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17 戯れ

 神殿騎士たちは魔獣の遺体を処理すると、無事な馬車と馬で去っていった。壊れた馬車は端に寄せられている。


 魔獣の遺体は魔石だけ抜かれ、土術で埋められた。杖を持った複数人が、異口同音に呪文を唱えて大穴を開けていた。ああいう魔術もあるのか。


 しかし、宗教があって、しかも独自の武力を持っていて、貴族制度のある世界か。常識がどんどん更新されていくな!


 神殿騎士の馬車が完全に見えなくなったところで、レティシスがふううう、と長い息を吐いた。


「き、緊張しましたぁ……」


 杖を支えにどうにか立っている有り様だ。俺という爆弾のせいだと思うと申し訳ない。


「俺、貴族相手に思いっきり気安く話しちゃったけど大丈夫かな」


「ど、どうなんでしょうか。世界の違う人たちなので」


 同じ世界に生きていても、世界の違う人たちらしい。まあ、俺も元の世界で政治家や著名人と関わりなんてなかった。似たようなものか。


 あの場で無礼討ちとかされなかったなら、大丈夫だと思いたい。


 街へ向かって歩いていく。街道は整備されており、道は真っ直ぐ続いている。土の道ではあるが、道路の草もしっかり抜かれていた。馬車二台がすれ違えるくらいの広さもある。


「その、タイチロウさん」


 歩き出してすぐ、レティシスが躊躇いがちに呼びかけてきた。まあ、聞きたいことはよく分かる。


「タイチロウさんは、その、人間ではないんです、よね?」


「まあな」


 心はともかく体は違う。


「じゃ、じゃあ、一体どうして……」


 どうして聖女の追求を凌げたのか、と聞きたいのだろう。


「嘘をつかないことと真実を話すことは、必ずしもイコールじゃないってことだな」


「? は、はぁ……」


 ドヤ顔で言ってみたが、不思議そうな顔で微妙なリアクションだった。ちょっと恥ずかしい。


 レティシスは「よく分かりませんが」と言って続けた。


「とにかく、タイチロウさんが無事でよかったです」


 屈託のない笑顔でレティシスが言い、ようやく気づいた。


 神殿騎士に相対してからほとんど話さず、やたらと怯えていたように見えた。それは……巻き込まれた自分への怯えではなく、俺の身を案じてだったらしい。


 お人好しめ!


 つい、両手で頭をわしゃわしゃしてしまった。


「ひゃああああああああ!」


 帽子ごと揉みくちゃにされ、レティシスが悲鳴を上げる。


 手を離すと、距離を空けながら真っ赤な顔を向けてきた。


「な、なんですか!? なんなんですか!?」


「すまん。ついうっかり」


「うっかり!?」


 適当すぎる言い訳に驚愕の声を上げる。


 乱れた髪を手櫛で整え、警戒しながらまた隣に立った。「ううー……」と唸っている。


「ごめん。もうやらないから」


 軽く手を合わせて謝る。また今度やろう。


 ふざけてしまったが、それとは裏腹に救われたような気分になった。第一村人……ならぬ、第一異世界人が彼女でよかったと思う。


 自分も報いねばならないだろう。


 真実の聖女を無事に騙せてもう安全! と気を抜けるほど楽観的ではない。屁理屈こねて嘘ではない! と思い込んでいても、事実と異なることを言ったのは間違いないのだ。


 仮に聖女が気づいていながらも嘘を指摘しなかったのは、聖女自身の意思で見逃された可能性もある。あの場では油断させておいて、もっと大勢の兵を差し向けてくる……なんてことも考えられるのだ。


 プラムベルが自身の安全を第一に考えたのなら、あり得ないことじゃない。


 レティシスの安全が担保されるまでは、守ってあげねばと決意する。



「吸血鬼、ですか?」


「そうそう」


 街道を歩きながら説明する。どうやら街道に魔獣が出ることはほとんど無いらしい。森と違って木々のない草原は、起伏のない地形も相まってとても見通しがいい。襲う側からしても不利なようで、ほとんどは森で暮らしているようだ。


「魔族については詳しくないですが、血を吸うヴァンパイアという種族は聞いたことがあります」


 なるほど。この世界においても吸血鬼はメジャーな怪物らしい。


「タイチロウさんは、その吸血鬼、なんですね」


「そうらしい」


 なんの因果かそうなった。


 レティシスはしげしげとこちらを見て、端的に感想を述べた。


「人間……にしか、見えませんね」


 そうじゃなきゃ、平和に切り抜けられなかっただろうなあ。神殿騎士たちを思い出し、ぼんやり考える。


「あと、人の血を吸うつもりはないから安心してほしい」


 なぜか聞かれなかったので、こちらから言っておく。


 血が欲しくなったら森で適当な魔獣を狩るか、あるいは影収納にたんまり入っている死体から取るつもりだ。


「はい、分かりました」


 端から心配していない、みたいな笑顔で頷かれた。


 ……この子、ちょっとは人を疑うことを覚えた方がいいのでは。


 まあ、信用されていると思おうか。


 これまでの感覚から、日にコップ一杯程度飲めれば大丈夫なのは分かっている。……時間の感覚に乏しい洞窟内での推量のため、大体の目安でしかないが。


 三日くらい飲まないでいると乾きが強くなり、更にそのままでいると我を忘れる。


 燃費がいいのか悪いのか。


 人の血を飲むのは嫌悪感が強すぎるし、うっかり飲み干してしまったらと考えると怖い。そうなる前に補給しなければ。


「そういえば」


 とレティシスが話題を切り替える。


「タイチロウさん、金貨を知っているんですね」


 リリエラとのやり取りを言っているのだろうけど、


「持ってるだけで、知ってるわけじゃないんだ」


「えっ」


 謎かけのようなことを言ってしまったが、そのままの意味だ。


 迷宮の宝箱から出てきたので持っているが、価値を知っているわけじゃない。


 そう説明すると、納得したように頷いた。


「それで、フィセルナかレヌーヴか、なんて聞き方をしたんですね」


 そのまま、通貨の説明をしてくれる。ある意味最重要だ。貨幣とその価値は、人間社会で生きていくのに切り離せない。


 通貨は世界共通で、鉄貨、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨があり、それぞれ十枚で一つ上の貨幣と同価値らしい。鉄貨十枚で銅貨一枚、銅貨十枚で大銅貨一枚、ということか。


 街で使われるのはほとんど銅貨から大銀貨までで、鉄貨は端数合わせに、金貨以上は商人同士の取引くらいでしか使われないそうだ。


 パン一つで大銅貨一枚、店での食事一回で銀貨一、二枚くらいで、金貨一枚あれば三〇から四〇日は食べていけるらしい。物価が違うので単純な比較はできないが、金貨一枚で十万円くらいか?


「貨幣にはそれぞれ由来というか、別名がありまして」


「それが、フィセルナとかレヌーヴ?」


「そうです」


 大昔の偉人とか、伝承の精霊とやらから名づけられたようだ。


 大金貨がフィセルナ金貨、普通の金貨がレヌーヴ金貨らしい。


 キュレム銀貨、というのも持っている。これは大銀貨だと教えられた。


「古い言い方ですし、今はほとんど使う人もいませんが……」


 なるほど。つまり俺は「金貨三〇枚」に対して「金貨って、金貨なの大金貨なの?」と訊いたのか。馬鹿丸出しじゃねえか。


 ギルドカードの件もそうだし、学んでいないことを適当に言うもんじゃないな。


「今後ともお願いします、常識先生」


「常識先生ってなんですか!?」


 もう一つ学んだ。彼女はからかうといい反応をくれる。

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