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第百七話 誰が座椅子だ

文化祭準備で学校中がざわざわしてクラスの境目を通るたびに違う匂いが漂う。

 ソースのような濃い食べ物の匂いだったり木材の匂いだったり。


「~♪ ~♪」


 目の前では上質なメイド服が鼻歌に合わせて揺れる。

 初めての文化祭でワクワクしているのがその揺れで分かる。


「楽しいか」

「はいとても! なんか空気が違いますよ!」

「そうか? 皆疲れてるように見えるが」


 一週間前まで体育祭練習で身体を動かし運動していたわけだし、身体も心も疲れていると思う。


「服、ヒラヒラしてんだから気を付けろよ」


 教室内で作業するために椅子や机が出されていたり、俺と同じくらいの長さの木材だって壁に立てかけられていたりする。

 そんな中海原は辺りをキョロキョロとしながら歩いている。

 見ているこっちがソワソワする。


「なら先輩が抱きかかえてくれますか?」

「前向け、危ないから」

「先輩がお姫様抱っこしてくれれば万事解決なんですよ」

「人目があるからやだ」

「では人目がなければしてくれるんですか?」

「......まあ」

「言質取りましたからね! 絶対にやってもらいます!」


 文化祭のテンションに釣られすぎだろ。いつもよりもテンションが高い。


「おっそ!」

「自販機行くつって何分経ってんだよ」

「このメイドに言え」


 海原が普通の制服ならもっと早く帰ってこれた。

 教室に帰ればクラスメイトがまたかと目線を戻しお喋りを再開させるはずだった。


「ね、ねぇ。海原さん?」

「なんですか?」


 俺達が自分の席の周りで談笑しているとクラスメイトが話しかけてきた。


「そ、そのメイド服見せてもらうことって、できる? その写真も撮らせて貰えるとうれしいかなって......」

「悪用しないならいいですよ」


 俺の膝の上から降りた海原は真っ直ぐと立った。

 人肌が離れた俺の膝は寒かった。


「あ、立たなくてはいいかな? 山田の膝の上にいてくれた方が助かるかも?」

「分かりました!」


 嬉しそうに海原が俺の膝の上へと戻ってくる。

 俺の膝は温もりを取り戻し暖かい。


「メイドが人様の上に乗るなよ」

「ご主人様はこの方が嬉しくないですか?」

「カメラ向いてるから前向け」


 嬉しくないわけないだろうが。絶対に口には出さないけど。


「山田は机に左肘ついてそれに頭乗せて右腕は座席の背もたれに乗っけて? なんか偉そうな感じ出して」

「注文が多すぎる。撮影会場じゃねぇんだぞ」

「で、でも。漫画研究部でメイド描くから資料持ってこいって伊吹先輩が」

「......それは、ごめん」


 脅されたのか。

 なんで俺の周りの女性は無意識な圧が強いんだ。

 伊吹先輩の指示なら彼女に非はない。

 黙って撮られることにした。

 パシャパシャと色んな角度から撮られ、海原の横顔はどこか嬉しそう。


「笑顔が上手いな」

「そういう先輩は下手ですね!」

「自然に出る笑い以外は不慣れでな。作り笑いは出来そうにない」

「ならわたしの顔見てください」


 俺が海原の顔を見るとふわりと少し尖った八重歯を見せて本当に楽しそうに笑った。

 可憐でいじらしく今すぐ彼女を自分色に染め上げたくなるような無垢な笑顔。


「ふっ。なんだその笑顔」


 こんなの伝染させるなという方が無理な難題。

 戦争国にこの笑顔を持っていけば世界平和も夢ではない。


「え、変ですか?」


 キョトンとした顔も更に可愛いのは反則だと思う。


「別に変じゃない」

「ならもっと笑ってください。こう可愛く」

「俺に可愛くは無理だろ」

「いけますって! こう口角をあげて......あ、やっぱ無理しなくてもいいですよ?」


 変なら変とそう言ってくれ。

 分かりきった遠回しの気遣いが一番辛い。


「あ、あの~お二人さん? もういいよ? その写真は一杯撮れたから」

「だとさ」

「分かりました」

「......退くつもりはないんだな」

「ここはわたしの特等席ですから!」


 誰が座椅子だ。

 ま、今俺が動いても準備の邪魔になるし下校時刻までダラダラと過ごすか。

 メイド服でフラフラされるよりかは全然いい。


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