればそうですね」
本を読んだら使えるようになった、という話は既にしている。迷宮から魔術書が出てくることがある、ということも。
「その話もあったな……」
眉間を押さえながらバートンが言った。
「君は治癒術を使えるとのことだが、もしや光術の魔術書を持っているのか?」
「光だけでなく、火水土風光闇と揃ってるぞ。中級上級超級って」
俺の返答に絶句する二人。段々面白くなってきたな。
この際、全て話してしまおうか。
「あと俺、稀人なんだ。ここでない世界で生きた記憶がある」
情報の洪水で、バートンもメルも固まってしまった。いかん! 頬が! 頬が緩む!
「タイチロウさん……」
レティにやや呆れた目を向けられてしまう。ごめんなさい。




