第九十八話 絆の証明
昼食をいつもの面子と軽くとって一発目の競技。
『これより午後の部を始めます。まず最初に今年から男女混合も可能となった二人三脚です。なお、この競技はエキシビジョンマッチにつき、誰が勝っても得点は無効となります』
淡々としたアナウンスのあと、足を紐で結んだ俺達が立ち上がった。
出場者は、俺海原ペア、雅樹柚子ペア、会長アメペア、そして。
「龍輝! 負けないぞ! 父さん達だってな! わっはは!」
「仲良しさなら負けないわ~」
俺の両親ペア。
待機場所に現れたときには嫌な予感がしたが親子で競技に出るとかどんだけ仲良しなんだよ。山田家。
「現役の学生に勝てるとでも?」
「勝てない道理はない!」
ま、確かに。
今年で四十中盤を迎える二人だが日々の運動量なら俺と大差はない。
生徒の方は興味もないのか仲良し同士でお喋り中。それくらいでいい。あくまで試用だ。
「うっわ結構はずい」
「そうか? 楽しそうじゃね? 来年もこの面子で出ようぜ!」
「そうだね。外部の人が入ると警備とか大変だけどね?」
各々この競技に思い出というか感想というか、思うところはあるらしい。
それは俺も同じ。見世物同然で恥ずかしくはあるが、今ここに立てるのは今までの準備があってこそ。結構バラバラに動いていたがそれが一つになった瞬間というのはかなり新鮮だ。
ま、途中俺の記憶がないところで事故はあったらしいがそれはそれ。今考えると横の柔肌に反応してしまいそうになる。
「勝ちましょうね?」
「勿論だ」
『位置についてよーい......ドン』
少し間が開いてパァン! という軽い音とほぼ同時に俺と海原は一歩、また一歩と徐々にスピードを上げていった。
足元は見ずに完全にテンポと練習での調子を保つだけ。それが二人三脚における最速を作り出す最低条件でありあとは、各々の筋肉や身長差など今すぐにはどうにもならないことがある。
横を見る余裕もなくただテンポを崩さないことに注力していたがふと視線を現実に向けてみれば急激な脱力感と焦りがこみ上げてきた。
「遅いぞ龍輝! 二人の絆はまだまだだな!」
「お先に失礼するわ~」
息をまったくずらさず俺の方向を見るというよそ見行為をしながら俺達の横を平然と過ぎ去っていった。
そしてそのまま数十メートル先のゴールテープをぶっちぎりの一位で通過していった。
脱力感を脇腹に加わる締め付けで抜け出し、そのままのペースを保ち結果三位。
柚子と雅樹のペアに僅差で届かなかった。
「龍輝のパパママ速すぎでしょ」
「しかもよそ見とかバリバリしてたぜ! いやー途中笑いそうになったわ!」
「あの二人に勝てるペアとかいるのかよ」
そこそこ練習を積んだ俺達がボロボロに負ける相手だ。陸上部が本気で二人三脚を練習して全速力で走って勝てるかどうかだろう。
『ただいまの競技、一位 山田夫妻 二位 館林武内ペア 三位 山田海原ペア 四位 高城 アメリアペア の最終結果が出ました。これで男女混合二人三脚エキシビジョンマッチを終了します』
再びアナウンスが流れ二人三脚が終了した。
「先輩、途中諦めませんでしたか?」
ジト目で見上げられドキリとしてしまう。それは若干諦めかけたからか、単純に可愛かったからかは分からない。
「そんなことはない。圧倒されただけだ」
「ならそれでいいです。ですが! わたし達の絆がありながら三位というのは認められません! もっと高いはずです!」
絆を数値化出来るなら、俺と海原はきっと三位で合っていると思う。
俺が生まれる前から一緒の夫婦と生まれた時から一緒の幼馴染。年数でいうなら十年を余裕で越える。
それに比べ俺と海原は初対面が去年。まともに接するようになったのは半年前。ちゃんと向き合った期間というのはここ一二か月ほどだ。
「来年は一位とるぞ」
ただどんなに数値的に劣っていても負けたくないものくらいは俺にもある。
親が子供に勝てない道理がないように、その逆もまた然り。ないのだ。
「だから、それまで強めていこうな、絆」
最後だけ海原にだけ聞こえるような小さな声で言った。
「え? なんていいました? 喧噪で聞こえませんでした」
「なら二度と聞こえないままでいろ」
「そんな! 嘘です! バッチリ聞こえました! 絆! 強めましょうね! ね!?」
腕をがっちりと掴み、周囲にも聞こえるように海原が叫んだ。
まるで、聞こえた全員に見せつけるように。