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第九話 やったね。マイナス戦績だったら圧勝だよ。

「ってことがあったんだ」


 日曜に雅樹をファーストフードへと呼び出し知恵を貸してもらった。

 既に俺達は昼を食べ終わり本題の相談へと入ったところだ。


「いいじゃん。あんな可愛い後輩とそんな密着して役得にも程がある」

「なら代わってくれるか?」

「無理じゃないか? あの子、オレと目が合っても二コリともしない。龍輝の前以外じゃ基本真顔で笑わないぞ」

「どうだかな。今までありとあらゆるアプロ―チをくらってきた。これもなにかの作戦なんじゃって疑ってる」


 アプローチされた数なら全世界の男で一番多い自信がある。そしてその後の戦敗レベルも勝てる。

 やったね。マイナス戦績だったら圧勝だよ。

 俺の不満を体現するかのようにカップに刺さったストローがズゾゾッという音を立てた。


「前にも言ったけど、オレと柚子の考えは一致。海原海老名という女子生徒は山田龍輝という男子生徒を好いている。今までオレか柚子の意見が一致することなんてなかっただろ?」

「まあな」


 どちらかがイエスを出せばもう片方はノーを出した。それもしっかりとした理由つきで。

 それで恋愛を楽しめという方が無理な話だ。


「もう少し信じてあげないと流石に可哀そうだぞ」

「俺の戦績見てもそれをいうか。雅樹のせいじゃないってのも分かってるし結局誰とも付き合うまでいってないから恨みもしないがただ戦績はマイナスになるのは変わりない」

「どうしたもんかね」


 イケメンの幼馴染を持った男の末路だ。俺が女だったらきっとこんな思いをせずに済んだのだろうか。

 ......いや、今度は雅樹が俺の役割を担うだけだ。


「龍輝。これだけは言っておく。泣かせるなよ? あんな可愛い子の泣き顔は見たくない」

「殴ったり罵ったりして泣かせたりはしない」

「それ以外ではすると? 例えば酷く突き放したり」


 雅樹がデコピンをした瞬間に俺の胸にチクりとしたなにかが刺さった気がした。

 きっとこのまま行けば俺が海原を受け入れることはないだろう。理由は怖いから。海原を信用できないから。


「過去は過去だ。ま、これから過ごしていくうちに信頼するようになるさ。あのアタックの強さだからな。柚子と違ってチクチクじゃなくて目の前で大砲撃たれてるようなものだからな。泣かせなきゃオレからは特になにもない」


 雅樹はやれやれといった仕草のあと腕時計を確認した。

 このイケメン。相手の気持ちに気付いていながら見て見ぬふりをするクソ野郎である。

 暴行が許されるならこいつの頬をスレッジハンマーで殴りたい。


「そろそろ出るか」

「......」

「うわ-! 嫌そうな顔!」


 雅樹は店の中にも関わず大きな声で笑い出した。


「出たくない」

「きっと手出しはされないって」


 俺と雅樹はトレーを持って席をたった。

 今日は日曜日。休日に俺がでかけると知った海原が取る行動はかなり限られる。なんならそれ一択な気もする。

 店を出て飲食、服飾、雑貨など様々な店が入ったビル群。一号棟には飲食が、二号棟には雑貨が、三号棟には服飾が集まっており、客層も目に見えて違う。


「さて、どこに行こうか」

「漫画見たい」

「なら本屋か。雑貨系は二号棟だな」


 目当ての二号棟を目指して歩きだすと後ろのコスプレ二人組もこそこそとしながら着いてきた。


「なんなんだあのステレオタイプな探偵は」


 後ろのコスプレ二人組は示し合わせたように茶色の探偵服を着ていた。着ているのは当然海原と柚子。

 人の目を集めるし中にはスマホを構える人の姿も見える。それでいて本人達は気付かれてないと思っているのか俺達に話しかけるようなことはしない。

 あくまで遠巻きにチラ見ではなくがっつり見てくるだけだ。


「あの二人と知り合いだと思われたくない」

「それは確かに分かるな。うん」


 雅樹と後ろの二人組を連れて二号館に入ると休日ということもあり人が結構いた。

 ただ館自体がかなり広さがあるため俺達を見失うことはないだろう。出来ることなら人混みに紛れて撒きたい。あの変人二人を。


「龍輝、おススメの漫画ってなにかあるか?」

「柚子はアクション漫画が好きだぞ」

「人の話聞け! 龍輝のおススメだ柚子の好みじゃない」

「話題作りにはいい気がするけどな」

「話題にはおかげさまで困ってない。仲良くやってるよ」

「仲良くねー」


 ま、二人の間に子供が出来たら俺は無条件で喜んだあとパパになったこいつの首を三〇六度回すだろう。


「俺のおススメはこの辺り。日常系、ラブコメ、異世界系」

「見事にバラバラだな......アクション漫画ってどんなのだ」

「......」

「なんだよ! 黙るな!」

「死ね」

「直球!」


 数々の女を振り続けた男も可愛い幼馴染相手じゃ実力を発揮できないんだろう。


「少年系は分かりやすいし読み応えがある。大人系はちょっとグロが入ったりする」

「巻数が少ないの買ってみるか」

「悩め悩め。それが楽しいところだ」


 漫画やライトノベルなどのジャンルは巻数が多いことがある。全て新品でそろえようとすると軽く五千円は飛ぶ。高校生に軽く出せる金額じゃない。だからどちらを続けて買うか悩むんだ。


「俺トイレ」

「おう」


 雅樹が漫画コーナーで「うーん」と唸っている間にトイレに向かった。

 用を済ませたあと手を洗いトイレを出たところで視界の端に白いものが見えた。


「あ......」


 気まずそうに手に持つハンカチで口を隠し上目遣いでこちらを見つめる後輩。

 海原海老名がトイレから出てきたところを出くわしてしまった。


「あ、あの......先輩?」

「色々聞きたいこと、言いたい事主に苦情が大量にあるが。それは歩きながらでいいだろ。どっか行きたいところはあるか?」


 俺がそう聞くと海原はポカーンとした顔をした後に俺に飛びついてきた。


「わたし! 先輩と服を見たいです!」


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