8話:三度…繰り返し繰り返し
今回は結構短め、内容もそこまで詰めてない箸休め回みたいな感じです。
えっと、国立湊谷学園っと、検索検索……見つけた。けどホームページだけかぁ……
俺は今、ラップお握りを作り、それを食いながらパソコンで情報収集に励んでいる。汚いとか言われそうだが、時間が惜しい。
まず、テレビは見たが至って普通……そう普通なのだ、今日学園にはテロリストが堂々と入って来たのに、何も報道されていない。
人がやがては巣立つ学園である以上、情報のいくつかは外へ抜けているのだろうが、内部の情報を即座に外へ出す手段は制限されているのだろう、掲示板サイトを探したが全て接続不可。
反能力者とやらについても調べて見たが特に情報は無し、この学園で役に立つ情報は人と人との間でやり取りされるもの位だろうか。
つまりは生徒同士のメールや噂話などが情報源になると言う事だろう。
……情報を制す者は学園を制す、か……部活動の存在はホームページで確認済み、新聞部・写真部の存在も確認できたし、時間があれば行ってみても良いかもしれない、良い顔されるかは分からないが。
しかし……思ったよりも情報が出ない、やはり学園内でかき集めるべきなのだろうか……しかし反乱軍がいる以上、好き勝手に歩き回れるかどうかが課題だな……
悩み過ぎた時は……そうだな、寝るか。
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「てな訳でまた会ったな、ガム君」
「既に貴様の事を見飽きて来たぞ‼︎ 私は‼︎ 」
どうやら、気を失った時や眠った時、俺はガム君の居るこの精神世界に来れるらしい、おかげで1人暮らしでも退屈せずに済む。ガム君怒りの身振り手振りがなんとも微笑ましい。
「いや〜1人だと上手く寝られないから、君が居れば安心だな」
「ハッ‼︎ 貴様、1人で寝付けぬなど幼子にも劣っているな」
「いや、否定できないね、今も無理やり寝付いたからね、やっぱり1人は不便だね、本当」
昔は良く子守唄歌ってもらいながら寝てたなぁ、バイトやる様になってから疲労困憊で、泥の様に眠る様になってから必要無くなったけど……とにかく、バイトのおかげで1人でも眠れる様になった、それもあってかバイトの事、と言うか労働は嫌いじゃない。
「ガム君には色々と聞きたい事あるんだけど……」
「だからその呼び方を‼︎ ……いや、突っ込みを入れるだけ時間の無駄か……」
「ありがとう……まぁ聞いてくれよ、この学園での仲のいいクラスメイトについてだが……「居ない」……え? 」
「居る訳がない、そんな者」
ガム君の表情が少し暗くなった、見てられない。
「えっボッチ? 」
「ボッチなどと呼ぶなァッ‼︎ 」
「いや、ごめん、でも、本当に居ない? ちょっと会話するだけの人すら? 確か君は湊谷学園体育祭で6人を率いたリーダーになったんだよね? その時のメンバーとかは? 」
「……その面子は、確かに居る、しかし、特別な関わりは無く、仕事上の付き合いでしかない、強いて言えばやたらと楯突くどこぞの貴族の令嬢が居たが」
いや居るじゃん⁈ それ絶対フラグ立ってる奴じゃん‼︎ 春の訪れ既に来てるな、間違いない……だがこれは困ったぞ……ガム君の交流関係が0なら確かに楽だった、まぁあくまでそれならそれでの話だ、そんな状況、望みはしないし作る気もない……最終的な目標はガム君の健全な社会復帰だし。
だがもし彼を今の俺より知る人、氷室さんもそうだが、クラスメイトにそういった人が居た時の立ち回りを考える必要があるな。
それと、もう一つ。
「……俺さ、中卒なんだよ」
「はぁ⁈ 貴様、その様な形からして中学生かと思っていたが……まさか成人手前とは……」
「いや俺成人してるよ」
「ハァァァァッ⁈ き、貴様、分かりやすい嘘を吐くではないわ‼︎ どう贔屓目に見ても貴様は高校1年生以下だろう⁈ 」
ガム君めっちゃ混乱してる……いや、分かってたんだが、まぁそうなるよなぁ、俺身長150台だったし、もっと栄養取ってたらガム君みたいになってたのかねぇ、いや高望みか。
「まぁ、話を区切ろう、それで問題がもう一つ」
「ふん……勉強か……下らぬ悩みだ」
「察しが早くて助かるよ。一応俺も高卒認定試験を受ける為に勉強してた時はある、結局受ける事すら出来なかったけどね、だけどここのレベルに達してるかは分からない、だからそこを協力してもらえないかな? 」
「……はぁ、良いだろう」
えっ、良いの⁈ マジで⁈ 気前良いなぁ。
「勘違いするなよ、貴様の境遇への憐みが2割程度、残りは私が中卒レベルの頭だと噂されては死ぬに死に切れんからだ、異能ならともかく、勉強しなかった所で命は落とさんしな」
そこではっきり憐みもあるって言っちゃうあたり、ガム君も悪い人じゃなさそうなんだがな、しかし……噂の様に言われる人物になるまでに何があったんだ……?
「ありがとう、ガム君」
「礼など言われる筋合いは無い」
「おっ、そろそろ起床時間だ……また来るぞ、ガム君」
「もう三度も来ているんだ‼︎ 多少は遠慮と言う物を知れ‼︎ 馬鹿たれが‼︎ 」
宙へ浮かび、ガム君の姿がどんどん小さくなっていく。たかいたかーい。
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「……ふぁぁ、よく寝た……ん?」
……さっきから目覚まし時計の音をかき消すが如くにチャイムの音が部屋中を乱舞している。
誰がこんな時間に……まさか氷室さ……
「おお、悪代官、居たな‼︎ 」
何で君なの? そこで君来る? 普通?
「いや、先日マフラーを渡したままだったからな、私はそれを回収に来たのだ、お手伝いの悪代官にそこまで面倒を見てもらうのも悪いからな」
…………ふむ、随分と義理堅い事だ。今回は割と真っ当だが訪問するタイミングを考えて欲しい。
「いや、もうそれは洗って干してるんだけど……いつから居たの? 」
「朝の4時からだ」
早くね? 今5時だよ? どんだけ早起きなのこの子、寧ろ睡眠時間足りてるか心配なんだけど。
「朝飯は食べたのかい? 」
「いや、まだ食べていない、学園の食堂で済ませる予定だが」
……昨日の余りのご飯に作り置きした味噌汁、後は何かオカズを作れば大丈夫か……?
「それなら、ここで食べて行けば良いよ、今から作るから、あ、ちょっと身支度するから待ってて」
「いや、流石にそこまでは……」
「それならこっちも、折角朝早くから来てくれた客人をもてなさずに返す訳にもいかない、この理由じゃ駄目かな? 」
「……そこまで言うならば、ご好意に甘えさせてもらおう……かたじけない」
部屋に戻った俺はリビングに彼女を座らせ、味噌汁の入った鍋を温めなおし、炊飯器の再加熱ボタンを押す。
…………1時間後。
「お待たせ、ご飯と味噌汁、後きんぴらごぼうと鮭のフライの出来上がりだ」
昨日の余ったご飯と豆腐と昆布とお揚げの入ったシンプルな味噌汁、後はきんぴらごぼうに刺身用の鮭をそのままフライにした手抜き感もあるおまけの一皿に、鮭のフライだ。出来は分からないが、熱は最高のスパイス、熱い内に食べれば美味しさも増す筈。
「おぉ……これは見事」
「普通に料理しただけなんだけどね、冷める前に食べようか」
「「いただきます」」
食事中はお互いに無口になる質だった様で、テレビも着けず、ただ黙々と食事を摂った、食事中、彼女が思ったよりもおかわりするものだから、炊飯器もお鍋も空である、このご時世、ダイエットを気にする者もいるだろう中、今、よく食べるのは良い事だ。本当に。
「ただマフラーを回収しに来ただけの筈が、ここまでもてなされるとは……この感謝、筆舌に尽くせぬ」
「いや、こちらこそ態々来てもらったんだ、感謝してるよ」
「しかし、気になったのだが…………」
なんだろうか……随分と間を開けているが。
「……いや、何でもない、この度は随分と世話になった、改めて礼を、この黒いマフラーも回収させてもらうぞ」
……いや、何だったんだろう、気になるけど、まぁ、いいか。
その後、俺は帰る彼女を見送り、支度の続きを始めた。
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空を舞う少女が居た。
彼女はどうやら考え事をしている様だった。
(……ミルフィーユ仮面二号……悪く無いな、このままミルフィーユ作りの修行をマスターの元でさせれば立派な…………いや、違うぞ、考えるべきはその事では無い……)
少女の記憶は数週間前まで対峙していたあの男を映し出していた。
圧倒的な力、冷徹な振る舞い、力無き者は必要なしと切り捨てる無慈悲さ。
(……昨日今日の悪代官は……其方は本当に、あの悪代官なのか……? )
少女の中に疑念が萌芽しようとしていた。
(…………だがしかし、ミルフィーユを作れる可能性があるならどんな悪代官でも関係ないな‼︎ 今後が楽しみだ‼︎ )
しかし、少女の中に産まれた疑念はミルフィーユに押し潰された、ミルフィーユとは彼女にとって絶対的な正義なのである。
いよいよミルフィーユ仮面一号がヤバいキャラになってきました、どこまで手綱を握れるかドキドキしております。