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カヤデ  作者: ジョアンナ
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第十一話

天帝を助け、この都の政治に関わること。それが、私の存在理由だったというのならば、何故私は長い間あの部屋に監禁されなければならなかったのだろうか。妃候補ともうわかったならば、早々にこちらの世界に連れてきていればよかったのに。




「では、どうして私は12年もの間あの部屋に閉じ込められていたのですか?」




 もし、早くにこの世界に来ていたならば、こちらの習慣にも適応し天帝の妃としての心構えも出来ていたかもしれないのに。




「それは、あなた様が男性だったからです。普段あの部屋は、こちらに来る事が決った妃候補が最後に身を清め、精神を集中ことに使っていた部屋。

いわば禊の場なのです。第一、その左腕の証が浮き上がってくるのは慣例上、17歳を過ぎた時となっていましたから、幼い頃からその証を持っておられたいち様は、想定外の方でした。

おそらくは九重の家がいち様の性別を天帝に悟られる前に、奥に隠し婚礼のその日まで隠し通そうと考えたのでしょう。

九重の家にとっても、天界・天帝の加護は喉から手が出るほどに欲しかったでしょうから、何が何でもいち様を次期天帝に嫁がせる為の覚悟の決断だったと思います。

私は当初妃候補の娘が現れたとの情報を受け、かつその娘が体が弱い為に奥に引きこもっているから傍近くで助けるようにとの、天帝のご命令で下に降りました。ですからいち様が男性だと知ったときは本当に驚かされました」




「九重の家は、宮がこの世界出身だということは知っていたのですか?」




物心ついたときから、アマツの宮は私の傍にいてくれた。多方面から信頼が厚かったようで、一緒に私の世話をしてくれていた若い使用人は、時折そんな話をしてくれた。



「知らなかったと思います。あの部屋には九重の家の中でも本当に信頼の置ける者のみ近づくことを許されていましたから。



もっとも、私の場合は幼い頃から陰陽寮に出入りしていたせいか、少々術に覚えがありましたのでそちらは上手くごまかしたのですが・・・」




「アマツの旦那は、陰陽道に大変な才覚を持っていらして、当時の陰陽上が直々にご自身の養子にして一人前の陰陽師に育てたいと仰られたほどなんですよ。ですが、天帝の弟宮という高貴なご身分上、そんなこと出来ませんでしたけどね」



あかるさんが、得意げに補足してくれた。歳がそんなに変わらない様子を見ると、どうやら彼女と宮は旧知の仲のようだ。 そしてふと気がつく。



アマツの宮が、天帝の弟?と、いうことはその弟であるカヤデもまた・・・。

なるほど、東宮妃の後見を命ぜられるわけだ。



意図せずまた褒められ、宮は恥ずかしかったのか、その言葉を遮るように続けた。




「三代前の天帝の時代ならば、九重の家がこのような小細工をしてもあなた様の性別は上に筒抜けだったでしょう。

ですが現天帝はご高齢の上、九重の妃をお持ちではありませんでしたから、そこまで見通せるほどのお力はお持ちではいらっしゃらなかったのです。

私も、あなた様が男性だと分かった時点で天帝に報告をするか否か迷いましたが、将来のこの都の存続の為、上には黙っておりました。

もし、ご結婚前、もしくは後にでもいち様が男と知れて、何かしらのお咎めをもしお受けになることになった場合は、私も裁きを受けるつもりでございます」




「私もだ」




宮に続き、カヤデも強くうなずいた。傍には、あかるさんも真面目な表情で座っていた。




「旦那はそのもしもの露見を恐れ、少しでもこの秘密を共有する者が少数であるようにと、妙齢であるにもかかわらず、奥方も娶られず、このお屋敷には私以外に使用人はおいていらっしゃいません。お咎めの及ぶ範囲を最小限に抑えようとする、旦那のお心遣いです」




「・・・?あかるさん以外にこの屋敷に使えていらっしゃる方はいないのですか?」




「えぇ、下働きまで私ひとりでこなしておりますから」



私はふと疑問に思った。では、あのサクの宮からの贈り物をこの部屋に届けてくれた女性は一体誰なのだろうか。





自信満々にあかるさんが嘘を言うとは思えないし、嘘をつく理由もない。

すかさずカヤデが問いかけてきた。




「何か気になる事があるのか?」

「うん、カヤデたちがこの部屋に来る前に、サクの宮から贈り物と手紙が届いたんだ。それを持ってきてくれたのは、あかるさんじゃなくて若い知らない女性だったから・・」



そう言った瞬間、私を除いた三人が絶句した。宮が真剣な面持ちでカヤデを見た。




「私たちが来る前といえば、すでに一時間は過ぎている」

「兄」




カヤデも硬い表情を浮かべている。



「そうだね」




 兄弟は、うなずきあった。あかるさんまでが、青ざめた顔で定まらない

視線をもてあましていた。ピンと、緊張した面持ちのまま、カヤデが口を開いた。


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