第百三十話 「理屈が通らないことは出来ないでしょうに」
熱を出して二日目。
体温は下がったもののまだ気怠さが残る。
今日は平日で、本来なら学校があるが今二年生は修学旅行でいない。
つまり休みだ。
「海原さんも学校だしね。といっても大学生になれば結構暇な時間は増えるよ」
「よく聞きますけどそんなに増えますかね?」
自由選択の授業とかでかなり増えると思うがその分バイトやサークル活動なので時間が取られるのが大学生のイメージ。
「いやいや、バイトは掛け持ちしないと時間はそんなに取られないし、サークルに入るのは陽キャの中の陽キャ。女を喰らうことしか考えてない狼だから」
特にテニスサークルと飲みサークルは魔境と鈴音さんは光を失った目で言った。
過去に色々と闇をお持ちのようで。
「ところで龍輝君は進学するの? それとも就職?」
「一応経営を学びに大学には行くつもりですけど」
それと平行して心理学とかも取れたらと思っている。
二つの専攻を学べる大学も実家から通える距離にはある。
「なるほどね~。高校の時にそこまで考えてるの凄い」
「高二になれば普通にされるでしょ」
「あんま意識してなかったかな? ほら、ウチ高校の時はザ、芋! みたいな生徒だったし適当にレベル高い所言っておけば親も文句はないだろうしね」
小畑先生が言ってたっけな。
ただ......なんというかつまらなそうだ。
「鈴音さん、なにがしたいんですか? 今」
ふと湧いた疑問。
社会人である鈴音さんの目標。
キャリアを手にし、仕事一番と考える女性の目指す場所。
それが急に気になった。
「え? なにがしたいか......特にないなぁ」
そう言って鈴音さんは笑った。
生きてて楽しいのかこの人。
「あ、その目はなんか失礼なこと考えてるね?」
「生きてて楽しいのかなと」
「楽しいよ! 特に目の前でドラマみたいなラブコメ繰り広げられたらね!」
興奮気味に言う鈴音さんの胸がぽよんと揺れる。
そんな楽しいだろうか。
俺と海原の距離感は。
「そうですか。人生の肴になってるようで良かったですよ」
「冬休みになんか動いて欲しい感はある。ほら、だいだいの恋愛モノって冬に動くこと多いじゃん? 特にクリスマスとかさ」
「そんな予定はない。冬休みは海原が帰省して俺はそこにいけない。進展もクソもないんですよ」
海原は当日、親が迎えに来るという事になっている。
俺が後で電車乗り継いで行ったとしてもきっと海原には会えないだろう。
「そこはさ、愛の力でなんとかしてさ」
「漫画の見すぎですって」
生憎なことにここは現実。
愛の力があったとしても保護者という権力者には勝てないのだ。
「ちぇ。冬休み明けには恋人同士ルートだったのにね」
「勝手に人の関係を進めないでください」
「でもなりたくない? 恋人同士」
「ないたいですけど。なんか違うんですよ」
「なにが?」
言葉には出来ない違和感。
恋人同士になったらなにかが決定的に変わってしまう確信と不安が俺の中であった。
「なんか......違うんですよ」
「答えになってないし、相変わらず理屈が通らないと硬いねぇ~」
「理屈が通らないことは出来ないでしょうに」
理屈が通らないことをするにはそれなりの事情だったりが必要だったりする。
そして、俺と海原が付き合うことに関して言えば、これといった事情もない。
「お姉さん的にはそうやって理屈を毎回こねる人が好きな人のために衝動的に動くところは見てみたいなー」
「俺にそういうのは求めないでください」
衝動的に動く元気いっぱいの俺は、中学上がる頃にはボロボロだったよ。
いっぱい痛い目を見てきたからな。