第六話 ヒーロー的救出
「海原お前、まだ帰ってなかったのか」
下駄箱を背に真っ直ぐに立つ海原の姿があった。二年の下駄箱へ行き俺は靴を履き替えて一年の下駄箱へ。
「あ、龍輝先輩......大丈夫です。友達待ってるので」
「俺は先に帰るぞ。一人で大丈夫か?」
「なんですか~心配してくれるんですか~? もうわたしの事好きすぎですよ~。でも龍輝先輩がどうしてもっていうなら......ちゅーくらいはいいですよ?」
「じゃあなー」
昇降口を出てそのまま駐輪場へと向かった。校庭からほど近い駐輪場。特にベンチが近いことから野球部の会話を盗み聞きすることも出来る。盗み聞きをした所で野球の話は分からないし暇もない。
だからいつもは自転車出してすぐに帰宅する。
「そういえばさ、昼に来たあの子可愛くなかったか?」
「ああ、白髪のいやーでも山田目当てだとなーさせ子って気がする。童貞釣って金儲けとか慣れた男より不慣れな男とヤッて優位に立ちたいだけじゃね?」
「いやでもあの目はマジで冷えたぞ」
「馬鹿お前、ああいう怖い目してくる奴を屈服させるのがいいんじゃねぇか」
こういう思考の奴ってどこにでもいるんだな。ま、海原のあの反応じゃそうあるよな。過去を知らないくせに。
「トイレ行こうぜ」
「おれさっき行ったばっかだわ」
「ちげーよ。あの女多分学校内にいるから声かけようぜ。山田もいなけりゃ押せばいけるだろ」
「なんでいるってわかんだよ」
「靴隠すように後輩に言った。大丈夫だって」
嫌なこと聞いたな。助けに行っても行かなくてもバットエンドとかどんなクソゲーだよ。
クソゲーなら一生幼馴染三人で誰も邪魔しない学校生活を送らせてくれ。
自転車に鍵をかけ、胸ポケットからスマホをとりだし耳にあてた。
「あーどうも小畑先生。今正門ついたんで関節技だけはご勘弁を。ちゃんと日誌書き直すんで。あと、海原から連絡来たんですけど靴がなくなったようなんで、一緒に探してもらえませんか。......そんなこと言わずに、可愛い生徒の頼みですよ? あ、ありがとうございまーす」
傍から見ればやべー奴だな俺。誰とも繋がってないスマホを耳に当てて一人で喋ってんだもん。ま、せめてもの慈悲だ。
チラリとベンチを見ると頭をかきながらまたベンチに座った。
「海原」
「せ、先輩!? 帰ったんじゃなかったんですか!?」
海原は慌てて自分の下駄箱を背中で隠し笑顔を作った。
「どうしたんですか? わたしの顔がそんなに見たかったんですか?」
「一緒に帰ってこいと親から言われた。友達はどれくらいだ」
「あーえっと......部活終わるまで待ってるんで、先帰ってください」
なぜ俺にまで隠すのか。あんな風呂でビデオ通話してきたり髪の毛乾かさせたりしたのに。
「靴。ないんだろ」
「そんなこと......ありますけど......」
「ほらみろ。靴は小畑先生に頼んで今日は上履きで帰ろう。どうせ自転車の後ろに乗るんだ。あんまし関係ないだろ。ほら」
手を差し出せば海原は笑顔で握ってきた。これが演技かどうか分からないって女ってこえーや。
「もう龍輝先輩ったら、わたしのこと大好きなんですから~。ピンチに駆けつけてくれるなんてキュンキュンしちゃいましたよ? どうしてくれるんですか?」
「どうもしない。いいから乗れ」
「はーい」
駐輪場まで連れて行き海原を自転車の後ろに乗せて俺はペダルを強くこいだ。
海原の腕がいつもよりキツイ気がする。気のせい......じゃないよな。これ。
「先輩。ありがとうございます」
背中に額を当てられ小さな声で呟かれた。
「あれだ。宿泊者を守るのも俺の仕事だ」
急遽出来た俺の仕事。今まで雑用の雑用みたいな立ち位置だったし宿泊者の精神衛生を守るのも立派な仕事だ。
「なんですかそれ」
「俺の仕事だ。宿泊者を出来る限り出先で守る。以上」
「じゃあ、わたしのこともしっかり守ってくださいね?」
「だったら俺を頼れよ。隠そうとしやがって」
「先輩面倒事とか嫌いですよね? 面倒な女だなって思われたくなくて......」
「え、今更?」
昨日既にその片鱗は見えかけてたけど? 女兄妹がいない男に髪の毛やれっていうのは結構戸惑うからな。
「頼ったら先輩離れていかないですか?」
「それならお前の見る目がないって話だ。早々に諦めろ」
「他人事ですね......大丈夫ですよ! わたしは......諦めるなんてしませんからっ!」
「恥ずかしいなら言うなよ」
だんだん雅樹と柚子の言葉が現実味を増してきたな。
海原の好きは本当に好き......なのか?