第十四話
「姫は、このようにお美しい方でいらっしゃいますが、実際は男性です」
ぼんやりと話を聞いていた為私は一瞬反応が遅れたが、宮の言葉を反芻するうちその重大性に気がつき、ハッと宮の顔を見た。
カヤデが、心配はないと目で合図を送ってくれたが、いくら人のよさそうなサクの宮様とはいえ、私の性別は絶対のタブーだったはず。それをどうして・・。
「これは、なんという冗談だろう」
案の定、サクの宮も驚きを隠せないようだった。私はいたたまれない心地で、下を向いた。
もしここでサクの宮が激怒して、この結婚が破棄されてしまったら私はどうなるのだろう。
「本当だ。この都の存続の為、今天帝には内密にことを進めている」
カヤデも、かたい声で言った。
「今、この天界にある山々が噴火を繰り返し、川は氾濫しています。これは、天界が壊れ始めている証です。
それは全て正当な九重の妃を得ず、力の弱い天帝が即位し続けた為。サクの宮、あなたならよくご存知でしょう」
部屋の中が、緊張感で満ちていた。急速に喉が渇き、体は知らず震えていた。目を閉じ考え込むようにしていたサクの宮は、ゆっくりとその瞳を開いた。
「ーそうだね。最近の天界はおかしい。その理由の一つがそこにあるというならば、九重の血は必要だろう」
思いのほかその声音は穏やかだった。アマツの宮が続ける。
「今天帝の跡を継がれるのは、恐らくサクの宮、あなただと私たちは考えていました。幼い頃からあなたを知る身として、あなたならばこの秘密を持った妃を迎え天界修復を立派に果たしてくださると確信しています」
アマツの宮が、床に手を付き頭を下げた。カヤデも無言で兄に続いた。確信している、と宮は言ったが私の性別を宮に明かすことは大きな賭けだったに違いない。私は、固唾をのんでサクの宮の言葉を待った。
「姫、あなたは本当に男性なのですか?」
静かに問われる。私も、意をけっしてうなずいた。カヤデたちが信じた人だ。私も信じよう。
「―はい。私は、男です」
サクの宮は黙って私を見つめたまま暫く考え込まれていた。その様子を、私を含めその場にいた全員が見つめた。
心臓の鼓動の速さが知らずと増す。
「姫は、いいえ、いち様は男の身でありながら、私の妃となられることに御不満はないのですか?」
男だと告げた私を責める風でもなく、宮はあくまで優しい口調のままだった。それが逆に私を緊張させ、声を震わせた。
「私は、それをお役目と思って受けいれています。男の身ではありますが、精一杯サク様をお助けしていきたいと思っております」
紛れも無い私の真実だった。その間、私はサクの宮をじっと見つめ、宮も私を見つめていた。やがて、ふぅと、息を吐くと、サクの宮が優しく微笑んだ。
「そう・・。ならば、私に依存は無いよ。いち様を頂くことで私は天帝に昇り、私に与えられた宿世を全うすることが出来る。
それに、天帝の地位は予想以上に大変なものだと聞くからね。妃としてふさわしいとされる九重の血を持ったいち様は、例え男性だったとしても、必ずその助けになってくださるでしょう」
「―そのお言葉をきき、安心しました」
張り詰めていたカヤデたちの顔が安堵の色に変わった。私もそっと息を漏らした。
「私が、いち様が男であると知って激怒するとでも思っていた?」
サクの宮は困惑したような表情を浮かべて私たちを見ていた。サク宮も、この告白がカヤデや、アマツの宮、そして私にとっても生死を分けるといっても過言ではないものだったのだと気がついたのだろう。
「その可能性もなきにしもあらず、と」
カヤデが黙ったまま兄の言葉にうなずいていた。
「信用がないな。先ほどは私のことを完全に信じているようなことを言っていたのに」
サクの宮はどこかさびしそうに苦笑した。 その表情がとても印象的で、私はこの方の人柄を垣間見たような気がした。
カヤデたちが天界修復の為に命をかけたように、この方もまたそうなのだと。