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第八十九話 バスッ!という鈍いプラスチックの音

日曜日という貴重な休日を消費してレジャー施設のアイテムを消費し続けたが圧倒的に時間が足りない。

 ボウリングだけでも二時間を消費するのにフードコートやビリヤードにいれば営業時間の半分を消費出来てしまう。

 最後にバッティングスペースに来て雅樹は既に打席へ。


「これ明日絶対筋肉痛だね~」

「会長ともあろう男が情けない。明日からまた体育祭準備があるっていうのに」


 前髪役員がスケッチブックに貼り付けた予定表を見ながら言った。


「生徒会って秋が激務なイメージです」


 海原の意見に同意だ。だから校長に「生徒会に入らないか」と言われた時に断ったんだ。


「まさに激務。毎日最終下校時刻ギリギリだよ。ま、大学とか行くなら多少のプラスになったりするしその辺を考慮すれば......会長、やめていい?」


 過去二年間の激務を思い出したんだろう。前髪からチラリと見える目には光がない。

 浜辺高校の秋行事は数十年前、少なくとも俺が浜辺高校を知ってから変更はない。激務なのは分かり切っていただろうに。なぜ入った。


「それは困るかな。いくらでさえ役員は足りてないからね。一席空いてるんだ」

「よくそれで回せてますね」

「会長は有能だから」


 その一言で片付けられるほどの有能さか。おっそろしいな。


「龍輝! やんねぇのか?」


 バッティングは非常に自信がない。走ったりするのは自転車登校で鍛えてはいるが肩はどうにも鍛えられない。


「腰を使って打てばちゃんと飛ぶって」

「......」

「彼女にカッコ悪いところ見せたくないんだよねー。くひひ」

「笑わないで貰えますかね。彼女なんていないし、腰痛めるのが嫌なだけだし」

「なら先輩、わたしと勝負をしましょう?」


 ここで勝負を持ちかけてくる辺り悪魔だ。

 俺が断れない状況だということをよく分かってらっしゃるよクソが。


「勝てたら、そうですね......相手のお願いを一つなんでも聞くという王道はどうでしょう」

「本当に王道だな。それでもいいが条件がある」

「なんですか?」

「常識の範囲内で、高校生ということを前提に置いた命令に限るという条件も追加だ」

「えー」

「えー。じゃねぇ。なに命令するつもりだったお前」

「さぁ! 気張っていきましょう!」


 無言が一番怖いんで止めて貰えますか。

 中に入り球速などを選んでいく。


「龍輝! 一四〇! 一四〇行け!」

「おお。甲子園目指すつもりはないぞ」


 球速一四〇は今いるバッティングセンターでの最高速度。

 そんな速さの球を野球部でもない高校生が打てるわけがない。空ぶって腰痛めるのがせいぜいだ。


「海老ちゃんは一〇〇?」

「そうですね。あんまり速くてもですし身体が小さいので当たっても飛ばないんですよね」

「んで龍輝? 今調べてわかったけど高校生『平均』が一一五だって。海老ちゃんより一五キロ速い」

「なにが言いたい」

「一三〇は欲しいよね?」


 なにこいつら。人の身体だからって無茶いいすぎじゃ? 一三〇でも一般高校生が打つ速さじゃないんだって。


「山田のいいとこ見てみたいー」

「やる気ないコールどうも」


 雅樹からカードを受け取り一三〇キロで設定。打てる気がしない。

 まあ、海原に勝負で負けても変な要求はしてこないだろう。


「先輩」

「ん」

「もし先輩が勝てたら、わたしのこと好きにしていいですよ? 勿論わたしは常識の範囲内で高校生しい節度を持ったお願いにしますが、先輩は特別です。なんでもいいですよ」


 聖母のような笑みを浮かべて海原は言った。

 海原はすぐに飛んでくる球に集中してしまったが頭の中にはあんなことやこんなことという集中力を奪う妄想が浮かんだ。

 バスッ! というプラスチックの壁に当たった鈍い音に意識を現実に戻され球に意識を集中させる。

 飛んでくる球は全て機械が投げている。つまり、人間にしか出来ないような回転もなければ指定外の球種も投げてこない。


「だはははは! 当たってんのに飛んでねぇ! 内野ゴロじゃねぇか!」

「だから一三〇は無理だって言ってんだろうが」


 当たりこそするもののこっちの振る力が弱すぎて打ち返しきれない。

 バットから伝わる衝撃はすぐに腕に伝染しビリビリと痺れる。

 その横ではカキーン! という軽快な音が響く。


「もうちょっと下から打てればあの的に当たりそうです」

「マジかよ......」


 苦戦する俺とは真逆に海原は軽快に飛ばす。

 こんなことなら俺も一〇〇にしておくんだった。

 だが負けるつもりは毛頭ない。

 海原を自由に出来る。そのことだけが頭にあり正直球は見えていない。

 打てども飛ばない。飛んだとしてもピッチングマシンの上あたり。

 そんなこんなでラスト一球。


「打て龍輝!」

「頑張れー」

「男ならいいとこ見せなさいよ」

「がんばって」

「ホームランを見てみたいね」

「先輩なら出来ますよ」


 全員からの応援を受け、ピッチングマシンから球が発射された。

 速度は相変わらず一三〇キロ。二十球あったら一球まともに飛ぶかどうかの球速。

 そして俺はバットを振った。

 バットを振った後にはバスッ! という鈍いプラスチックの音が響き、雅樹の笑い声が聞こえた。


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