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第百九話 「今わたしマーキングされてます?」

文化祭準備開始から二週間、学校全体は文化祭色に呑まれた。

 教室の入口はそれぞれの出し物色にカラーリングされ、一気にお祭り気分になる。


「あー悪い龍輝、買い出し行ってきて」

「了解。なにを買って来ればいい」

「卵とパンケーキの元。買い足し忘れてたわ」

「明細は貰って来い。教師の会計に回して費用は出る。ま、会計私だがな!」


 浜辺高校倒産の危機。

 一番ガサツそうな人に会計任せちゃダメでしょ。

 経営権渡すようなもんだぞ。

 財布を持って駐輪場へ。


「あ、先輩。先輩も買い出しですか?」


 声のした方を向くとメイド姿の海原がいた。

 手ぶらということは海原も買い出しなんだろう。

 メイド姿で買い出しかよ。補導されるぞ。


「どうせなら乗ってくか?」

「ありがとうございまーす」

「スカートだけ気を付けろよ」


 海原のスカート裾が引っかからないことを確認して俺はペダルをこぎ始めた。

 まだ昼で人通りが多い遊歩道をメイドを後ろに乗っけて自転車を走らせる。

 やっぱ人目は引くよな。


「今わたしマーキングされてます?」

「なんの話だ」

「こうして昼の時間に目立つ後輩を自分の自転車の後ろに乗っけて俺のだって主張してますよね?」

「考えすぎだ」


 俺は短くそう返した。

 学生の前でやるならともかく道行く人に見せたところでただの後輩自慢にしかならない。

 自転車をこぐこと十数分。


「到着。海原はなにを買いに来たんだ?」

「おや? 聞くということは手伝ってくれるってことですよね?」

「流石にメイド姿の後輩を一人で歩かせるわけにはいかないだろ。俺の方は全然だし」

「お買い物デートですね! いいですよ!」


 海原はとても嬉しそうに裾をゆらゆらと躍らせる。

 なんでこう、海原とのデートはまともな服じゃないんだろうか。

 一回目は探偵服、二回目はメイド服。忘れたくても忘れられないぜ。


「喫茶店準備で甘いもの食べたのでなんかしょっぱい物食べたいですよねー」

「そっちもか。確かにしょっぱいもの食べたくなるよな」


 ホイップクリームとかハチミツとか激甘なものは避けてはいるがそれでも教室に匂いが籠るため教室が甘くなる。

 人によっては教室にいるだけで気持ち悪くなるだろう。


「あ、たこ焼きやってますね」

「移動販売車か。なんていうタイミング」


 しょっぱいとは違うし本来なら授業中であるこの時間に学生が買い食いをするという不良ルートまっしぐらな行動だが、今回は許可を得ている。

 つまり買い食いしても問題はない。


「多少ならいいだろ」

「先輩半分こしましょ? お昼も近いですしお弁当も作って貰ってますし」

「それもそうか」


 屋台のおじさんにたこ焼きを貰って近くのベンチに座った。

 丸いたこ焼きの上にはソースと青のりが振りかけられ、香ばしい匂いを漂わせる。

 さらにその上ではかつお節が踊り食欲を駆り立てていく。


「それでは先輩、あーん」

「いや箸ちゃんと二膳貰ったじゃん。それに家じゃないんだからやらないぞ」


 自分用の箸を割ろうとすると変な力の入れ方をしたせいか、四分の一が片方に残ってしまった。

 これには海原はどうだと言わんばかりの表情。

 ただ使えないこともない。


「誰も見てませんし大丈夫ですよ」

「そういう問題じゃ」

「食べて? ご主人様」


 メイド姿の美少女の「ご主人様」は軽く人を殺せる。

 その証拠に、俺の理性という人間は死んだ。

 俺は辺りをキョロキョロと見渡し生徒や知り合いが付近にいないことを確認して口を開けた。


「あら、素直ですね。メイド冥利に尽きますね~」

「いいから。今ならだれも見てない」


 海原にたこ焼きを食べさせてもらった。

 ぐずぐずしていたからか中まで少し冷めていてもう熱くはなかった。


「どうですか?」

「美味い。味が濃いのがあれだが」

「そうじゃなくて」

「ん?」

「後輩のメイドにあーんしてもらった感想です。嬉しかったですか~?」


 なんだろうこの素直な気持ちを言ったら負け感が漂う言い方。

 だがここは敢えて正面突破で行こう。退くことはない。嘘ではないのだからな。


「嬉しかった」

「では言うことがあるんじゃないですか」

「ありがとう?」


 まさかの二段構えで反応が遅れてしまった。


「違いますよ」


 海原の顔が至近距離まで近づき、赤い瞳が愉快そうに曲がった。


「だ・い・す・き。って言うんですよ」

「大好きだぞ海原」

「あえっ! ど、どうも?」


 流石のドSメイドも三段目は用意していなかったようだ。

 分かりやすく顔を真っ赤にして狼狽している。

 言ったはずだぞ。理性は死んだと。


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