3話:出会い…些細な縁が命綱
今回は世界観の説明が多いのでギャグ要素ゼロです(すっとぼけ)
……練習終わりぃ‼︎ 思ったよりも楽に覚えられる原稿が来て助かった、バイト初日に天を衝く様なマニュアルの束突き付けられて明日までに覚えろと言われた時よか遥かにマシだった……
「会長……何故目が死んでいるのですか……? 」
いやまぁ……あれで忍耐力ついた面もなくはないこともないね、いやぁ……厳しい戦いでしたね……
「会長⁈ しっかりして下さい会長⁈ 」
「あぁ……すまない、黒歴史に呑まれかけていた……」
「異能ですか⁉︎ 異能の攻撃を受けたんですか⁈ 」
こんな調子で生徒会室から会場へと向かうと、廊下の窓から校門をぞろぞろ抜けていく新入生が見える、青……黄色……赤……カラフルな髪の子だらけだなぁ、あっ、信号機っぽいな。
こんな光景を見るとますます俺は違う世界に来たのだと実感する。
前世の世界で百年の月日が経とうと学徒達の頭髪がここまでカラフルになる事は想像できない。因みに氷室さんは青髪に黒縁眼鏡だ……話さなければ非の打ちどころのない美人さんである。
……そして後十数分後にはあのカラフルな頭髪を舞台の上から眺める訳だ、こう言う経験は無くもないが……やはり緊張する。
ガム君が身を狙われる程の敵視を集めている以上、その噂が新入生へ届かないと言うのは楽観視が過ぎる。
だがこれはチャンスだ、生徒会は敵と考える反乱軍とやらがいる以上、2年生や3年生はその思考に傾倒している可能性がある、狙うは1年生、噂の真意を知らない純粋な中学生上がりの心を俺色に染め上げろ‼︎ と言う訳だ。
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と言う野望を胸に歩いていると……学生手帳片手にうろちょろしている生徒を見つけた、背丈は俺の時くらいの低い背丈で顔はかわいい系、と言うか女の子じゃん、めちゃくちゃかわいいぞ……とか思うじゃん?
ズボン履いてるんだよ……女子はスカート、男子はズボン、特別な事情が無い限りはそうなる、つまりあの子は男の娘もしくはその特別な事情のある子な訳だ。だがまぁ、男の娘の出るHな本で似たような雰囲気の子を見た事があるし男の娘で間違いない。
……もの凄く気持ち悪い分析の仕方してるな、俺。氷室さんの事どうこう言えんぞ。
まぁ悩んでいる様子の人に差し伸べない手はない、話を聞こう。
と言いたい所だが、先程のポニーテールの少女の例がある、ここは氷室さんに行って貰おう。
「分かりました、少々お待ちを」
女の子を身代わりとする外道スタイルに心を痛めなくもないが始まる前に終わるのは流石にまずいのだ……ユルシテ。
「どうかされたのですか? 」
「パンフレットを見ていた筈なのですが……道に迷ってしまって……このままじゃ入学式に遅れてしまいます……うぅ……」
あぁあぁ泣きそうになってるじゃ無いか、可愛そうに……全く氷室さんは何でこんなかわいい子を泣かせるなんて…………ん?……何だこの思考は……何故氷室さんを責めようと?
「はぁ……はぁ……」
「だ、大丈夫ですか⁈ 」
氷室さんの様子がおかしくなった……いつもおかしいなんて思ってないよ、今日会ったばかりなんだからさ
……ホントダヨー?
「その目、ハヒッ‼︎ その耳、ハヒッ‼︎ その唇、ハヒッ‼︎ とても美味しそうです……」
いやまて、遂に俺以外の前で発情しやがったぞ氷室さん⁉︎ 見境なくとは見損なったぞ⁉︎ 既に倫理点では評価マイナス寄りだが‼︎
「氷室さん‼︎ 氷室さん落ち着いて‼︎ 流石にそれは不味いですよ‼︎ 」
「離して下さい‼︎ 私はこの奇跡の子を堪能するのです‼︎ 」
いやこれ……もしかしてもしかすると……
「すいません‼︎ 僕……‼︎ 異能の制御が出来なくて……」
やっぱり、この子の異能か……差し詰め……「魅了」といった所だろうか?
「精神的、肉体的な衝撃を与えれば元に戻せます‼︎ 」
衝撃……流石に手を上げるのは気がひけるなぁ、ここは……‼︎
「……この……冷や豚がァッ‼︎」
「ひゃうん‼︎ 」
「ヒェッ……」
──氷室さんの感度が上がった、謎の生徒の好感度が下がった。
プラスマイナスで言えばマイナスですね。 (無慈悲)
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とまぁこの少年と合流したわけだが、どうやら極度の方向音痴らしく、スマホ代わりな生徒手帳の学園マップを見ながら歩いていたらこんな所に居たと言う訳だ。
しかし入学式の会場に向かう生徒の群れが見えない程にパニックになっていたのか……俺も魅了にかかりかけたが……いや掛かっていたのだろう。だが思考の違和感を見つけ出せれば精神に介する異能は解除出来る可能性が出てきたな、重畳重畳。
「さっきは驚かせてすまなかったね、私は偶々野暮用でここに来ていてね、こちらの女性は私の連れだ」
「先程はとんだ無礼を……申し訳ありません」
「いえ、こうして道案内してくれて、本当に助かりました‼︎ 僕の名前は…」
「いや、私は2年生でね、後日1年生と2年生の顔合わせもある、その時に改めてゆっくり自己紹介しよう、今は急いでいるんだろう? 」
「はっ、はい‼︎ 」
自己紹介をカットしてしまったが今俺の名前を出して事が起きたら目も当てられない、今はこうしてやり過ごすしかない。
歩きながら雑談でも……
「そう言えば……君の異能は……」
「はい……さっきの、「魅了」がそうです」
と思ったが一気に表情に影が射したな、何か思うところがありそうだし、何か出来る事は……
「……そうだ‼︎ この入学式が終わったらそのまま会場の近くで待っていてくれないか? 」
「へっ? 」
「会長……? 」
そう、入学式で何かあっても最悪この子の好感度は落としたくない……あ、またこれ魅了されてんな、氷室さんは……離れてもらってるから大丈夫か、まぁ良い、今のところこの子を嫌いになる点は無い。
「折角の縁だ、前言撤回になるが、この後、近くのカフェかどこかで話し合おうじゃないか」
「いや、そこまでしてもらうのは……」
「私がそうしたいんだ、君の話を聞いてみたいんだ、何より……そんな哀しそうな顔をしてる君をほっとけない……なんて老婆心もあるかもね」
「…………うう……」
あるぇ? 泣かせちゃったぞ、オイ、最低か俺、興味本位で聞いて良い事もあるだろう、俺‼︎
「悔い改めてきます……鬱だ……死のう……って違う違う‼︎ 」
これが魅了の恐ろしさか……魅了を掛けられた上でネガティブなイメージを与える行為を掛けた人がすれば周りはとてつもない罪悪感を抱く……えっ普通にヤバない? こんな異能と付き合って生きていかなくちゃならんのか能力者は……そんな生活してた過去があるなら表情に影を落とすのも納得だわ。
「な、何か気に触る事でも言ってしまったかな? 」
「いえ、その、嬉しくて……僕の異能を知ったら、皆、怖がってしまうから……でもそれは、制御出来ない僕が悪いから……気付かない間に操られてるなんて、怖くて当たり前ですよね……」
……まぁ、怖がる人を否定は出来んな……むしろ異能を制御出来ないこの子の責任だと思う方がこの世界では一般なのかも知れない、だけど
「君がその異能を持っていて良かった」
本当に良かった……マジで、さっきの言葉聞くにこの子は相手の事を考えられる子みたいだし……闇落ちしてたら世界滅ぼせそうな異能なのに……良く頑張ったなぁ、ほんと。
「えっ? 」
何びっくりしてるのさ、当たり前でしょう? 皆がみんな君みたいな心の持ち主とは限らないんだし……
「私も同意見です……能力者にとって大事なのは自身の力の怖さを知ることです、貴方の様に自身の異能の恐ろしさを知る人は実のところ、そう多くありません、魅了と言う異能により増長しかねない所、貴方はそうはなっていません、つまり、その恐れはきっと貴方の異能を制御することに役立つ筈です」
「………………あ゛、あびがどう゛ござい゛ま゛ずゔぅぅぅぅぅ」
めっちゃ鼻水出てる涙出てるから‼︎ 落ち着け落ち着け
……ほら、ひっひっふー、ひっひっふー。
「それは何か違う気が……」
いつから氷室さんツッコミになったん?
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「……ほら、他の生徒が列を作ってる、あそこが会場の入り口だよ」
「……あ、ありがとうございます、ありがとうございます‼︎ この恩、一生忘れません‼︎ 」
「そんな大袈裟な……当たり前の事をしたまでさ、君の学園生活が豊かな物になる事を祈ってるよ」
そんな事言った俺は、学園に何が起きているのかを知って、どうにかして良い方向に持っていかなくちゃなぁ、こんな後輩の居る……いや、むしろこの世界では全員俺より先輩か、まぁこんないい子を悲しませるなんて事は、あってたまるか。
前世含めりゃ一応大人なんだ、子供の未来の為にここは一肌脱がなければな……あぁ、この世界で頑張る理由が一つ、増えた。
「ありがとうございましたー‼︎ また後で会いに行きまーす‼︎ 」
校舎の角に隠れた俺たちにまだ手を降ってる……微笑ましいなぁ。軽く手を降っておこう。
「そうですね……今の会長、素敵でした」
「氷室さんの方が良い事言ってたと思いますけど……? 」
「その言葉、ありがたく頂きます」
ちゃっかりしてるなぁ、でも、そのスタイル、嫌いじゃないわ‼︎
さぁ、次は会長として現れ、びっくりさせちゃおうか、悪い意味になるかも知れんが。
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おぉ…てっきりスピーチ会場はビニールテープだらけの体育館をイメージしていたが、これは凄い、ホールじゃないか、椅子も備え付け。
暖房も完備であったかぬくぬく、ここに住んでも良いなぁ。
「……炎の異能とか冬場便利そうだな……」
「……私が熱を操る能力者であれば……会長を温めるにも生憎手持ちには蝋燭しか……不覚……」
むしろ何で蝋燭持ってるの? 火災報知器あるよね、流石にそれは分かってるよね? さっきの感動返して?
……でも氷を操る異能も便利だよなぁ、夏場とか。
「氷を操る異能の氷室さんは夏には大活躍でしょう? 得手不得手は補い合えば良いんですよ」
「会長……‼︎」
我ながら良い事言ったな (自画自賛)
そう言えば、今のところ、氷を操る異能と風を操る異能、そして魅了の異能を見たわけだが……まぁこの流れなら炎や雷の異能もありそうだな……それと、精神に介する精神系の異能も当然あるだろう、魅了と言う実例を既に体験しているし…….まぁ、そんな異能がある以上は身内ですら多少なりとも警戒する必要がある訳だが……悩みのタネが増えるな……対策とかあるのだろうか。
「精神に介することが出来る異能への対策……明確な対策と言えば発動前に倒す事くらいでしょう。正面から戦えば術中に嵌ること間違いありません」
要するに闇討ちか、ノウハウ一切無いのだが……
後、俺的に1番恐ろしいのは記憶を覗き見るタイプの異能だ、俺が知らない俺の記憶に何が眠っているか分からない、身内に居れば俺がガム君でない事がバレる可能性があり、相手に居れば俺の知らない事、つまりはガム君の異能やらその特性についての知識と言うアドバンテージで差をつけられる訳だ、どちらに居ても厄介極まりない、どうするにせよ、異能の情報を集めるのは喫緊の課題だな。
「ありがとう、注意しておくよ、後、スピーチの練習に付き合ってくれた事、感謝してるよ」
「副会長として当然の事です」
そう言いながらも誇らしげな顔をしているのだから微笑ましいったらありゃしない、だが問題はその趣味趣向だ、個人で楽しむ分には何も言わないが、押しつけは宜しくないと思うんだ俺は、だからまずはその蝋燭しまおうか?
「………………分かりました」
うん、葛藤する必要ある?
舞台の袖でそんな会話をして居る内にホールは騒がしくなってきた、おー、ホールが埋まってるな……校門でたむろする新入生を見た時もだが、連れの保護者は居ないのか、生徒達の晴れ舞台なのに。
「一般人は生徒の親族であろうと立ち入りを禁止されます、これは何が起きるか分からない学園内で一般人の安全を保障する為です、登校中、他に一般人を見かけましたか? 」
そう言えば…居なかったなぁ、あ、まさか…
「この湊谷学園の立地している人工島は全て学園の敷地内です、マンション等の建物は全て生徒や職員の居住の為に存在し、店やショッピングモールは全てこの学園に従事する人々が経営しています、一部の法律の例外もこの人工島内では認められています」
えぇ……スケールおかしくない…? 人工島丸々一つが学園の敷地と設備ってマジ? 金持ちにしたって限度がって……ここ国立か、つまり税金でそれを運営してんの? よく成り立ったなオイ……しかも法律の例外って、ここだけ海外みたいなもんなのか?
「……そして……いえ、態々言う事でもありませんね……それに、もうすぐ出番です、会長」
…ん? 寝ぼけて記憶が飛んだなんて俺の戯言を聞いてもちゃんと答えてくれた氷室さんが言い淀む事ってなんだ……聞いて地雷が出てきたら怖いし、ここまでか……後は自力で調べるとするか。
ホールが真っ暗になり、オートのスポットライトとか言う無駄に高性能な機材が俺の登場を待っている、さぁ、行くとするか……決戦のバトルフィールドに。
思った事をそのまま書き込める異能が欲しい……欲しくない?