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カヤデ  作者: ジョアンナ
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第二十四話

「今、姫をイマチに渡してしまったら、イマチの宮の天下です。

何とか・・・そうですね、本物のタケハの宮が見つかるわずかな間ならば、その身代わりもなんとかなるのではないでしょうか。

都合良く、アマツの宮は都を離れられるのでしょう?それを利用してタケハの宮様をお探しになられたらいかかがですか」




「なるほど・・・。いくら一刻も早く東宮を決めたい状態だとしても、見つかってその日に東宮宣下を行なうとは考えにくい。準備を含めて最低でも一週間は余裕がある・・・・」



「すぐにタケハの宮がすぐに見つかるかどうか、それは大きな賭けですが、その恩恵は大きいでしょう」




カヤデがアマツの宮を見た。未だ渋い顔をしてはいるが、今後のことを考えても今の策が一番良いのだと彼も考えているに違いない。




「今までの占いでは宮の詳しい位置までは分かっていませんが、もう一度占ってみます。

もちろん成功するとも限りませんから、アマツの宮様は宮様でお探しになっていただかなくてはなりませんが・・・」




「それなら、私だって旦那のお役にたてます」



「あかるさん・・・」



 いつからそこに控えていたのか。部屋の入口にあかるさんが座っていた。その姿を認め、アマツの宮が大きくうなずいた。



「そうだ、あなたのことを忘れていました」



 カヤデもその表情を明るくした。私は、何がなんだか分からず三人の顔を見た。



「嫌ですわ、旦那」



あかるさんが、意気揚々と胸をたたいた。




「その青い瞳・・・もしかして、あなたはシビラの家の方か」




 アリヨ殿の驚く声が部屋に響いた。




 シビラ・・・とはなんだろうか。聞きなれない音に私は首をかしげた。



「私の母の血筋はシビラに連なっております。従って、私にもその力が備わっております」



「これは、なんと名誉なことだろうか・・。古代、その絶大なる預言者としての能力を発揮し、時の天帝すらその能力に敬服したと伝えられる、伝説の一族・・・。

いつの間にか歴史書からその姿を消した為、もはやその血は絶えて久しいのかと思っておりました」



あかるさんが、そんなにすごい家の血を引く人だったとは知らなかった。



カヤデ達同様、政治の中枢にいてもおかしくない家の出である人がどうしてこの家に侍女として使えているのか、私は疑問に思った。けれど、それには何か人には言えない訳があるのだろうと聞かずにおいた。




 けれど、アリヨ殿がそんな私の疑問を代わりに尋ねた。



「何故、シビラの家は急に表舞台から退かれたのですか?」




プライベートな事を、と思ったが、意外にもあかるさんは何でもないように答えてくれた。




「私も詳しくは知りませんが、祖母の口伝によるとある予言が時の天帝の怒りに触れたことにより天之宮を追放されたそうです」



「そうだったのですか・・・」

「ですが、ひとつ問題があります」



あかるさんの表情が硬くなった。



もしかして、タケハの宮様の居場所を占うのに何か対価が必要なのだろうか。





術者としてもかなり高いレベルを持っているであろうアリヨ殿でさえ占いきれなかった相手なのだから、一筋縄でいくはずがない。




「やはり、天帝の血がそれを妨げるか」




「坊ちゃん、それは、特に問題ございません。ですが、ある意味そうともいえます」




 天帝の血筋が問題であって、問題ではないとは、いったいどういうことなのか。




陰陽寮に勤めるアリヨ殿も、術に精通しているはずのアマツの宮も皆目検討がつかない、という顔をしている。



 もちろん、私などは言うまでもない。

普段よりも数段真面目な顔をしたあかるさんが、その訳をゆっくりと説明しだした。




「長い迫害の歴史により、シビラの民の力は衰えました。その血を継ぐとはいえ、私にできることは“呼び寄せ”という術のみ。


”呼び寄せ”とは、私が直接タケハの宮様のもとに精神を飛ばし、そのお心を連れてくること。そうすれば、直接タケハの宮様にその居場所を尋ねることができます。

ですが、お連れした宮様の精神を宿らせる、“依代”にはタケハの宮様により近い血を持つ方が必要になります」




―より、タケハの宮様に近い血・・。ということは、父である天帝か、もしくは宮様の母である后妃陛下。そして、今は亡きサクの宮様・・・。どなたも、現実的に協力を頼める相手ではない。




 やはり、シビラの家の末裔であるあかるさんにも無理な話なのだろうか。




そう、私があきらめかけたときだった。




「私なら、その役に適している。ということだな」




 カヤデが顔を上げた。あかるさんが静かに頷く。私は混乱した。

カヤデがそう言った意図が掴めない。これではまるで、カヤデが天帝に近い血を持つもの、そう皇子であるような口ぶりだ。




「やはり私の出自に気づいていたな、あかる」




「はい。私もこう見えて術者の端くれ。その身に流れる血の違いにはうっすらと気づいておりました」



「どういう意味?」




私の問いかけに、カヤデはすぐに答えてくれた。




「私は、現天帝の実の息子だ。タケハの双子の弟として生まれたが、訳があってそのことを知るものはアマツの宮と、その姉上であるエムサラ姫しかいない」



「なっ!」



「双子は、不吉の象徴だと古くから天之宮では言われていた。天帝の息子に生まれながら、双子に生まれた私達は、本来ならば生まれた直ぐ後に殺されるべき人間だった。それを、エムサラ姫が哀れに思い、生まれたのは先に生まれたタケハ一人だと周囲に術をかけ、私を兄妹として遇してくださった」




 ―その事実に驚いていたのは、私だけだった。アマツの宮やあかるさんはもちろんのこと、アリヨ殿まで取り乱した様子はない。




もしかして、アリヨ殿もこのことをご存知だったのだろうか。

程なくして、アリヨ殿が長く深い息を吐いた。




「やはり、そうでしたか。エムサラ姫が内々に私に幼いあなたを連れ、下界にしばらく滞在するように命じられた訳は・・」



「はい。術の準備と浸透のためにどうしても時間が必要だったそうです。あれほどお世話になっておきながら、お話しなかったこと、大変申し訳ございません」




 カヤデが深く頭を下げた。




やはり私の予想は的を射ていた。私の秘密が知れてしまう危険が有る以上、いくら天帝の命でも二人がいない間にアリヨ殿を屋敷に招き入れるはずがない。




 カヤデたちは、私の秘密が知れてしまっても、アリヨ殿は決して口外するような方ではないと初めから信頼していたのだ。




「では、カヤデにも天帝になる資格がある。ということ・・・?」




「血の上では、の話だ。私は本来生きていてはならない身。私の存在はタケハとて知らないはずだ」



 カヤデは、生きていてはいけない人だった・・・?そんな辛い事を、カヤデはなんでもないことのように言うけれど、その心が傷ついていないはずがない。




 生まれてきて、祝福されない人間などこの世に存在してはいけないのに。




―ましてや、高貴な血筋だから、慣習だからという理由だけで殺されようとした・・など、信じられない




 私が、もし天帝の后妃に正式になることができたら、こんな馬鹿馬鹿しい決まりごとを無くさせてしまう権利があるのではないか。



もし、そうならば私は一日でも早くその座につきたい。カヤデは幸運にも助かったが、歴史の裏には内々に殺された皇子や姫もたくさんいたはずだ。




私は、もう二度とそんな悲しい歴史を繰り返させたくは無い。



「要は、そこが問題なのです。タケハの宮様の精神を坊ちゃんの体にお降ろししたら、坊ちゃんの心を一時的ですが、タケハの宮様に明け渡すことになります。 その間に宮様が坊ちゃんの記憶を辿ろうとすれば、その出自が知れてしまうことになります」




「これは、賭けですね。タケハが、カヤデの記憶を辿れることに気がつくかどうか。もし、真実を知ったとしてもそれを口外するか否か・・・・」




「はい」




 アマツの宮が眉を寄せた。カヤデは何を考えているのかひどく穏やかな顔をしていた。




カヤデの出自が知れたら、天之宮は必ず荒れるだろう。そして、カヤデを

ずっと匿っていたアマツの宮や、エムサラ姫にまで累は及ぶ。 




ただでさえ今回の件で、天帝の怒りをかっているのだ。



もしこの秘密が知れたら、彼らはどうなるのか。そして、二人の加護を無くした私の性別も芋蔓に知れてしまうかもしれない。それくらい、私にも容易に想像できた。




「どうなさいますか」




 最後の審判を待つあかるさんの声がした。

果たして、それ程の危険を冒してまで、タケハの宮様を探す必要があるのだろうか。




 カヤデが、アマツの宮を見た。



「兄、私の覚悟は出来ている」

「カヤデ・・!」



カヤデはやる気だ。そして、アマツの宮も同じく・・・。




「やはり、危険を冒さなくてはなりませんか。結局、振り出しに戻るしかないのですね・・・」




アリヨ殿も頷く。




「姫。天之宮というところは恐ろしい場所なのです。天帝が絶対の権力を持ち、臣下はそれに逆らえません。もし今、あの何を考えているのか分からないイマチの宮が東宮に、未来の天帝にたつことになれば、将来天界自体が揺るぎかねない」




アリヨ殿に賛同するようにアマツの宮もカヤデも黙って頷いていた。

やはり、そうする他に手はない。私も覚悟を決めて頷いた。

事は急いだほうがいい、ということで早速“呼び寄せ”の支度が始まった。


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