表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/32

10.家路-1

「――にしても」

 助手席に座ったクルマが、山神さん――お爺ちゃん、お婆ちゃんの家から走り出し、やがて見えなくなると、わたしは姿勢をもどして隣席でハンドルを握る課長補佐に話しかけた。

「にしても、課長補佐って、沢山おクルマを持ってらっしゃるんだそうですね。お婆ちゃんたち……と、山神さんご夫婦からそう(うかが)いました」

 現に、今わたしが乗せてもらっているのも、助けてもらった時とは別のクルマだ。

「あ、聞いたんだ」

 言われて、課長補佐は頭をかくと、あははと笑う。

「実はそうなんだよね。これでも最近は控えてるんだけどさ――良いな、って感じるクルマを見ると、ついつい買ってしまうんだ」

 いやいや、『ついつい買ってしまうんだ』って、そんな気軽に買えるモノなの、クルマって?

 それも、(このクルマだってハンドルが左についているから)『外車』だよ、ガ・イ・シャ。

「でも、とってもお高いんでしょう?」

 だからか、通販番組の合いの手みたく、つるっと、わたしはそう言っていた。

「……いや、そう決めつけたものでもないよ」

 そんなわたしの言葉……、セリフまわしに面喰らったのか、すこし目をまるくした課長補佐だったけど、頬をゆるめてニコリとすると、苦笑しながら答を返してきた。

「まぁ、フェラーリだとかポルシェとか、或いはメルセデスみたいに、いわゆるスーパーカー、走る不動産的な投資対象、自分自身に(はく)を付ける手段としてのステータス用のクルマなんかは別として、『普通の外車』は、そんなお高いモノじゃあない」

「そうなんですか?」

「そうだよ。だって、考えてもごらん? きみの言う『外車』ってのは、日本人にとってそうなのであって、そのクルマを造った国の人たちからすれば、『国産車』だよ? 『外国の人』は、誰もがみんな、高級車にしか乗らないお金持ちばかりかい?」

「……う~ん。そう言われると、それは確かにそうですね」

 でも……、

「でも、たとえば、このクルマの場合は、シートが革張りだし、車体のサイズも大きいし、やっぱりお値段しそうなんですけど」

 チョンチョンとシートの座面をつついてみせた。

「いやいや、新車だったらともかく、これは中古だし、そんな事ないって。(少なくともイニシャルコストはね……)」

 んん? なんか、わたしの指摘に、それを否定しながら課長補佐が、最後の方でなにやらゴニョゴニョ言った気がする。ハッキリ聞きとれなかったが。

「そうなんですね。これも『普通の』クルマだと。でも、このクルマ、なんだか、とても乗り心地がマイルドって言うか、父のクルマより良いですよ?」

(ど)田舎のこととて、忘れられたと言うか、たぶん交通量が少ないせいで補修整備の予算がおりないんだろう――ぱっと見だけでも、いま走ってる道は、あちらこちらで舗装が欠けて、穴があいたようになってしまっている。

 なのに、そんなデコボコだらけの悪路を課長補佐のクルマは、(ギャ)(ップ)にはまった衝撃を乗っている人間にほとんど伝えてこない。

 まるで大きなフネみたいにゆったり揺れるだけ――ガツン! と腰にクるような……、舌を噛みかねないような激しいショックを一切つたえてくることはないのである。

「お、そう?」

 課長補佐の顔がほころんだ。

 まるで自分が褒められたみたいに、にこ~っと笑う。

「ちなみに、安藤くんの親父さんは、何に乗ってるの?」

「えっと、確か……」

 わたしは、記憶をさぐって車種名を言った。

 たしか、国産車の中でも割と上位のモノだったと思う。

「なるほどね」

 課長補佐はうなずいた。

「くさすワケじゃないけど、それだったら、このクルマの方が乗り心地については上だろう。なにしろ、このクルマは、『妙』なことを考えつくフランス人の手になるもので、油気圧式サスペンションだなんて、一種独特な仕掛けが組み込んであるから、さ」

「ははぁ……」

 そう合いの手をいれながら、なんだか、わたしはイヤな予感がしてならなかった。

 そう。趣味の道具を自慢する時の父とおなじ雰囲気。

 ツボにはまると逃げられず、延々とウンチク話を聞かされるハメになってしまう、アレ。

 だから、

「え、えっと……、そ、それで、課長補佐の、このクルマはなんて名前なんですか?」

 背中につめたいものを感じつつ、わたしはそう質問などしたのだった。

「え? ああ、このクルマはね、シトロエンてメーカーのXMって言うんだ。ホントはそのメーカーのDSなんて良いな、と思ってたんだけどね……、妥協しちゃった」

 てへ♡、みたく……、少し、気落ちしたみたく言う課長補佐。

 う~ん、『DS』? そんなのゲーム機くらいしか知らないんだけど――そう思いながら、わたしは『次』の話題(しこみ)を探すのだった。

 って、何かヘンだな。どうして、わたしがこんな苦労(?)をしているの?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ