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第四十八話 厄災来る夏休み

『これから夏休みに入ります。高校生らしい......』


 校長のありがたい話を聞き流し教室に戻ると脱力感が教室を包み込んだ。


「明日から夏休みー!」

「今年は補習もないし! 遊ぶぞ!」


 毎年暑苦しい幼馴染だ。学生ならば毎年来るものだし、高校二年目ともなればやることはバイトか家でダラダラするだけとなる。ちなみに俺は圧倒的後者。

 

「夏休みかぁ......」

「おうおうどうした龍輝さんよ! 休みだぜ?」

「金髪馬鹿がこっちに来る......」

「あ」「あー」


 二人そろってこの反応。毎年夏になると必ず来る人物がいる。

 『アメリア・ライア』

 ハイテンションで行動力があって人の迷惑を考えない自己中女。海外出身であり、体質的に寒い地域で過ごすことが出来ないため夏季と冬季で色んな国を行ったり来たりしている。


「海老ちゃん、気を付けなよ?」

「ああ......はぁ」


 なにが面倒かって両者に説明がいるところだ。アメには最悪なくてもいいが海原には十分過ぎるほどの説明が必要だろう。

 ただアメにもしっかりしないと暴走してもいいと許可したようなもの。

 今から気が進まない。


「先輩? なんかいつも以上に暗いですよ」


 帰りの自転車で海原にそう聞かれた。


「いやぁまあな」

「明日から夏休みなんですから! 毎日が雨であれば毎日外で遊べるのに!」


 海原の残念な所はどんな天気であろうと海にだけはいけないということか。

 晴れ、曇りなら紫外線が、雨なら波が荒れて海水浴どころではない。

 だから海原と行けるのは雨の日の屋内プールだけだ。


「海原、今日から多分夏休み一杯まで、女子が泊まりに来る」

「わたしに言うってことは殺せって意味ですか? 先輩との愛の巣を荒らす害虫ってことですか?」

「違う。そうならないための説明だ。名前はアメリア。見かけは美少女だが気を付けろ中身は変態だ」

「どういう意味で......」


 海原がそう言いかけたと同時に俺の視界には腹立たしいくらいの金髪ショートが揺れていた。

 髪は金なのに顔は真っ白で目も黒や茶色ではなく灰色というカッコイイ目をしている。

 元気を体現したかのような姿は見ているだけで暑苦しい。


「ハーイ! 今年も来てしまいましタ!」


 流暢ではあるが少しおぼつかない日本語で元気よく手を振りながら近づいてくるアメ。

 法律が許すならこのまま自転車で轢いてやりたい。


「アメ......家までまだあるが一人でなにしてんだ」

「んー散歩デス!」


 さては漁ってたな?

 アメは少し考えたような素振りを見せたがアメが一人でやることといえば大抵目星がつく。


「俺達、先に行くから。紹介はまた後でな」

「......分かりましタ」


 アメの目が怪しく曲がり背筋に悪寒を覚えたが今は逃げるしかない。

 俺は何もできない。

 家に入ると白髪と男性とアメと同じ金髪の女性がリビングで母さんと父さんと談笑していた。

 おおよそアメの両親だろう。


「久しぶりだね。龍輝君」

「はい。一年ぶりですからね。って毎回こんな会話してません?」


 俺が問い返すとアメパパは「あっははそりゃそうだ」と言ってアメママと交代した。


「今年も娘をよろしくね!」


 俺の手を取り上下にブンブン振るアメママ。血筋はこっちか。この元気さがアメに引き継がれてしまったのか。

 しかしアメの両親は日本語はかなり流暢。アメも始めと比べたら出来るようになった方ではあるがまだ細かい発音が難しいようで時々片言になる。


「ただいまデス! おお! 美少女!」

「座れ。紹介が先だ」


 飛びつこうとするアメに静止をかけソファに座らせた。


「まずアメの方から。さっき紹介した女がこれだ。ハイテンションで頭のネジが数本飛んでるから気を付けろ。んで、そのご両親」

「アメリア・ライア、デス! 十七歳! 好きなものは、よ......」

「はいそこまで! 余計なこと言わなくていいんだよ」

「「自己アピールが大事」といったのは龍の方デスヨ?」

「TPOを教えたろうが」


 言っていい場面とダメな場面くらい分かって欲しい。

 今は言っても許される場面ではあるが出来れば永遠に控えて欲しい。


「龍、彼女は?」

「海原海老名。俺の後輩」

「であり彼女です」

「違う」


 なぜ二人して余計な一言を伝えようとするのか。あれ? もしかして今年かなり激務なのでは?

 去年まではアメだけでよかったのに今年からは海原がいる。

 アメの暴走を止めつつ海原の相手もしなきゃいけない。

 もしかしたら夏休み明け、俺はこの世にいないかもしれない。

 死因、女子二人の相手をしたことによる過労死......おらそんな死に方いやだぁ。


「アメ、いい子でね?」

「はーい」


 アメの両親が自分の国へ帰っていくのと同時に俺の横にいたアメが消え、ソファへ瞬間移動。


「きゃあ! え? なに? へ? え?」


 その腕の中には海原が。


「初めましテ! アメリア・ライアデス!」

「う、海原......海老名です?」


 ソファに押さえつけられる形でアメに迫られ海原は困惑状態。

 海原が押されるなんて珍しい。いつもはごり押しレベルで押せ押せなのに。


「アメの好きなものは、可愛い女の子デス!」

「へ?」

「言い忘れてた。海原気を付けろ。そいつ、女大好きすぎて嫁作るとか豪語する変態だからな」

「幼女体型は天使の証デス!」


 こういうことを初対面の人に平気で言える程度には変態。疲れないわけがない。


「先輩! 助けてください! あ、どっか行かないで! この人と二人っきりにしないでください!」


 海原が涙目で助けを求めてくるが飢えた獣のような目をしたアメは俺の力ではどうしようもない。


「大丈夫だ。取って食われやしない。大人しくしてたら終わるさ。海原の価値観と共にな」

「先輩!」


 悪いな海原。俺のために犠牲になってくれ。弔いはする。

 俺は海原とアメに背を向けて自分の部屋へと向かった。


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