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第二十九話 そんなに欲しいか彼氏ジャージ

「熱っ......」


 五月も中旬に入ってすぐだというのに気温がもの凄く高い。

 更に横の後輩がくっつくことにより部分的な体温、周囲の気温があがる。なにが言いたいかと言うと。離れろ。


「もうすぐ離れ離れになっちゃうんですからこれくらいは許してください......」

「たかが健康診断でなに言ってんだ」


 球技大会前のこの季節は運動しても問題ないか健康診断が行われる。

 おかげで授業がなくなり俺含め学生は伸び伸びとしている。

 俺達はジャージに着替え、時間まで待機している。


「海老ちゃん。上なしで寒くない?」

「はい。今日は暖かいですし外には出ないので」

「体育館とか渡り廊下は寒いと思うが」


 暖かいってのは日が上っていればの話で、日陰や屋内はまだ寒い。


「先輩。貸してください♡」

「いやだ。俺だって寒いのは一緒なんだ。それに俺のじゃデカイだろ」


 俺と海原の身長差が十五センチ。十五センチも違えば服のサイズは当然合わない。

 ただ海原の目の輝きを見るにそこが魅力的らしい。わけわからん。


「大きいのがいいんじゃないですか! 一年生の女子が大きめのジャージを来てたらそれは一〇〇パーセント男物! そして男物を着るということは彼氏の可能性が高い! いやもうそれしか考えられないわけですよ! つまり最高!」

「柚子。通訳頼む」


 改めて説明を聞いてもわけわからん。


「龍輝が海老ちゃんにジャージを貸せばいい。ただそれだけ」

「まあ、彼氏云々は抜きにしても半袖じゃまだ寒いだろ。貸してやったら?」


 悲報。幼馴染がいつのまにか敵に寝返ってた件。

 こういう展開ならなんか無敵の力を手に入れてからにしてほしい。人生ハードモード確定演出。

 ただ雅樹のいうことは理解出来る。だが自分の着物を他の誰か、しかも異性に貸すとなるとこちらとしても意識してしまう。


「ちゃんと洗濯してるけど汗臭かったら静かに返せ」


 俺が上のジャージを脱いで海原に渡した。

 海原が着るとその差は目に見えて分かる。

 腕をちゃんと伸ばしても手が出ないし裾だって腰を通り越し股下ほどまで届く長さ。

 肩幅とかも合ってないし華奢な海原にはデカイ。がしかし、若干似合っているように見えるのはさっきの説明のせいだ。

 

「これが! 彼氏ジャージ!」

「彼氏じゃないからあまり騒ぐな」

「これなら北極でも生きられます!」


 浜辺高校のジャージにそんな耐寒機能はついてない。北極の寒さなめるな。その格好なら五秒もあれば凍死だ。

 朝の時間に四人で談笑していると学校中にチャイムが鳴り響き、ノイズの後にスピーカーから声が聞こえて来た。


「健康診断が始まります。各教室にて学級委員の指示に従ってください」

「ほら。放送かかったから戻れ」

「はーい」


 海原はぶかぶかジャージの袖を振りながら教室へと戻っていった。


「人のジャージとか着れないけどな。汗かけないし」

「あー分かる。生理の時とか特にね」

「その女子トーク俺達に振るな? 返せないから」

「ま、生理の時は痛くてまともに運動出来ないんだけど」


 誰かこの子に男女の違いを教えてあげて。痛いとは聞くけど実際どのくらいの痛みとか分からない。


「よし龍輝! 今年も身長勝負だ!」

「今どっちが身長上なんだっけ?」

「二人とも同じ一七〇センチ」

「ミリまで一緒だぜ」

「きも」


 十七年連れ添った幼馴染にその反応はないんじゃなかろうか。成長期ならこれくらい有り得るだろ。世界に何十億といる男子の二人の身長くらい。


「去年龍輝は夜更かしを大量にしてたな!」

「そうだな。別に身長とか気にしてないし、彼女にする女より高ければいいと思ってる」

「海老ちゃんは一五五だから達成じゃん!」


 急に銃口向けるの止めてもらえます? 俺がいつ海原のこと好きだと言ったよ。


「幼馴染として負けるわけにはいかねぇ!」

「がんばえー」


 これに関しては日々の生活態度が物を言うし頑張るどうこうの話じゃない。なんでもかんでも数値化されるのよくない。


「柚子も大きくなってるといいな!」

「なにが?」

「身ちょ......」

「アタシ、身長より胸が欲しいな~ってずっと思ってるんだ。んで、なにが?」


 それ以上はやめとけ雅樹。死ぬぞ。だってほらもう目に光が宿ってないもん。なのに口は笑顔だし恐怖をそのまま具現したらこうなりそう。


「ゆ、柚子は胸が大きいほうがいいんだ! お、オレは大きいのより手のひらサイズの方がいいけどな!」


 幼馴染とはいえ女子に向かって何言ってんだよ。死ねよ。


「そう? まあ、女子にモテる雅樹が言うならあんまり大きくても......かな?」


 それで許されるあたり茶番だな。雅樹じゃなくて俺だったら容赦なく拳が飛んでくるのに。拳だけなら天に感謝して神様信じちゃうレベルだけど。

 そして自分への好意を利用して命拾いするとかもう俺が殺した方が早いなこれ。

 こんなに二人が熱を生み出してくれるならさっき海原にジャージ渡して正解かもしれない。


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