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第五話 「あいつのせいだ」

 昼の時間が終わり俺はなぜか疲れていた。特に激しい運動も集中もしてないのにだ。

 まあ、俺の体力を削った張本人は笑顔で教室に戻っていったが。


「んで、海原はどうだ?」

「んー。雅樹。お願い」

「えーオレが言うのかよ」

「どっちでもいい」


 答えは敵か味方かの二択だ。もしかしたら俺にも雅樹にも興味がない柚子派という第三勢力という見方も捨てきれない。ま、そうだった場合は味方だが。


「あーうん。海原は確実に龍輝が目当てだろ」

「そうか」

「反応うっす! もっと「やったー!」とか「っしゃー!」とかないの? あんな可愛い子に好かれてるって話だよ? え? それでも本当に男? 玉ついてんの?」


 曲りなりにも女子高生っていう人生の中で三年しかない華やかな期間なんだからもう少し恥じらいを持ってはどうか。

 ま、柚子は横で大笑いしてるイケメンが笑ってくれて満足そうだから言葉にはしないけど。

 二人のラブラブの熱量で今日も腐敗が倍速で進む。


「いやまあ。嬉しいことには嬉しいんだろうけど、女の演技は侮るなって柚子が言ったじゃん?」


 俺が中学入ってすぐの頃、柚子は俺に忠告した。

 多分純粋な忠告だったんだろうけど俺は数日落ち込んだ。


「そりゃそうだけど。でも、アタシから見ても龍輝目当てだし! これで雅樹目当てだったら相当な演技力だし集中力だよ!? 気持ち悪すぎるって」

「集中力......?」

「さっき後輩ちゃんが雅樹と目が合った回数。ゼロ。もし雅樹が目的なら積極的にアピールするでしょ」


 うん。なるほど。

 んで、なんで雅樹の目線を柚子は知ってるの? ずっと見てた? え、そっちの方が気持ち悪くない?


「二人がそこまでいうなら少しは信じてみようか」

「逃げ腰は変わんないんだな」

「そりゃ逃げたくもなるだろうよ。過去の戦績みればよぉ」


 三十二戦全敗の高校生も珍しいだろう。ま、中には戦いにすらならないほど清々しくて不戦敗となったものもあるが。

 憂鬱になりながらも午後の授業を受けきり日誌を書くために俺は教室に一人残っていた。

 薄情者二人は既に帰宅済み。夕暮れの教室にはシャーペンを走らせる音と校庭から聞こえるスポーツ部の声が響いた。


「なにがくじ引きだよ。名前順っていう公平に決められるものがあるのになぜギャンブル思考なんだ」


 悪態をつきながら書くが今日の教室なんてほとんど覚えていない。ぼんやりして思い出せない。

 せいぜい昼に海原が来てクラスメイトが横取りしようとした程度。

 ん? ......横取り? 誰を? 海原をか? 俺の彼女じゃないのに?


「あいつのせいだ」


 先輩先輩と海原が俺にくっついてくるから庇護欲が出たんだ。出会って二日。俺は海原の過去を知っているが、逆に海原は俺の過去を知らない。知っていたらもっと違うアプローチをして来ただろう。多分。

 あの様子じゃもっと暴走するか近づかなくなるかの二択だ。

 

「おーっし。やっと出したなお前」

「やり直し五回目なんですがそれは」


 職員室前で俺は愚痴を呟いた。


「生徒目線からの教室の状況を聞きたいのに、「いつもと同じ」とか「知らない」じゃ意味がないだろうが。いつもと同じなら細かく書け」

「細かく書いてもろくに見ないくせに」

「お? なんだ? 私の唯一の楽しみを愚弄するのか?」

「楽しみなのか......」

「当たり前だ。生徒と公認で出来る交換日記のようなものだからな。書く人によって書く内容も違うし絵を両開き使って書いてくる奴もいる。それが楽しいのだ」


 どんなに綺麗な絵を書いた所で次の日に「もう一回」とか笑顔で言うんだろうな。次に渡される時はきっと絵なんて関節技が怖くて書けないだろう。

 因みにソースは俺。三回目の俺がそう言ってる。


「部活動がないなら帰れ」

「さようなら」


 職員室から踵を返し教室へと戻った。バックを回収し昇降口へ。

 そこには見慣れた姿があった。


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