第二十一話
あれから、三日が過ぎた。結局その後、私たちを含めその場にいた全員が天之宮から退出させられた。
この世界では死を何よりのタブーと考えているらしい。ましてや、天帝の住む天之宮の中での流血、死亡事件である。このような大事件は前代未聞だった。
陰陽寮に所属する全ての術者達を総動員しても天之宮全体の穢れを払うには最低一週間はかかるらしい。
カヤデも、アマツの宮もここ最近ずっとどこかへ出かけていて夜遅くにしか屋敷に帰ってこない。
帰ってきたらきたで、ひどく疲れた顔をしていた。一体今、天之宮はどうなっているのだろうか。
私はというと、この屋敷から出る事を禁じられ、朝夕毎日、穢れ払いをされている。姫たちの遺体に触れたこと、東宮妃の立場であることから、これはどうしても受けなくてはならないものだと説明された。
姫たちに触れたから穢れたと、言われたようで私は腹立たしかった。
「姫、お疲れになりましたか?」
禊の為の水浴びを終え、冷えた体を温めていると部屋にアリヨ殿が入ってきた。
アリヨ殿は、今年40歳になられるカヤデ達の親類にあたる方で、今は陰陽寮に勤めていらっしゃる。天帝の命を受け、こうして毎日私についているという穢れを払いに来てくださっているのだ。
「いいえ、大丈夫です。ただ、カヤデ達と最近お話する機会がないのでどうしているのかと心配しているだけです」
アリヨ殿は二人の子持ち、とは思えないほどに若々しい。
失礼ながら、その理由を尋ねてみたところ、彼も数年間外界、つまり私が以前いた世界で生活していたらしい。その為、実年齢とその容姿が釣り合わないのだと教えてくれた。
「天之宮は少々今混乱していますから、その処理に忙しいのでしょう」
天帝の皇太子が、義理の妹と共に亡くなったことにより、天之宮の行政システムは完全にマヒしていた。
東宮の婚約披露という重要な儀式であった性質上、あの場にいた天人全員は何らかの重要なポストに就く大臣たちばかりだった。
東宮を守ることができず、その責任を取って政治の中枢をになっていた彼らが次々とその職を辞していったことは、結果として今の状態を引き起こした一因ともなっている。
私は無力だ。こんな大変な時にこうして家に引きこもっていることしか出来ないとは。
「カヤデ達は、何らかの罪に問われているのですか?」
「私からは、なんとも・・・。ただ、天帝が酷くご立腹していらっしゃるようで、いずれは何らかの処罰を受けるかもしれませんが・・」
「どうしてですか」
「東宮妃である、いち様を、後見の身で傍にいながら危険な目に遭わせた、ということで」
「そんな!あの時は私が自分の意志で飛び出したのです。カヤデに責任はありません」
ただ必死だった。カヤデが自分の為に死ぬことはどうしても許せなかった。けれど、結果的に私の軽率な行動がカヤデを苦しめてしまったのだ。
自己嫌悪にさいなまれる。けれど、何度同じ場面に立ち会っても、私は同じことをしただろうと思う。
もし、カヤデが罰を受けるのならば、私もそれを共に受けたい。
私も東宮妃という立場にいながらサクの宮様を助けることができなかったのだから同じ事だ。そのことを伝える為にも、一度カヤデたちとゆっくり話がしたかった。
「姫も今回の事でお悩みが深いとは思いますが、今はお心お静かになさっていてください。亡くなったサクの宮様の代わりに、弟宮のタケハの宮様が東宮にお昇りになるという話が出ています」
・・・私は、今度はタケハの宮様に嫁ぐ事になるのか。
「私との相性は良いのですか?」
「はい。天帝が何もおっしゃらないことを見ると、恐らくは」
「そうですか・・・」
これが私の使命とはいえ、居た堪れない。 自分が、政治の駒の1つに過ぎないと思い知らされる瞬間だった。
「このような事件が起きた以上、東宮が空位であることは、由々しき問題です。一日でも早くタケハの宮様にその座に就いていただかなくては」
宮達がタケハの宮様について話をすることが今までなかったからか、その姿を想像することすら出来ないが、仮にもサクの宮の弟なのだから悪い人ではないと思うけれど・・・。
「お話中失礼いたします。いち姫様。アマツの宮様、カヤデ様がお戻りになられました」
あかるさんの声が、部屋の外から聞こえてきた。