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第十七話 頼られたい?

「連絡事項は以上だ。用がない生徒は早々に帰宅するように」


 小畑先生の一言で自由な放課後へと繰り出すクラスメイト達。部室へダッシュする人や、このあとどこかに行こうかの打合せに花咲かせる人もいる。

 柚子と雅樹も先に帰るといって帰ってしまった。俺は目が合った瞬間に「来い」と命令されたため職員室へ。


「失礼します。二年一組、山田龍輝です。小畑先生、用ってなんですか」

「まあまあ、こっちに来て座れ」


 職員室の扉をしめパーテーションパネルで仕切られた一角へと招かれた。


「話というのはだな、海原の事だ」


 タバコに火をつけながら小畑先生は要件を話し出した。

 高校生の前でタバコを吸うなよと言うのは野暮なんだろうなー。


「海原はまあ、ほら特異な見た目をしているだろう? おまけに美少女。良からぬことを考える馬鹿は多いんだ」

「回りくどい言い方ですね」


 いつもなら要件だけ言ってこっちの意見なんて聞かないのに。

 今回はなにか他の言い回しを探しているかのようだ。

 椅子によりかかっていた小畑先生が前屈みになり声をひそめたので俺も声の音量を落とした。


「イジメですか?」

「まあな」

「それなら俺じゃなくて教師の出番でしょう」


 生徒で当事者でない俺が出る幕じゃない。イジメと分かっているなら動けばいい。


「それがイジメとまだ断定は出来ないんだ。だから唾を付けといて欲しいというささやかな願いだ」

「なんで俺が。俺が出て行ったところでなくなるわけないでしょう。むしろ悪化させるだけでは?」

「いやいや、先輩と関係が強い奴をいじめられるほど主犯共は強くない」


 主犯が分かってるならいつもの関節技で脅......説得すればいいのに。大得意なはずだ、力による抑圧は。


「ま、そういうことで。今から迎えに行け」

「いや。まだ聞きたいことが大量に.....」

「はい、さーん。にー。いーち......」


 指をボキボキと鳴らしながら近づかれたら俺は撤退するしかない。

 いつか生徒に対する肉体及び精神への暴行として連れてかれろ。

 そんな願いを胸にしつつ俺は職員室から逃げだし一年生の教室へと向かった。


「面倒事が舞い込んでくるのは今更か?」


 もともと海原海老名という女子生徒を匿えという命令から始まり学校内で面倒を見ろまで来たわけだが......確定面倒なのに俺はそれに逆らえずにいる。こんなに不器用だったか? 俺。

 一年生の教室を覗くと数名の生徒が残っていた。


「海原海老名の教室は知らないか?」

「えっと、隣......です」


 目をそらしながら言われ少し傷ついた。そんなに目、怖い? ただ面倒事に絶望してる目なんだけど。

 言われた通り隣に行くと海原が座って静止していた。


「海原、帰る......」

「来ないでください!」


 そう叫ばれ俺は教室の敷居をまたいだところで止まった。

 電気がついてないせいで見づらいが少しだけ海原が震えて見えた。


「先輩にだけは......見られたくありませんでした」

「なにがどうなってる。俺には分からん」

「分からなくていいです......なにも聞かずに帰ってください」


 海原の声は泣いていた。俺の前では笑顔を絶やしたことがない海原が泣いていた。

 俺の前でも泣かなきゃいけないほど辛いことがあったんだと俺は察した。


「はぁ」


 ため息しか出なかった。嫉妬か嫌悪か知らないが、女子高生一人相手にどんな仕打ちだ。

 そして海原も相変わらずだ。俺に頼らず自己解決しようとする。

 時刻は四時半。事件がない限り四時前には終わるから三〇分はここに放置ということだ。

 つまり自己解決は不可能。

 なぜ頼らない。そんなに俺が頼りないか。......腐った目をしてれば信頼は得られないか。まあ、信頼なんて柚子と雅樹から得ていれば他はどうでもいい。小畑先生からの信頼も得ることになって非常に不本意だが仕方ない。


「分かった」


 入口からずんずんと前に進んで俺は海原の元へと向かった。


「せ、先輩! どうして!? 来ないでください!」

「俺が前になんて言ったか覚えてるか?」

「「お前のことが好きなんだ?」」

「この状況でボケられるなら結構。ただし大不正解。正解は、『宿泊者を外でも守る』......だったか? その辺のこと言っただろ。多分」


 正直記憶が曖昧すぎてもしかしたら言ってないかもしれない。だとしてもごり押ししよう。

 その時の感情で動くのは俺の美点であり欠点だ。

 海原の傍まで来るとその異常性にすぐに気が付いた。両足に手錠をされ、更にむわっとした匂いと椅子から滴る水。


「聖水です」

「お前、それ自分で言うか」


 世の中にはそういう人もいるけどね? 俺はそうは思わないけど。


「飲みますか?」

「そこまで行ったら多分自殺する」


 美少女といえどおしっこを飲むのは俺には出来そうにない。

 とはいえ、海原が何者かに椅子に固定されトイレに行けなかった状況だということは確定した。真っ先にやることは......


「雑巾で拭くか」

「自分でやりますから! 手錠をどうにかしてください!」


 本気で怒られてしまった。


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