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第百八十三話 生後四週間の家族

「先輩! その子捕まえてください!」

「おまっ! なんつー恰好で!」

「いいじゃないですか。裸だって何回も見てるじゃないですか」

「誤解が生まれるからよそでいうなよ」


 バスタオル一枚の海原が洗面所の入口からビショビショの状態で顔を覗かせた。

 そして俺の方へと逃げてくる子猫。


「洗おうとすると逃げるんですよ」

「猫ってそういうもんだろ」

「龍輝くんやってあげれば? 前にワンちゃんとお風呂入ってたでしょ」

「犬と猫は違うでしょう......はぁ、海原は風呂に戻れ風邪ひく」


 濡れてソファの下に潜ったリュウナを父さんから投げられた餌で釣って再び風呂へ。


「待ってましたよ先輩」

「俺水着じゃないから近づくな。濡れる」


 長ズボンの裾をまくって浴室へ。

 海原には湯船に避難してもらった。

 ま、絶対にこっち来ると思うけど。


「猫ってのは濡れるのを基本嫌がる。だから自分の体を舐めて綺麗にする」

「でも飼い猫をずっとお風呂に入れないってことはないですよね?」

「完全部屋飼いなら分からないが、捨て猫を拾って来たなら風呂は必須だな」


 猫も最初は抵抗があるだけで慣らすことは出来る。

 顔に水がかからないお尻や腰あたりに水圧を弱めたシャワーを直に当てる。

 猫を飼ったことがないから分からない。これもテレビでアイドルがやっていたのを見様見真似。


「先輩上手いですね。はっ! さては数多くの女を落としてきたんですか!」

「こいつオスだぞ」

「去勢すればメスです」

「暴論すぎる」


 確かに生殖機能は失うが性別が変わるわけじゃない。

 そして一つ気になったことが。

 湯船はシャワーとは対面位置にある。

 首でも伸ばさない限り湯船から俺の手元を見ることは不可能。

 そして俺の手元が海原に見ているということは......そういうことだろう。


「湯船に戻れ」

「のぼせちゃいますよ~。しかも先輩が傍にいる状態なんで体が熱くて」

「なら一番離れたところで頭洗ってとっとと出ろ。俺の傍に近寄るな」

「えっち」

「どっちが」


 視界の端でチラチラと動く肌色を無視して誤解し続けた金髪に意識を向けた。

 怖いのか体が震えているように思える。

 俺が優しくお湯を手でかければ逃げだす素振りも見せなくなった。


「リュウナはいい子だな」


 海原より先に風呂から出て乾いたタオルで拭いてやる。

 少しでも力をいれたら死んでしまいそうなか弱い子猫。本当に可愛い。

 

「おお。なんか似合う。不器用な少年と従順な子猫。まるで物語のような組み合わせ」


 デコピンをくらい、おでこに熱さまシートを貼った鈴音さんが言った。


「リュウナは結構物分かりがいいです。人をおちょくってデコピンくらってる成人女性よりかは」

「人間がそんな従順だったら怖がるくせに」

「否定はしないです」


 子猫だから許される従順さというのもあるのだ。


「お風呂お先です」

「海原、リュウナは生後いくつだ」

「分かりません」


 あっけらかんと答える海原。

 分からないのによく拾って来たな。

 それによって餌とかリュウナ自身で出来ることとか違ってくるんだけど。


「自力で歩ける、 まだ歯は鋭くない。重さは......父さん」

「五百グラムないくらいだな」

「となると生後四週間ってところか」


 あくまでネットからの情報だから百パーセント信用は出来ないけど。


「拾ってきたばかりだから栄養をとってなくて痩せてるだけかもしれないけど。乳児用の餌は?」

「勿論用意してある。子猫って聞いてたからな。生まれた瞬間から普通のキャットフードを食べるくらいまでの全て用意した」


 さすが民宿の物資班。いつ海原から相談されたのか知らないが仕事が早すぎる。


「わたし、ご飯あげたいです!」

「このウェットフードを指先に乗せて差し出せば食べる」


 リュウナをソファに置いて海原の指先に子猫用の餌を置いた。

 海原の懐で最初は大人しくしていたというだけありすぐに寄って来た。

 小さく短い舌でペロっと舐めるとそのまま指先にあった分は食べてしまった。


「先輩! 食べました! 食べましたよ!」

「だいぶ慣れてるようだから小皿に出してみても平気って書いてある」

「ミルクはどうするんですか?」

「食べたあとにミルクで満腹にするそうだ。最初はそれでも十分だろう」


 子猫のことなんて初めて調べたがブログとか見ると丁寧に教えてくれる人がいてくれて助かる。

 

「てか子猫拾ってきて平気なのかよ。母親は今頃探してんじゃねぇのか?」

「それが......多分この子のお母さんは死んじゃってます」

「見たのか」

「袋に入れられているところだけ......」

「そうか」


 さぞショッキングだっただろう。

 だがそれが野性の末路だ。人に処理されるか自然に返るか。

 どちらがいいかは明白。


「ならリュウナは大事に育てないとな」

「はい。わたし達の子供ですからね」


 まさか新しい家族が増えるのがこんなにも早いとは。


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