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カヤデ  作者: ジョアンナ
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第九話

カヤデは私を屋敷に送り届けてくれるとすぐに天之宮に戻っていた。帰りの牛車の中に、カヤデはいくつかの紙の束を持ち込んでいた。それがカヤデの天之宮での仕事の物だというのは直ぐに分かった。私の、東宮妃の後見の役目と平行して天之宮を支える若き天人としての勤めを果たすのは容易なことではないだろう。そんな忙しい体でもなれない私を気遣って一緒に屋敷に戻ってくれたそのさりげない優しさが私は素直に嬉しかった。


「ありがとう、カヤデ。優しいね」


別れ際私がそう言うとカヤデは相変わらずの無愛想な表情を浮かべたまま短く


「気にしなくていい」


とだけ答えた。そう言った時のカヤデが耳まで真っ赤だったことは出迎えてくれたあかるさんも一緒に目撃している。


カヤデを乗せた牛車が屋敷を離れた後、私とあかるさんはこらえていた笑いをついついもらしてしまった。


「さて、お疲れでしょう。お部屋を用意しておきましたのでそちらでお休みください」


「ありがとう、あかるさん」



お屋敷は寝殿造りに似た造りでとても風通しがいい。廊下と部屋を隔てる直接の扉はなかったが、私にあてがわれた部屋は屋敷でも奥のほうにあり、観音開きの扉が付いていた。


部屋の中は寝台と机、そして記帳が置かれていただけでこざっぱりとしていた。だがそれら全てには金がふんだんに使われており、とても高価な物であろうというのは素人目でも直ぐに分かった。


「もうこの衣装を脱いでも構わない?」



「えぇ、もちろんです。お手伝いいたしますね」



シュルシュルと着物が解かれていくたびにどんどん体が軽くなった。

最後にウイッグを外してもらうと、私は思わずため息をついた。


「女物男物と限らず正装は重いので大変だったでしょう?」


確かにカヤデが着ていた衣装も見るからに重そうだった。


「そうだね。でも、カヤデは毎日正装して天之宮に行っているのでしょう?大変だね」


「坊ちゃんは天之宮でも政治の中枢に籍を置かれている方ですから、あまりだらしのない格好はできないのですよ。仕方がないこととはいえ、大変なお仕事ですよね」


「ー本当にね」



最後に軽く薄い衣を纏わせてもらってようやく私の着替えが終わった。


「今お飲み物でもお持ちしましょう。少々お待ちください」


「ありがとう、あかるさん」




その姿を見送った後、私はごろりと床に横になった。大変な所に来てしまった、というのが本音だ。


 思い出すのは天帝のことよりもイマチとかいうあの男のことだ。私を男と知って口付けをしてくるとは、よほど辱めたかったのか。それとも、そちらの趣味があるのか・・・・。どちらにしても、あまり関わりを持ちたくない人物だ。



カタンと部屋の外で音がして、もうあかるさんが戻ってきたのかと体を起こした。



「失礼します。いち姫様、サクの宮様から贈り物が来ております」



あかるさんとは違う女性の声がして私は急いで記帳の奥に隠れた。女性物の衣装を脱いでしまっているので、容易に人前に出るようなことはしないほうがいいだろう。カヤデの屋敷の中とはいえ、いたずらに私の正体を知る者や疑うものは増やさないほうがいい。


ーそれに、一応お姫様だからね。


薄い着物を羽織っただけの、下着姿のような格好で人前に出れるはずもない。



「−サクの宮様から?」


「はい。お部屋に失礼してもよろしいでしょうか?」



サクの宮、とは私が嫁ぐ天帝の息子の名前だったはずだ。でも、何故急にプレゼントなんて・・。もしかして、私が嫁ぐことを知りその挨拶のかわりなのかもしれない。




「ありがとう。後で見ます。そこに置いておいてください」

「かしこまりました」



彼女が部屋を出て行ったことを確認して私は置かれていた蒔絵の箱の紐を外した。




「なんて綺麗な・・・」




中には手紙が一通と、見事な細工で作られた白い花の簪が入っていた。

手紙には弟、イマチの非礼を詫びる文と私に会えることを楽しみにしていると書かれていた。




かんざしを取り出し、かざしてみた。素人の私の目でも分かるほどに、精密に丁寧に花を模して作られている。かすかに芳しい香の香りがした。

おそらく、サクの宮は趣味がいいひとなのだろう。




「いち様」

「え・・?」




急に声をかけられ私は驚き顔を上げた。私のすぐ目の前には髪をみずらに結った可愛らしい少年が立っていた。




「失礼いたしました。お声をおかけしましたが、なにやら取り込んでいらっしゃったようなので、勝手に入ってきてしまいました」




「え、いいえ」




しまった。薄い襦袢一枚しか羽織っていないから、もしかしたら男と気がつかれてしまうかもしれない。 感極まった風に、少年は私の手を取り目を潤ませていた。




「いち様、ご心配をおかけして申し訳ございませんでした。先川でございます」



「え」



「もっと早くにご挨拶にお伺いしたかったのですが、何分こちらの世界を離れて久しいものですから、色々と雑用がたまってしまいまして・・それらを粗方片付けておりましたらすっかり遅くなってしまいました」



 声こそ違えど、確かにこの口調は・・・。

「本当に、先川さん?でも、確か私の部屋で、私の目の前で倒れて・・・」



彼は、あっけにとられている私に申し訳なさそうに頭を下げた。




「その節は、ご迷惑をおかけしました。いち様とご一緒にこちらの世界に戻ろうとお迎えにあがったのはよかったのですが、急に天帝に呼び出されまして、急ぎ魂のみこちらの世界に戻ってきてしまいました。さぞや驚きになられたでしょう・・・」




「は、はぁ」



話の急展開にはこの世界にきて以降慣れようとは努力はしているものの、やはり驚いてしまうものは驚いてしまう。




「あちらの世界では図らずも老女の姿をしておりましたが、私の本来の姿はこちらでございます」


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