第百九十八話 お別れ
三月九日。
生徒会の仕事と平行して進めていったのは卒業式。
といっても俺はおまけで主役は三年生だ。
当たり障りのない内容でいいと言われたし生徒会選挙並みに張り切る必要もない。
「――最後に、特にお世話になった先輩二人を名指しでお礼を言わせてください」
お礼くらいなら許されるだろう。
「高城俊介先輩。ほぼ初対面でのワガママにお付き合いいただきありがとうございました。高城先輩がいなければ今の僕はいなかったと確信出来ます。進学されるとのことなので是非大学でも人を引っ張っていく手腕を存分に奮っていただきたいと思います。あと、妹さんとはいつまでも仲良しでいてください」
余計なお世話を少し挟んで出来るだけしんみりした空気を無くす。
高城先輩と目が合うと照れくさそうに笑ってくれた。
「そして、伊吹環先輩。恋のキューピットになっていただきありがとうございました。伊吹先輩の動きがなければ僕はきっと今も立ち止まったままでした。かなり強引で想定外の動きでしたが今となっては楽しかったなと思えます。伊吹先輩も進学とのことなので、忙しいでしょうから文化祭など行事には来ないでもらいたいです」
これは本気でマジで。
自分のクラス出し物と平行して生徒会での仕事もしなきゃいけないんだ。
残念ながら伊吹先輩の相手をしている暇はないのだ。
伊吹先輩と目が合うとなにか言いたそうな、正確には「絶対に行ってやる」とでも言いたげ。
なんとか嘘ついて誤魔化すしかないな。
「在校生代表、生徒会長山田龍輝」
名乗って締めくくれば拍手が聞こえてきた。
生徒席に戻ると柚子が耳打ちしてきた。
「余計なこと言って。お礼の件、台本になかったでしょ」
「多少なら許される」
「あとなんで最後の最後で喧嘩売ったよ」
理由は超簡単。
「負けず嫌いというかやられっぱなしは大嫌いな伊吹先輩なら、またいつか顔出すだろうよ」
俺にやられた分を返すために。
なにか察したのか柚子は「ふーん」と意味深な返事をしてひな壇へと目を向けた。
俺も話を終わらせてひな壇へ。
三年生がひな壇に並ぶとピアノの伴奏と共に合唱が聞こえてきた。
しかし、曲が始まってすぐに声量は大ダウン。
理由は勿論。泣いているからである。
そのうち曲よりもすすり泣く音の方が大きくなる始末。
ま、卒業式らしいと言えばらしい。
結局、最初から最後まで歌えた人はわずか数人だけだった。
卒業式が終わればいよいよ高城先輩と伊吹先輩とはお別れ。
半年という短い時間ながら色んなことを教えてもらい、色んなことをしてされた。
「卒業か......三年生に上がったのが半年前のことのようだよ」
「時間が経つのは早いですからね。大学でも頑張ってください」
「ありがとう」
卒業証書を持った高城先輩と握手をした。
「伊吹くんはいいのかい? 最後だよ?」
「なら、して置こうかな。壇上での煽り、見事だったよ。絶対に邪魔しに来るからそのつもりで」
前髪で目は見えないがこわーい顔しているのが容易に想像がつく。
「来なくていいです」
「ぼくがやられっぱなしでいると思っているのかい? 何十倍にして返そうじゃないか」
「それまでに成長してるんで平気ですよ」
「創作者の十倍を思い知るといい」
くひひと出会った当初の笑みを浮かべて伊吹先輩は横から泣きながら抱き着いた柚子と話してしまった。
「龍輝、気付いてるか?」
「伊吹先輩が陰でめっちゃ泣いたことか?」
「おう。流石に気付くか」
「目が見えなくても涙袋が赤くなってたら意味ないってのにな」
泣いてそれを誤魔化すために擦ったのだろう。
前髪で誤魔化せると思ったようだが甘い。しっかり弱みは貰った。
それを使えるのはいつになることやら。