第四話
私は踵を返したが、おかしなことにそこに見えている廊下へ入れなかった。足を乗せようとしても、堅い見えない壁に阻まれてしまう。
どうして・・。私はあせってまた草原の方を振り返ったが、やはりその先に建物らしきものは見えなかった。
―私は、また閉じ込められたのか?
思わずその場に座り込んでしまった。
・・まるで私はおもちゃのようだ。私の知らない所で、私の知らない誰かの意思によって私は動かされているのだから・・・。
「何を嘆く」
上の方から声がして、私はうなだれていた首を上げた。そこには、長い黒髪を後ろにひとつでまとめた、私と同じ年ぐらいの青年が立っていた。
近づいてくる気配すら感じさせなかった。
突然の問いに私は何と答えたらよいか分からずにいると、青年は首をかしげた。
「口がきけなくなったのか」
「いえ・・・あの・・・」
世情に疎い私でさえ一目でわかる豪奢な刺繍が施された着物に袖を通し、悠然と彼は私を見下ろしていた。何と答えてよいのか分からず私が逡巡していると、青年は自分の手をおもむろに私に差し出した。
これは立てと言うことだろうか、と私はその手をとる。勢い引かれ立ち上がらされた。
「今日天界へ向かうという話は聞いているだろう」
私ははっと顔を上げた。もしかして、彼は天界からの使者なのだろうか。
「はい。聞いていますが、まさか、ここがその場所だというのですか」
「違う。ここは入口だ。私が案内する。ついて来い」
人を見下したような、不遜な言い方だ。
だが、今彼に付いていくほかに選択肢はない。彼についていけば、人がいる場所にいけるだろう。そうすれば先川さんを助けられるかもしれない。
「ちょっ!ちょっと待ってください」
いつの間にか五メートル程先を歩いていた青年に、私はあわてて声をかけた。
「まってください!!」
「・・・」
聞こえなかったのだろうか、青年は振り返る事無くずんずんと先へ先へと進んでいく。
私は、その姿を見失わないでいることだけで精一杯だった。
15分ほどして、草原の中に突如として大きな木製の門が現れた。
観音開きのその門は、青年が触れると重い音を立ててゆっくりと開いた。
「待ってください!私の部屋で、女性が一人・・・!」
青年を追いかけて、門の中に入ると小高い山の頂に出た。そのまま歩みを進めると、古の都を髣髴とさせる碁盤の目に通りが区切られた、広大な街が眼下に広がった。
「天帝が治める天界だ」
私は息をのんだ。
ここが、天界。何と大きな街なのだろう。
「天帝がお待ちだ」