12 事情とお礼
大変だったね。ところで街まではどのくらいで着くのかな。
と話題を切り替えられれば苦労はない。相手からも言ってしまったことを後悔してそうな空気を感じるが、聞いてしまった以上スルーするのも不自然すぎる。
言葉を選んで問いかけた。
「何があってそんなことに?」
「その……元々はギルドの依頼で、迷宮の調査に来ていたんです」
ギルド? 迷宮の調査? 気になるが、ひとまずは聞きに徹する。
「わたしも入れて七人の、臨時のパーティで洞窟に来て……その奥の迷宮も見つけました」
十中八九俺のいた迷宮だろうが、黙って続きを促した。
そこまではよかったんです、と、うなだれながら続ける。
「本来は見つけ次第引き返すはずでしたが、……話し合って、入ることになってしまったんです」
口振りから、入るべきではなかったという気持ちがひしひしと伝わってくる。というか、レティシスの気質からして戻るべきと提案したのではないか。押しきられそうな性格に見えるし、話し合ったというのも怪しいものだ。
パーティを庇うというより、ここにいない者を悪し様に言いたくないのだろう。言葉選びにそんな気配を感じる。
「中は複雑な迷路になっていて、洞窟より強力な魔獣で溢れていました。それで、結局引き返すことにしたんです」
強力……強力なのか。ううん、下層の敵は洞窟より大きいし強かったと思うけど。
あと今さらだけど、怪物ではなく魔獣というのがスタンダードな呼称なんだろうか。魔族との関連性も気になる。
「どうにか迷宮は抜けられましたが、洞窟で足場が崩れてしまって……わたし一人、落ちてしまったんです」
洞窟内は不安定な足場で、上へ下へと婉曲した地形だった。上の足場が崩れて下に落ちることはあり得そうだ。
「足を捻ってしまいましたが、魔力も回復薬も尽きていて……」
魔力って尽きるのか? ああもう、聞きたいことが多すぎるな。
落ちた時のことを思い出しているのだろう。レティシスは身を震わせ、肘をぎゅうっと押さえている。
足首の包帯と、その他の細かい傷は落ちた時のものか。だが、
「助けは呼ばなかったのか?」
「その、大声を上げたら、魔獣も呼び寄せてしまうと思いまして……」
声は上げられなかった。そして、探しに来てくれることもなかった。
落ちたレティシスを助けるか、そのまま六人で洞窟を出るか。彼らは後者を選んだのだろう。まあ、聞いた感じ迷宮探索で満身創痍だったっぽいし、自分達の身を危険にさらすのと、魔力の尽きた一人を見捨てるので天秤にかけて、我が身の可愛さに傾くのはしょうがない気もする。
臨時のパーティという言葉から察するに、信頼の置ける仲間というわけでもなさそうだ。
「……落ちてしまってからは身動きも取れず、じっと隠れていたんですが……」
「やがて発見されたと」
こくりと頷く。満足に歩けない状況で、来るかも分からない救助を待つ気持ちたるや想像を絶する。
まして魔獣に囲まれ、そこに現れたのがコウモリの群れから飛び出てきた男なら、出会ったときのパニクりっぷりもむべなるかな。
「タイチロウさんが来てくれなかったら、わたし……」
うつむいていた顔を上げ、こちらに向き直って頭を下げた。
「改めて、ありがとうございました」
「もういいって」
手を振って頭を上げさせる。もう十分お礼は言われた。俺はそう思っていたが、レティシスは言葉だけじゃ不十分だと思っているようだ。
拳をぎゅっと握り、前のめりになって言う。
「絶対、ちゃんとお礼しますので!」
意外と頑固だったりもするのか?
「いくつか聞きたいことがあるんだけど」
「はい、なんでしょう」
慣れてきたのか、段々と淀みなく話してくれるようになってきた。
お礼の件はうやむやにして、先程の会話で気になったことを聞いてみる。
「ギルド、って何?」
きょとん、とした顔をしてから「ああ」と気づいたような声を出す。
「そういえば、タイチロウさんは稀人でしたね」
そのマレビトというのも気になるが、今は置いておく。
「ギルドとは、冒険者を束ねている組合のことです。冒険者はギルドを通して依頼を受け、報酬を受け取っています」
冒険者。なんだかロマン溢れる言葉が出てきた。
「ギルドは各国に支部があって、国からは独立して運営されています」
「民営の組織なのか」
つまり冒険者も国には属さない?
「依頼は魔獣の討伐から街の雑用までいろいろあるので、十二歳以上であれば誰でも登録できるようになって
います」
登録したてで慣れない内は、雑用で小遣いを稼ぐこともできる、ということか。
「他にも商業ギルド、鍛冶ギルド、錬金術ギルドなどがありますが、冒険者が『ギルド』とだけ言う場合は、大抵冒険者ギルドを指しますね」
なるほど。端的で分かりやすい。
先程、ギルドの依頼で迷宮の調査に、と言っていた。つまり、
「レティシスさんも冒険者?」
「はい、一応は……」
やや恥ずかしげに答える。
もしやと思ったがやっぱりそうか。だが、なぜ登録したてに見える彼女が、街中の雑用ではなく迷宮の調査に?
「でも、まだまだ一人前にはなれません。登録して、もう三年も経つのに……」
「え」
なんですと?




