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第百七十六話 油断したら負けなのだ。

俺と海原がまず向かったのは吹奏楽部。

 音楽室に近づけば、聞いた事のある曲のフレーズが聞こえてくる。


「失礼します」


 俺と海原が音楽室に入ると音が鳴りやみ注目が集まった。

 視線が怖いのか海原は俺の袖を握り陰に隠れた。


「部活動中すいません。生徒会の生活調査です。なにか学校生活、部活動などなど学校関係で不便だな、やりたいなと思うことはないですか?」


 壇上に立ち、声をあげても部員側からの返答はなかった。

 ま、そこは想定内。


「もし皆の前で言うのが躊躇われるのであれば、二年一組三十二番の下駄箱にでもメモ用紙で大丈夫なので、いれといてください」


 俺の目的は、不満を数集めることで人から聞き出すことではない。

 どんな方法であれ集められればそれでいい。


「部活動中失礼しましたー」


 音楽室を出てしばらくすれば楽器の音が聞こえてくる。

 そうか、この曲どこかでと思ったが卒業ソングだ。

 あと二か月もすれば三年生は卒業か。

 あの個性だらけの三年生達としばらくは会えないのか。

 物足りなくなりそう。


 美術室に行こうと、職員室前を通った時、タバコの臭いを漂わせながら小畑先生が出てきた。


「相も変わらず面倒なことをしているようだな。お前達は」

「わたしもですか?」

「当然だ。面倒なことに加担しているのだからな」

「面倒と言っても、コレが最善策だと俺達は考えましたが?」

「馬鹿め」


 こうも生徒に真正面から悪口を言えるのは世界広しといえど、小畑先生ただ一人だろう。

 現にその悪口には悪意はない。


「話は生徒会長から聞いているが、金谷の公約で通るわけないだろうが。恋愛禁止なんてどっかのノリで大統領を決めるお国柄じゃないんだから」


 それはある特定の国を敵に回すから正式な名前は言わないでもらいたい。


「信任されるわけないんだよ。それなのに真面目に真っ向からやりあうなんて。馬鹿馬鹿しくて私にはとてもとても」


 やれやれと首を振る小畑先生だが分かってない。


「金谷の恐ろしさを誰よりも知っているのは俺です。そうやって慢心して背後を取られたらそれこそまぬけでしょう」


 うさぎと亀がまさにその状況なわけだが現実はおとぎ話と違い平和には終わらない。

 油断したら負けなのだ。それは横の海原海老名にも言えることではあるが


「確かにな。いやでも、私からすればそんなマヌケな山田も見てみたいがな? 完全に油断して隙をつかれて従順になる山田は見たことがない」

「そう考えてる奴が周りに多くて油断する暇もないですよ」


 唯一油断するのは海原の急な乙女反応。ステ振りで防御に振ってないからかこちらが攻撃すると思った以上に乙女な反応をする。あれくらいだ。


「それじゃあ先生、海原がなにやら閃いて怖いんでやらなきゃいけないことを終わらせてきます」

「おお。頑張れー」


 頑張れが適当なんだよ。

 余計な焚きつけをしやがって。

 逃げるようにして俺達は美術室に向かった。


「失礼します。生徒会の生活調査で来ました。なにか不便に思うことはないですか?」

「先輩、それじゃ分かりませんって」

「ああ、えっと......学校生活とか部活動とかで「あれがあったら」とか「あんなことが出来たら」みたいのでいいんだ」

「あーそれなら新しい彫刻刀とか欲しいでーす」

「あと絵具とか買うために部費を文化祭後だけでも増やしてほしい」

「あーそれね。文化祭後で出し切ってるから確かに辛いわ」


 吹奏楽より小道具の数が多い美術部はそれなりに今の体制に不満があるよう。


「分かりました。新しい彫刻刀と部費の増額を要望として生徒会で処理します」


 美術部をあとにして文化部を周りに回った。

 あと一つというところで放課後の学校にチャイムが鳴り響く。

 部活動終了のチャイムであり、あと三十分で完全下校しろという合図でもあった。


「今日はこの辺りにするか」

「そうですね。あんまり根を詰めすぎても逆効果でしょうし」


 教室でバックを回収して昇降口に向かうと柚子と雅樹の姿が。


「おう。文化部はどうだった?」

「出る所は出たって感じだ。特に小道具が多い美術部、写真部、文芸部とかはな。そっちは」

「運動部はメッチャ出たぜ」

「特に用具についてが多かったかな。ハンドボールとかサッカーボールは授業でも使うでしょ? だからボロボロになるのが早いから専用のが欲しいって」


 なるほど。納得の理由だ。

 やはり部活動となると数も出るし理由もつけやすい。

 そしてなにより、生徒の情熱を利用して大人を動かしやすい。


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