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第百七十四話 つまり、鶏以下ということだ。

 生徒会の名前を借りて情報収集をするとある程度情報は集まる。

 これも高城生徒会長の人気の賜物だろう。


「うーん。主にデザート関係が多かったですね」

「流石に凍ったマンゴーだけじゃ不満なんだろ」

「おいしいけどね」


 柚子はフローズンマンゴーをもぐもぐ。

 人前だからか雅樹にあーんとかはないようだ。


「あとは菓子パンの種類を増やして欲しいってのも出たな」

「オレ的増やしてくれると嬉しい」

「雅樹、そんなに種類欲しい?」

「龍輝みたいに温かい手作り弁当なんて中学の体育祭以来食べてないからなぁ」

「な、ならアタシが作ってあげようか? 最近自分のは自分で作るようになったし一人分も二人分も変わらないし」

「マジで!? なら菓子パン増えなくていいや」


 なんだこいつら。


「学食の改善案はこの程度か。あとは......部活動か」

「部活動にも調査を?」

「ああ、備品やなにかに不備があった場合それは不満の種になりこちらの武器となる」


 生徒の声から上がる不満は全てこちらの武器となる。

 その不満を抱える年月が長ければ長いほど心を掴みやすい。


「なら運動部はアタシと雅樹がやるよ? ほら、雅樹は一年の頃に助っ人とかで面識あるし」

「そうか。助かる。俺と海原は文化部をやる」


 チャイムがなり昼休み終了を告げると同時に多くの生徒が自分の教室へ戻るべく動き出す。

 俺は教室に入ってすぐの机に目を向けた。

 ポツンと異様に突き出ているのに存在感がまるでない机。

 半年以上使われておらず、寂しさを放つ机。


「ほら、席つけー」


 歴史担当の男性教師が教室に入ってくるその後ろ。

 思わず見入ってしまうほどの黒髪が俯きがちに教室に入って来た。

 その姿は間違いなく、金谷美里本人だった。

 ほんの一瞬教室が静かになるが、またすぐにお喋りが再会された。


「なんで無理してまで教室に来た」

「無理なんてしてないですよ?」

「うそつけ。顔色、青ざめてんぞ」

「私にだって怖いものくらいあります。例えば、一年ぶりの教室とか」


 金谷美里はかなりぎこちなく、昨日俺を軟禁した人物だとは思えない表情で笑った。


「ほら、山田。席につけ」


 先生にせっつかれて俺は金谷の席とは真反対の自分の席に戻った。

 

「んじゃ、教科書百十二ページから続き始めるぞー」


 先生もあくまで金谷には触れない方向で授業を始めた。

 だが先生や俺はある程度事情を知っているが、他生徒はまったく知らない。

 当然、なぜという疑問が生まれる。


「金谷さん? 私初めて見たかも」「あー一年の秋くらいからずっと休んでたよね」「なんで今になって出てきたの?」

「あれだろ、進学に影響するからとか」「ワンチャン単位がガチでヤバイとかかも」


 悪意ない視線が金谷に集まり、金谷本人は居心地が悪そうにチラチラとこちらを見ている。


「ほら、そこうるさいぞ」


 先生からの注意が入り一旦は静まる声だったが視線が静まることはなかった。

 金谷も居心地がかなり悪いのか顔色がドンドン悪くなっていく。


「柚子~教科書なくしたから見せて」


 天真爛漫な声と共に彼女におねだりする子犬系イケメン彼氏。

 そう言う雅樹の机にはノートだけ出され教科書は出されていない。

 それもそのはず。あいつの教科書は俺の机にあるから。授業始まる前になぜか俺の机に教科書を置きそのまま忘れている馬鹿である。

 俺は教えることなく雅樹の教科書を机の中へと隠した。


「はぁ? 先週まで持ってたじゃん」

「いや、マジでどっか行った。さっきまではあったんだけどロッカーにもなかったしバッグにもなかった」

「あとでもう一回探すからね」

「ほら、そこ。授業中にイチャコラすんな。男子校の俺に喧嘩売ってんのか」

「え、先生男子校だったんですか?w ご愁傷様ですwwwww」


 他生徒の煽りにより雑談に突入。

 男子校ではどうだのと共学の浜辺高校では馴染みがない話をし始めた。

 そんな興味深い話を前にすれば人一人の事情などどうでもよくなる。

 現に、さっきまで流れていた空気は完全に消え去り今では笑いが溢れている。

 まあ、それは単純に先生の自虐風の思い出話が面白いからでもあるが。


 結局授業始めた二十分くらいしか授業という授業はしなかった。


「明後日! 明後日めっちゃ進めるから!」


 それ、先週も聞いた。

 授業終了のチャイムが鳴れば教室には更に弛緩した空気が流れる。

 挨拶をして開放されれば外に出る人や自分の時間を過ごそうとする人が出てきて金谷を意識した人はもういなかった。


「雅樹お前、教科書俺の机に置き忘れてただろ」

「あ! そうだそうだ! 龍輝の席においてそのままだったんだ」

「なんでそんな所に忘れんのよ」

「龍輝と金谷さんが話してて気になってわすれた」


 鶏かよ。

 いや、鶏でも三歩は覚えている。つまり、鶏以下ということだ。


「武内さん、館林さん。先ほどはありがとうございました」

「別にいいって。そんなんじゃないし」

「教科書無くしてたのは事実だし」


 それはお前の脳みそが自動消去つきだからだよ。


「良い幼馴染をお持ちなんですね」

「だろう? 戦意喪失でもしたか?」

「いえ、流石にこちらの数が多いので手加減をと思いましたが......その必要はなさそうですね?」

「当たり前だ。手加減なんてふざけた真似すんな。戦うなら徹底的に潰し合おうぜ」


 面倒ではあるが場が整えば最高に楽しいことは間違いない。

 伊吹先輩と言い合いすると煽りとか挑発がひどすぎて殺意湧くけど金谷なら嫌悪感だけで済む。


「でも今回のことはお礼を言わせてください。もう少しで吐きそうでしたから」

「あの空気じゃ仕方ないでしょ。これからは結構な頻度で来るの?」

「そうですね。選挙まではこないと不利になると高城会長に言われました」

「だってよ龍輝」

「吐くならトイレでな」

「あからさまに冷たくされるのも悪くありませんね」


 誰かこの変態止めて。

 勝手に新境地開拓し始めてるんだけど。


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