14 お勉強
残った死体は中級地術を使って埋めた。レティシスが呆然と「地術まで……」と呟いている。
そういえば、人化した状態でも問題なく魔術は使えているな。
ちなみに魔石以外に使い道は? と聞いたところ、毛皮や爪や牙、肉などにも価値はあるらしい。「余裕があれば持っていくこともあります」とのことだが、レティシスの鞄はさほど大きくなく、今は影収納も使えないため捨てていく。
また魔獣が来ない内に歩き出す。移動中は異世界常識勉強タイムだ。
「魔石と魔核って違うのか?」
差し当たって、気になったことを聞いてみた。
迷宮の中で、一部の敵は死体を残さず消えた。火の玉などの実体のない存在だったり、リッチやゴーストなどのアンデッドだ。そういった敵はが落とした物は、影収納だと【○○の魔核】と表示されていた。
魔石と魔核、大きさ以外の見た目に違いはないように思える。
「基本的には同じ……だったはず、です。ただ……魔力だけで動いている、魔生物? の魔石を、魔核と呼ぶんだった……かな?」
不意の質問に、思い出しながら答えるもたどたどしい。常識ではなく、専門的な分野なのか。
「魔核を持つ魔生物は、魔術に優れている個体が多いと言われています」
「なるほど」
確かに出くわした魔核持ちはそんな感じだった。
「あと、魔石よりも魔核の方が、純度? が高いそうです」
純度が高いとどうなのか気になったが、詳しくは知らなさそうなので質問を切り上げる。
ともかく血が通っている生物にあるのが魔石で、魔力メインで活動する非生物にあるのが魔核、と思っておけばいいのか。
俺の体にも魔核があるのだろうか。
「魔石と違って魔核はあまり見ません。そういった意味でも、高価で貴重だと聞いたことがあります」
……せいぜい狙われないようにしよう。
魔術についてのレクチャーも受けた。
魔術の行使には呪文の詠唱がほぼ不可欠で、それもただ唱えればいいというものでもないらしい。
「言葉一つ一つに魔力を込めながら詠唱を続けて、何より、発動にはイメージすることが重要です」
「イメージ、ねえ」
燃え盛る火炎を、宙に浮く水の球を、そびえ立つ土壁を、渦巻く風を。
治癒するなら、血が止まって傷がふさがるように。
イメージを持たねば、魔術は著しく効果を落とす。
翻って、俺は手を向けて魔術名を口にするだけだ。詠唱どころかイメージすら持っていない。
それなのに問題なく使えてしまっている。むしろ、思わぬ高威力に何度も驚かされている。
この体、魔術に関してもかなりハイスペック? これは吸血鬼が、いわゆる「魔力メインの非生物」に当たるからだろうか。
「それと、魔術には適性もあります」
自分に合った適性の魔術しか、基本的には使えないらしい。
適性は一つあればいいそうで、一つもない場合も珍しくはないようだ。
「魔術師の中には、二つ三つと使える人もいますが……」
言いづらそうに言葉を切る。うん、俺も気まずい。風だの土だの自由に使いまくってるしな!
魔力を感知し、適性を知り、呪文を学び、想像力を養い、魔力の発現を体感し、そこでようやく魔術の習得に至る。そして発動には高い集中力と繊細な魔力操作が求められる。
そういったプロセスを吹っ飛ばして魔術を使っている俺は、真っ当な魔術師からしたら溜まったものではないだろう。
「レティシスさんも魔術師?」
そうだろうな、と思いながら訊いてみる。錫杖のような、先端に飾りのついた杖を持っているし、前衛で殴り合うタイプには全く見えない。
予想に違わず「はい」と頷いた。
「一応、治癒術を修めています」
治癒術の使い手も大まかには魔術師だが、治癒術師と呼ばれることが多いらしい。
「……タイチロウさんは、どこで治癒術を学ばれたんですか?」
「いや、それも本で」
さらっと答えると、驚きつつも「やっぱりそうか」みたいな顔をされた。
どうかしたのかと聞く前に、目をそらして小声で言った。
「……その、光魔術の適性は、あまり……多くないので」
含みのある口振りだ。
言葉通りでない気もするが、話しにくいことならつつくべきじゃないか。
レティシスに疲れの色が見えてきたところで休憩を取った。
もっと早く提案してあげるべきだった。人化していても食べ物や水は必要なく、疲労にも鈍い。そのせいでうっかりしていた。
木陰に腰かけ、鞄から水筒を取り出して喉を潤している。
この水筒、魔道具なる魔法の道具らしい。魔力を込めると水が沸いてくるとか。
「水魔術に適正がなくても、飲み水が確保できるってことか」
ただ、流石に永久に使えはしないようだ。魔石に込められた魔力を使い切ったら、魔石を取り替えねばならないらしい。
なるほど、魔石はこういった形で使われているのか。
ある意味、地球の化学より発展している面もありそうだ。
「今さらだけど、食べ物はどうするんだ?」
出会ってから、レティシスは水以外口にしていない。
「携帯食料を持っています」
ぽん、と鞄を叩く。さっき、そこに採取した魔石入れてましたよね……。衛生観念! とかつっこんじゃいけないヤツかなこれは。
魔獣にそのままかじりつく俺が言えたことじゃないが。
携帯食料は、干し肉や乾燥させた果物などが一般的らしい。
「言っちゃあれだが、味気ないな」
レティシスは困ったように笑う。まあ、魔獣が襲ってくるかもしれない中で、キャンプよろしく調理なんてできないか。
「残りは多くないですが、二人で分けても街までは大丈夫です」
「なら十分足りるな。俺は食べる必要がないんだ」
ちょっと驚いた顔をされる。それから、何か聞きたげにこちらに目をやった。だが、口を開こうとしては躊躇ってを繰り返している。
気を使わんでもいいのに。
レティシスの隣に腰かけ、木に寄りかかる。
「気になることなら答えるよ、なんでも」
促してみると、今度はすごく驚いた顔をして、それから頬を押さえた。
「出ちゃってましたか? 顔に」
「出ちゃってましたね。思いっきり」
同時にくすくすと笑う。やがて細く息を吐いて、引き締めた顔を向けた。
「その、訊いてもいいですか?」
「ああ、どうぞ」
慎重に質問を考えているのか、言葉を区切りながらレティシスは言う。
「……タイチロウさん、洞窟で、『人間じゃない』って、言ってましたよね」
確か、魔族かどうか訊かれた後にそう言った。頷いて続きを聞く。
「タイチロウさんが人でもそうじゃなくても、命の恩人であることに変わりはありません。でも……種族によっては、街でよくない扱いを受けるかもしれません」
申し訳なさそうに目を伏せる。飽くまで俺のためを思っての発言とは、お人好しめ。
こちらもぼかさずに答えるのが礼儀だろう。
ただ、吸血鬼と言って通じるかどうかが分からないので先に確認しておく。
「吸血鬼、って言葉はこの世界にも」
あるのか? と続けようとした言葉は遮られた。
ドンッ、という大きい音が聞こえ、道の奥から煙が上がる。今度は何だ?




