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第百七十七話 「はぁ~新妻って感じ」

 次の日、土曜で休みなのに俺はパソコン室で資料を作っていた。


「ああぁ......目痛くなってきた」

「暇ぁ」

「だなぁ」


 横の幼馴染は回転する椅子をグルグルと回し暇をアピール。


「別に付き合ってもらわなくても平気だぞ。書類くらい一人で作れるし」

「そんなつれないこと言うなよー幼馴染だろ?」


 雅樹が椅子を蹴って急接近。言い方がなんかウザイから完全に近づかれるまえに足で止めた。


「どうせ家にいても暇だしな」

「勉強しろ。学年末で赤点はまずいぞ」

「なにかペナルティが?」

「いや、特にない。だがクラス分けには影響すると思う」

「あくまで想像でしょう? 特に学力勝負があるわけじゃないし平気でしょ」

「柚子まで雅樹色に染めあがったのか」

「猶予はあるって話」


 それでも安心は出来ないけどな。雅樹の成績じゃ。


「んでさ、龍輝はなんの資料作ってんの?」

「雅樹お前、今まで知らなかったのかよ」

「おん」

「知らないでよく付き合えたな」

「いや頑張ってるってだけで十分だろ」


 こういうとこが主人公なんだろうな。


「今日校長に見せる学校改善案だ」


 この前集めた情報を元に「学校のこういうところを直して欲しい」という嘆願書を今作っている。

 といってもネットで調べたフォーマット通りに作ってるから困るのは文言だけだが。


「大変そ」

「興味なさそ」


 ま、完全に下準備で自己満足と言われればそれまで。


「本当にここまでする必要があるの?」

「先輩からすればあるんですよ。先輩が負けを認めるのは、準備に準備を重ねて全方位に対応出来るようにしてそれで負けたら認めるんじゃないですか」

「人を往生際が悪い人間みたいに言うな」

「いや悪かったでしょ」

「悪かったなぁ」

「そこが分かってないのがもうそれですよね」


 なんで急に袋叩きにされるんでしょうか。


「ま、その問題はこうして解決したので文句はありませんけど」

「海原、資料作れない」


 海原が俺の胸に体重をかければ後ろの背もたれがギギギと軋む音をあげた。


「お昼なので、お昼ご飯を食べましょう! 愛妻弁当ですよ?」

「助かるけどもう少し......」

「ダメです! そうやってるうちに食べなくてもいいやとなり効率が落ちるんです! それに! 愛する人のために作ったお弁当を後回しになんてさせません」

「分かったから近い」


 キーボードから手を離すと間近にあった海原の顔が笑い俺の鼻と海原の鼻が触れた。

 流石に精密機器のあるパソコン室で食べるわけにも行かず、隣接している図書室を借りることにした。


「全員弁当なのか」

「オレのは柚子が作ってくれた」

「なんだろう。色が濃い」


 どうみても素材の色じゃない。卵焼きは茶色ってどんだけ強い味付けしてんだよ。


「ほら、雅樹は味濃い方が好きだしさ。薄いよりは濃いほうがいいかなぁ~って」

「本当は?」

「眠かったから分量間違えたの! 手が滑ったの! 悪い!?」

「ま、本人が美味そうに食べてるならいいんじゃないですかね」


 若干涙目の柚子を放置してほんのりと出汁の味がする卵焼きを口に含んだ。

 時間が立っているためふんわり感はなくなってしまったがべちゃっとした水っぽさはない。

 しっかりと固まり噛むたびに味が出てくる。


「逆に龍輝の好みの味とか薄すぎてキツイって」

「そうですか? 出汁とって大さじ一杯いれるだけですよ?」

「残った出汁は?」

「朝ごはんに使います」

「はぁ~新妻って感じ。初々しいし甲斐甲斐しい」


 意味ありげな目線を俺に送るがなんと答えたらいいんだ。


「柚子も変わらんだろうが」


 失敗するくらいには慣れてないのにそれをやろうとするその根性と気概は真似出来るものではない。

 甲斐甲斐しさでいれば海原とそう変わらない。


 昼食を取ったあとはパソコン室に戻って作業開始。

 カタカタとキーボードを打ち込んでいると数人の男子生徒が入って来た。

 部員かとも思ったが今日は土曜日で運動部以外の部活動はなかったはずだ。


「それでは皆さん。資料作りのお手伝いお願いしますね?」


 遅れて入ってきたのは金谷美里。

 金谷も生徒会選挙に向けて資料を作っているようだ。

 しばらく不干渉で俺は資料を作り上げ、提出用にコピーと印刷をした。


「そんな人数で大丈夫ですか?」

「ああ。あんまり多くても処理しきれない」

「そうですか。私達は一つの部活動に手伝って貰っています。人数でいえば三倍は硬いです」

「多けりゃいいってもんでもないだろ」

「作業効率は違いますよ?」


 それでも結局その人数をコントロール出来なければ効率は落ちる。


「俺達は少数精鋭でやってんだ」


 個々の能力は高くはないが連携がとれれば俺達の実力は数の暴力など意味がないほどに強くなる。

 それが俺達最大の強みだ。


「部活動を丸め込んだのは結構だが、それで満足しないようにな」

「ええ。肝に銘じて置きます」


 一言二言交わして俺は校長室へと向かった。


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