第三十話 身体測定でもいちゃつく二人
同じクラスでも当然男女で分かれる。女子からすれば隣で体重を見られたり聞かれたりするのは嫌だろうからな。
だが学年が違えば関係ないという方針なのか一緒ということがある。
「あ、先輩」
「おう」
つまり今。体育館で身長と体重を測りに来た俺達の前にぶかぶかのジャージの裾を口に当てながら海原が目を輝かせながらいた。
「海原さんも身長か」
「ええ。まあ」
「露骨に煙たがられてるな」
「目的は龍輝か......」
雅樹の落胆に当然と言わんばかりににっこり笑顔の海原。
「龍輝先輩! 十五センチの法則は守ってくださいね!」
「十五センチの法則? なにそれ」
「キスしやすい身長差です!」
言ってたなそんなの。今思い出したが身長は調整できるものじゃないんだよなー。
「ちなみに海原は伸びてる可能性は?」
「ないです! 中学入ってから止まりました。龍輝先輩も止めてください」
「んな無茶な。俺は確実に伸びてるだろうからその十五センチの法則は諦めろ」
それが理想なのはこの前調べたから知ってるが全てのカップルが理想通りではない。ならば、俺達だって十五センチの差でなくてもいいのだ。
そもそも彼氏彼女の関係じゃないんだ。意識するだけ無駄というものだ。
名前順に並び身長を測っていく。山田という苗字が語る通り俺は一番最後。なぜ吉田とか米津とか『や』より後の名前が俺のクラスにいないんだ。
「山田龍輝です」
「はい。上履き脱いで乗ってね」
言われた通り乗ると小さな手がぷるぷると横で震えていた。
「なにしてんだお前」
「わたしの身長がやはりと言いますか、伸びてなかったので先輩の身長を出来るだけ潰そうかと」
人間はそんな伸縮自在に出来てないっていうのに横の小さな後輩は背伸びをしてまで俺の身長を縮めようと頑張っている。思わず応援したくなる。
「一七三センチだね。お、伸びてる」
計測係の保健委員がそういうと海原がガクッと膝から崩れ落ちた。
「黄金比が......」
「海原?」
俺はぺたんと座った後輩の頭に手を置いた。
「キスしやすいとか、理想とか、どうでもいいんだよ俺は。最初っからそこに価値は見出してないし......なんだ、気にするな」
気の利いた言葉を言えない語彙力のなさに笑いが出る。
「小さなわたしでも彼女にしてくれますか?」
「ははは。話が飛びすぎだし露骨なんだよ馬鹿野郎」
「ちっ! もう少しだったのに」
残念だったな。全てのパターンは過去悪女たちによって訓練済みだ。萌えキャラ演出からの腹黒さを俺は知ってる。完全なる初見じゃない限り騙されないし罠にはかからない。
「ほら、海老ちゃん行くよ」
「あ! 待って! せんぱーい!」
ぶかぶかジャージを握られ引きずられていく海原。広い体育館で叫ばないで欲しい。よく響く。
「身体測定でもいちゃつきっぷりを発揮していくのかお前」
海原がクラスメイトによって連れ去られた後、雅樹が肩に腕を乗っけて来た。
「そんなんじゃない。ただまあ、仲のいいクラスメイトがいるようでよかった」
「オカンかよ」
「イジメられて俺のジャージが引き裂かれるのは嫌だからな」
「そうかよ。龍輝身長いくつだ!」
雅樹は今さっき書かれた身長を見せて来た。そこには一七三の数字が。俺と雅樹は同じ担当。つまり書き方は一緒。細かい数字までは書かれていなかった。
「なーんだ。一緒かよ」
「別にいいだろ。身長なんて」
「龍輝になにかしら勝って置きたい。恋人づくりは負けそうだから」
理由がゲスい。それと恋愛面で言えば雅樹の方が圧倒的にリードしてると思うのは俺だけか。
「雅樹は告白すれば万事解決じゃないのか?」
「いやーオレの性格上それは無理だな」
雅樹は腕を組みうんうんと頷いた。生まれてから一緒の幼馴染。その理由は分かる。
「飽きるか?」
「ああ。絶対な」
雅樹は手に入れるまでを楽しむタイプ。『欲しいゲームがあって所持金が足りない。ならバイトして溜める』そのバイトの過程を楽しむタイプであって欲しかったはずのゲームはまともにプレイしないまま俺に流れてくるパターンが割と多い。
人間関係も同じということか。
「今は仲のいい幼馴染で済んでるからなんともないけど、多分柚子と付き合ったらオレは柚子に興味を無くしちまうな!」
爽やかに笑いながら最低なことを言うイケメン。顔面ぶん殴りたいところではあるがそれは俺も同じだ。ここまですぐではないが。
「てなわけで龍輝にはなにかしら勝っておきたいわけだ」
「勉学、運動の方向で頑張ってはどうか」
勉学や運動なら今からでもどうとでもなる。直近であるのは球技大会、秋には体育祭が控えているし途中水泳の授業もある。勝てる可能性は十分にある。
「あんまり目立つと男子から睨まれるんだよ~」
「イケメンの代償だな」
なるほど。だから目立たず俺という一点狙いが出来る身体測定で勝負を挑んできたわけか。
「なら今度ゲームでもするか。俺も雅樹もやらないジャンルの」
「タトリスとかか? パズルゲームはオレ達やらないだろ?」
「そうだな......もっと簡単でWin-Winなものがある」
「なんかあるか?」
「それは当日のお楽しみだ」
前もって知らせておくと拒否される可能性があるしな。
まあ、その分俺の寿命というか精神も犠牲になるが幼馴染の恋路を応援するならこの身朽ち果てても構わない。雅樹と柚子がお砂糖大量に生産してくれれば多分ブラックコーヒーくらいなら普通に飲める。