第八話 お金を払ってでも触りたいって人がいる生足ですよ?
「先輩ってまともにソファーに座らないですよね」
「は?」
土曜の昼からテレビでやってるバラエティー番組を見ながら海原が話しかけてきた。
たしかに海原が言う通り、俺は基本ソファには座らない。座るのは誰もいない時。宿泊客がいる時は座らない。
「そうやってソファを背もたれにして地面に座りますよね?」
「まあな。この方が、目を合わせなくてもいいからな。今みたいにな」
視線の高さが違えば距離が近くても目を合わせる必要がないし疑問にも思われない。
現に俺は海原と目を合わせずに会話している。
「でもそれって視覚外で色んなこと出来るってことですよね?」
「何する気だよ」
「熱湯用意したり、スレッジハンマー用意したり、包丁で首切ったり?」
それがすんなり出てくる辺り人への恨み妬みが凄そう。そしてそれをすぐ傍で言われた俺は死を覚悟した方がいいか。後輩の手によって俺の皮膚が溶けるか頭蓋骨が砕かれるか大動脈を切られる日も近いかもしれない。
「あとは......」
海原は立ち上がったと思ったら俺の頬にヒンヤリとしたスベスベもちもちの感触が迫ってきた。
「こうやって膝の間に先輩の顔を挟んだり?」
「それを過去にやったのはお前だけだ。そもそもわざわざ離れて座ってんのになぜ距離を詰めてくる」
「この二人キリの時間が増えれば増えるほど愛が育まれて......」
「俺、ずっと一緒に居たら飽きるタイプだから」
「わたしは燃えます!」
「あー海原のこと飽きてくるー」
「じゃあ、このまま首絞めましょうか」
「なんで!?」
どういう考え方をしたら首を絞めるという行為に行きつくのか知りたい。
「先輩が動かなくなればずっと一緒ってことですよね?」
顔は見えないがきっと目に光は宿ってない。だって声に生気がないもん。俺と同類の声してたもん。
海原のスベスベモチモチのふくらはぎが俺の首をどんどん絞めていく。流石に本気じゃないからかなんとか呼吸は出来るがそれでも十分苦しい。
「なーんて! 動かない先輩なんて嫌ですから。殺しませんよ」
「安心した」
「でも先輩を傷つけた人間は殺します」
おーっとこれは下手に過去を喋るわけにはいかなくなった。
「それこそ安心しろ。俺を傷つけるなんて並の精神攻撃じゃ無理だ。それこそ幻覚とか幻聴を操らない限りな」
俺だって人間。学習もするし耐性もつく。
例え半年後とかに海原が雅樹の隣にいても俺はきっと傷つかない。なぜなら最初から期待なんてしてないから。
「いい加減俺の上からどけ」
だが俺の要求は当然と言わんばかりに拒否され俺の肩から海原の脚が垂れ下がる状況は続く。
「どうしてですか? JKの生足ですよ? お金を払ってでも触りたいって人がいる生足ですよ?」
「なにその嫌悪感しか湧かない情報。お前、そういうのやめたほうがいいぞ」
「女の子同士ならセーフです」
あ、触らせる側じゃなくて触る側ね? なるほど。変態というわけだ。
「俺はJKの生足に興味はない」
「どこならありますか?」
「興味がある前提で喋るな」
「それでも男ですか。女性に興奮しない男はホモかホモって保健の先生が言ってましたよ」
「偏見がすぎる」
世の中には心に深い傷を負って女性が怖いという人だっているだろうし理由なんて想像もつかないほどあるだろう。
「俺が重視するのは外見じゃなくて性格だ」
「でたー。外見より内面という逃げ!」
「なにが逃げだ。どんなに外見が良くても性格が悪かったらその時点で願い下げじゃないか?」
「では逆に外見はどうでもいいと?」
「どうでもいいとは言わない。好きな人が出来れば男も女も綺麗でいようとするだろ。好きな人の前では」
その結果、加工や詐欺レベルの化粧といったある意味凄いものが生まれるんだ。
「海原だって俺が海原の友達の悪口とか言ってたら嫌だろ」
「いえ、わたしにそんな親しい友達いませんから」
......地雷だったか。
「ま、気にしてませんけど」
だったら声を弾ませようぜ。声しか聞いてないから怖いんだわ。その感情が籠ってない事務的な言葉は。
「わたしはですね! 先輩が好きです」
「はいはい」
「大好きです」
「はいはい」
「こうして二人で話してる時が一番幸せです。今のところは」
今のところね。未来がどうなるか正直二択しかないんだよな。
「はいはい」
「先輩キスしてください」
「いやいや」
「そこは「はいはい」って言う所でしょ! どうして!」
「キスは結婚までとっとけ。振り撒くもんじゃない」
「ならこうします」
海原が立ち上がろうとしてるのが唯一見える脚で分かるがなにをするつもりだ。
俺が疑問に思っていると海原の小さなお尻が目の前を通過して白い髪が目の前に垂れ下がった。
ふんわりと香る少し硬いシャンプーの匂いとあぐらの中にすっぽりとはまった小さなお尻。
「見えない」
「キスがダメならこれくらいは許してください」
「なんでだよ......重い」
海原が後ろに体重をかければ俺の腹や胸にそのまま体重が乗っかってくる。それと同時に感じる女子特有の柔らかさとシャンプーとは違う甘い匂い。
断言できる。過去一番女子と近づいた。小学校低学年の頃に泊った高校生の膝の上に乗ってテレビを見た記憶は薄っすらあるがそれよりも確実に近い。
「先輩手、貸してください」
「ん?」
置き場所に困って頭の後ろに置いてあった手を回収されると暖かくてふにふにした場所に置かれた。
位置からしてお腹だろう。ポンポンと俺の手を固定すると海原はテレビに視線をやった。
無理やりどかすことは出来るがどかした先の対処を考えると今はこの方が楽かもしれない。
ま、心臓はさっきから鼓動しまくりできっと前にいる後輩にも伝わってると思う。