第百六十八話 主人公にしては道が険しすぎる件
具体的な公約が決まったらあとは応援演説の人間とその台本、立候補者の台本が必要だった。
「で? 応援演説誰がやるの?」
会長があゆのために帰ったあと、残った面子で考えることに。
「ぼく的には館林が適任だとは思うけどね、イケメンだし多少ドジしても大半は「可愛い~」に変換される」
「俺がドジしたらどうなりますかね」
「超マイナス。一切のドジは許されない」
「うわ。無慈悲」
顔面の偏差値でここまでの格差が生まれるとか生きづらくてしょうがない。
「でもそれは相手も同じなのでは?」
「あー無理じゃない? アタシが言うのもあれだけど金谷は結構美人だよ。ちょっとのドジじゃむしろプラス」
「なるほど。なら館林先輩が出た方がプラス点は確実そうですね」
なぜに皆既に納得してるんですかね。
応援演説に出てもらう人はもう決まってるのに。
「俺は海原に応援演説はお願いしたい」
「えっ」
海原のみならず他の面子まで俺の言葉に唖然としている。
「ほう。やはり彼女を壇上に出して自慢でもしたいのかい?」
「違います」
「ならなぜだい? 君のことだから最短で点数が稼げる方法を考えてると思ったのに」
「そ、そうですよ! 『恋愛禁止』を公約に掲げる相手にカップルで挑むとか挑発以外の何物でもありません! 他生徒だってカップルばっかじゃないんですから!」
それなら俺が真っ先に考えたことだ。
考えた結果、雅樹を出しても海原を出しても無意味という結果になった。
「挑発? してやろうじゃねぇの。どうせ相手はバラすだろうよ。俺と海原が付き合ってることをな」
ヘイトをこちらに向けて彼氏彼女がいない生徒の票を集めるだろう。
「相手が出してくるであろう最大の攻撃を最小の一手で制することが出来れば圧勝出来るんだ。逆に言えば、最大同士の攻撃になればこちらは感情に訴えないから弱くなる」
リア充に対するイライラや不満を向こうは最大限利用してくるだろう。
だがこちらは、完全に利便性重視。生徒の向上心次第であった。
金谷美里と俺は喧嘩をしたことがない。
喧嘩をするほど一緒にいなかっただけだが、それだけにどんな手を使ってくるか想像がつかない。
「やはり山田龍輝らしい戦術だ。攻撃より防御を優先するなんてね」
「防御は最大の攻撃ともいうでしょう。どんなに攻撃力が強くても一撃で沈んだら意味がないんです」
「オレの出る幕はなさそうだな」
「出たいなら俺の敵として立候補すればいいんじゃないか?」
雅樹相手なら楽しみが増えるというもの。
そして俺と金谷が惨敗してわけも分からず雅樹が生徒会長になるところまでがセット。
「負けが確定してる試合には出たくない」
「アタシたちが出来ることはなんもなさそう」
「それなら調査を手伝ったらどうだい?」
「調査ってなんのすか?」
「生徒主導の学校運営と言っても例がなければ実感が湧かないだろう? その例を集めるのさ」
「確かに重要だ」
俺達の公約の要と言っていい。
「どうだ。海原も、雅樹と柚子も手伝ってくれるか」
「当然ですよ! 先輩がやれと命令するならやります」
「そこまでは言ってないけど」
「そうね。やってもいいけど絶対に勝ちなさい? 人を働かせておいて負けは絶対に許さないから」
「フットワークの軽さなら任せろ!」
全員俺の申し出を快諾してくれた。
仲間内で役割が決まるととても楽だ。
「その間、龍輝は台本作り?」
「そうだな。俺も頭で考えてみる」
「頼むぜ大将。龍輝が輝けるようにオレ達も頑張るから!」
「別に輝かなくていい」
「そんなこと言うって! お前が主人公になるんだよ!」
俺が主人公ならもっと楽に人生歩めるもんじゃないのかね。
主人公にしては道が険しすぎる件。後にも先にもな。