3分41秒後の私達
バスケの豆知識?を少しだけ……
ゴールの点数について
普通の1ゴール2点。3ポイントは3点。フリースローは1本1点。
ファールについて
個人ファールは5つで退場。チームファールは、7つだったかな?でフリースローになったはず……
4000字のお話です。お付き合いいただければ、幸いです。
ピィー!
主審の吹く笛で、応援鳴りやまない体育館が一瞬で静まり返る。
現在、試合中は私達だけで、試合後の選手や応援に来ていた保護者や友人に学校関係者が緊迫した女子バスケットボールの地区大会決勝戦、第4クオータを手に汗を握り見ていた。
主審のジャッジを皆が固唾を飲んで待っている。
「白7番、プッシング!チームファール7つ目のため黒2スロー!」
相手選手に突き飛ばされた私は、コートに尻餅をついていた。
見上げると、私をマークしていた彼女が主審のコールを聞き手を挙げている。
「ナイスファイッ!愛」
私に手を差し出してきたのは、チームメイトの由佳だ。
その手を借り立ち上がったところで、監督がタイムアウトを取った。
◆
夏の地区予選大会は、県大会とインターハイへ続く大会。
小学生のときから続けていたバスケットボールを高校に入ってからも続けてきたが、私にとって最後の大会と決めていた。
同時に、私達が負けた瞬間に女子バスケットボール部の廃部も決まっている。
同学年でたった5人の部員、万年1回戦負けの部は、下級生の部員も集められなかったのだ。
最後の大会へ想い出作りにと、昨年以上に取り組んだ練習の集大成を出し切るつもりで、3日間、走り続けた。
同一日の試合に齷齪しながら、3日間でこなした試合は5試合。今が6試合目で決勝戦だ。
既に私の体力は限界値を超え、チームメイトの動きに引きずられるように走っているに過ぎなかった。
◆◆
「愛、ナイファイト!」
「早く!時間ないよ!」
チームメイトが、私の尻を叩きベンチへ戻っていく。
ぽやっとしていた私は、ミヤに呼ばれ駆け足で戻ると、すでに始まっている作戦会議。
2スローもらった私をそっちのけで進んでいく作戦をぼんやり聞いていた。
手近にあったスポーツドリンクを口に含むと、喉にまで甘さが残ってしまい気持ち悪く水を探す。
「愛、聞いている?」
「あぁ、うん……聞いてる」
「……ん」
曖昧に返事をして、手だけで水を探しているとスッと水が差しだされた。
マネージャーもいないので、男子部員がサポートをしてくれている。
「……ありがとう」
水を持ったまま私は作戦会議へ混ざるが、監督は私に全く期待していないことも知っている。
今更作戦を聞いたとしても、何の役にもたたない私。ペットボトルの蓋を開け水を流し込んだ。
私は、バスケットボールが下手だ。
バスケが好きという気持ちだけで、高校3年間もきつい練習に耐えてきた。
競技を続けてきた体はボロボロで、体育館とぶつかってあちこちに消えない傷が残っている。
「愛、1本目を必ず入れろ!2本目外して、エリがフィニッシュ!」
「監督、こんなこと言うのはなんっすけど……」
「何、エリ?」
「愛が2本とも狙ったほうがいいと思う」
エリが私のフォローをしたが、監督は聞き入れるはずもない。
「愛が外す前提で話す」
現在11点差あり、シュート6つ、または3ポイント4つで逆転となる。
1本目のフリースローを決め1点、2本目を外してエリがゴール下でゴールを決めれば2点取れ、3点取れる算段で監督の指示が出た。
役に立てず、体力は底をつき、走ることを止めてしまいたい私は、水を一口飲み、適当にうんと頷く。
ブザーが鳴りコートに戻る。
「愛、2本とも狙っていきな!私達の試合。私達は愛を信じてる」
ミヤが私へ伝えてきた。あくまで試合は、私達のものだと。
期待を背負っているわけでもないから、後悔だけはしないようにと耳打ってくる。
「いくよ!ファイ!」
「「「「オウ!」」」」
円陣で気合を入れ、5人はそれぞれ位置に着く。
私はフリースローラインへ両足の足先をピタッと付けた。
フリースローのためだけのルーティン。
リング正面に立ちリングの三分の一歩右にずれる。
位置が決まったら、主審からボールをもらい右足を一歩引く。
ダンダンと腰を屈め両手でボールを2回突き、胸前に持ってくる。
目を瞑り、胸の位置から腕を伸ばし白鳥が羽ばたく様に両手からリングにボールが吸い込まれていくイメージをした。
ふぅと息を吐く。
見据えるリングに向かって膝を曲げ体全体で打つ。
放物線を描くようにリングへ吸い込まれていくボールは、ザシュッといい音と共に入った。
10点差。
スコアラーが点数を捲る音の後、主審からボールを渡され同じルーティンで作戦無視をし、入れ!と願いフリースローを打つ。
ザシュッ!
「ディフェンス、プレス!ケイ、前へ走れ!」
入った瞬間からボールが床に落ちる前に次のプレーが始まる。
9点差。
1分1秒が惜しく、由佳が私達に指示をする。
「エリ上がって!ミヤ絶対離すなよ!」
「由佳も抜かれるな!」
「ダブルチームでフロントで決着するよ!」
今日一番の動きをしたエリのおかげで、ボールをコートに入れれず、慌てた相手がチームの穴である私のマークしている彼女へパスを出す。
ボールがコートに入った瞬間、たまたま相手をサイドラインへ追い込むことができ、エリにフォローされダブルチームが出来た。
私達を抜きたい彼女とゴールに近づけさせたくない私とエリ。
お願い!と倒れながらチームメイトに託そうと彼女がパスを出したとき、見計らったかのように由佳がスティールする。
「ナイスパス!」
きつい試合中にも関わらず由佳は笑い、3ポイントラインにピタッと足をつけ、シュートを打つ。
ゴール下まで行くと予想していたディフェンスは、由佳を通り過ぎてしまい反転してブロックに飛ぶが間に合わない。
不敵に笑う由佳が、シュートを打った手をグッと握る。
主審が3ポイントを示し、腕を振り下ろし点が入った。
「あと6点!」
「次ね!」
「愛、気を付けて!」
その後もスティールや相手のミスで、立て続けにケイとエリがシュートを1本ずつ決め2点差となった。
流れがこちらのチームに傾いている……追い風を感じずにはいられない。
残り57秒。
お互いが1本を狙う、攻防。
1ゴールで同点延長、3ポイントで逆転。
逆に1ゴール決められれば、勝てる手段はもうない。
緊迫していくコート上の選手たちの汗は止まることはなかった。
◆
「落ち着いて!私達が勝ってる、ゆっくり行こう!」
相手ガードが声をかけると、浮足立ったチームは落ち着いてしまう。
「はい、こっち!」
しまった!と思った瞬間、ゴール下でディフェンスの私を振り切り、彼女はリングへ向かいジャンプシュートを打つところだった。
間に合わない!手を伸ばしたが、届かない。
「愛、諦めるな!」
シュートモーションに入っている背の高い相手選手に背の低い由佳がブロックに跳ぶ。
由佳の手はボールに届かず、シューターの彼女腕を叩いてしまい主審の笛が鳴り響く。
ピィー!
「黒5番、イリーガルユーズオブハンズ!白2スロー!」
「黒5番5ファールで退場です」
「「「!!!」」」
無常に聞こえるアナウンスに私達は項垂れた。
このタイミングで、2スローを与えただけでなく、私が由佳をベンチへ追いやってしまった。
残り24秒を4人で戦う絶望感。
「何、下向いているの?24秒もあるんだよ?2ゴール行けるでしょ!」
「いや、無理だよ?」
「リスタート早くとリバンだよ!最後くらいしっかり跳びな、愛!」
ヘロヘロの私の背中をバシンと叩く由佳。
ごめん、ごめんね。私がもっと上手かったら、もっと体力があって走れていたら、由佳に負担をかけずにすんだ。私のファール枠で、由佳をコートに戻せたら……無理なことを頭の中で繰り返し考えてしまう。
私は潤む目を擦り、残り24秒を由佳の分まで走れと限界を超えて動かない足を叩く。
「取ったら、速攻!リスタート早くね!相手は4人になって油断しているから、チャンスだよ!」
コートから出る由佳を見送る私達。
定位置に立ち、見守る相手のフリースローの1本目はリングに嫌われた。
2本目もリングに嫌われ、スクリーンアウトができた私の元へボールが落ちてきてしっかりボールを掴む。
練習どおりサイドに開いたケイにパスを出し、先行したエリへ縦パスが通る。
反対側からミヤが走って中央へ続き、そのまま切り込んで行ったがディフェンスの戻りも早く中を固められてしまう。
一人少ない私達。ミヤが、攻めあぐね、エリにもケイにもピタリとディフェンスがついている。
遅れて走った私。
走れ走れ!由佳の分も!と私は私自身を叱る。
「ミヤ!」
囲まれたミヤと目が合った瞬間、リングと0角度の3ポイントラインへと展開した私へパスが通った。
残り3秒、息を整える暇なく手に持った瞬間に打つ。
同時に耳に聞こえたのは由佳の打て!と叫ぶ声。
ボールはリングへと向う。
「チップ!リバン!」
ディフェンスの指にかかったらしい。
精魂尽き、打ったと同時に私はその場にへたり込む。
主審が3ポイントと手を翳した瞬間、試合終了のブザーが鳴った。
ガンっ!と音が耳に聞こえてきた。シュートはリングに嫌われてしまったようで、終わった……私達の夏はと、私は項垂れる。
ザシュッ、ダン……タンタンタン……
静まり返った会場。
ディフェンスでボールの行方も見れなかった。
リングに嫌われてたのはわかっていたのだ。入らなかったのだろうと私は落胆した。
あまりに長い時間の静寂に、顔を上げ主審を見上げると、大きく体を揺らし最後の最後で3点入ったことを知る。
瞬間、涙が溢れた。
土壇場での3ポイント。
私の得意な0角度であっても、試合での成功率は1割にも満たない。
チームメイトの4人が、駆けてきて私に抱きつく。
ブザービーター奇跡の逆転劇を起こした私達に割れんばかりの歓声。
「勝ったよぉ!」
「おいしとこもってきやがって!」
皆に頭をぐわんぐわんと揺すられ、わしゃわしゃっと撫でられクラクラする。
「ほら、愛、立って!礼いくよ!」
由佳に引っ張られ立ち上がり、整列する。
目の前にいる彼女たちと、私達の涙の種類は違う。
「礼っ!」
「ありがとうございました!」
たった5人の女子バスケットボール部。
強豪鬩ぎ合う中、廃部寸前の弱小チームの地区大会優勝の瞬間であった。
- 終 -
読んでくださり、ありがとうございます!
今回、お誘いいただき、いでっちさんの企画『スポ魂なろうフェス』に参加させていただきました。
VIP枠ということで、ありがたいことに朗読枠をいただくことになり、とても光栄に思っております。
スポーツということで、色々と考えたのですが……見るのは好きなので、野球・バスケ・フィギアスケートなど……考えてみました。
バスケは部活動でしていたこともあり、バスケを題材に書かせていただきました!
私がしてた頃とイロイロとルールが変わっていて、ドキドキなのですが……第4クオーターの短い間の攻防をとなりました。
たぶん、1番この中でも1番書きたかったのは、フリースローのルーチンのところ。
実際、私がしてたものでして……必ず皆さんも1つはおまじない程度にあるんじゃないかなと思って入れたところです。
監督に期待されてなかったのも、私ですし……5人のメンバーで何試合もしたのも想い出ですね。
学生時代の楽しかった想い出として、今回残せたことは嬉しい限りです。
結果は、お察しのとおり、延長の末、私達はズタボロに負けたんですけどね。
いでっちさん、素敵な企画、ありがとうございました!
来年の春、朗読を楽しみにしています!
いでっちさんより、タイトルロゴをいただきました!
コハ様(@KnjTs)の一筆だそうです!ステキですね(●´ω`●)