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終焉の時   作者: さき太
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第二章③

 気が付くと見知った場所に居て、視線の先に自分とヤタの姿を見付けて、沙依(さより)はどういうことだろうと思った。

 神様になった方の自分を追っていたはずなのに、いつの間にか神の領域から人の領域へと落ちていて、目の前には人である自分がいる。そして思う。多分このわたしは、わたしよりずっと人に近い。神様を追って何故人のもとに出てしまったのか、それを知るため、沙依は意識を神の領域に移し、この場所の時間の流れをのぞき見た。そして思う。これもまた運命かと。ここは特異点。色々な偶然が重なってここは今、本来分かたれているはずの世界を繋ぐ中継地点になっている。そのもっともたる理由は、神になった方の自分がこの世界に度々深く干渉したせいだと思うけど。そんなことを考えながら、沙依はそこにいる自分をじっと見た。ここのわたしは人のまま、神様になった方のわたしに招かれて神の領域に赴き、神様になった方のわたしとは同化することなく、ただ彼女の力を借りて人のまま神の力を行使し、運命をねじ曲げた。神の力を行使するために自らの意思で神になった方の自分と同期し、同化を促進させてきた自分とは違う。自分の存在が世界から消えてしまうなんて考えた事もない、神様の方のわたしの本当の役割を全く知らない。そして、彼女にそれを知られないように周りも画策してる。何も知らないまま掌で転がされ続け、何も気が付かないまま世界から消えてしまうことを望まれている。そんなわたし。こうして別の肉体を持ってここに存在している以上、今ここではわたし達は別の人だと言った方がいいんだろうけど。でも、それでも同じ存在。自分がそんな風になるなんて嫌だな。そう考えて、沙依はそこにいる自分に声を掛けた。

 酷く驚いた顔で自分を見る自分の姿に不思議な気持ちがする。それと同時に、頭の中にこの世界の青木(あおき)高英(たかひで)の声が響いて、彼が、彼の精神支配の能力で自分を制圧しようとしてきて少し辟易する。この世界のコーエーは、わたし好きじゃないかもしれない。わたしの頭の中を知った上で、わたしの意思を知った上で、わたしが神になった方の自分に軛になりたくないと伝える事を邪魔しようとするし、この世界のわたしのことは真実に気付かないように最初から騙して操ってる。皆、コーエーのワガママに振り回されて、自分の想いを我慢して、おとなしく従わされて。わたしが、ナルが、当事者となるべき人達が誰も、自分の意思でこれから起こることと向き合わせてもらえない。わたしの邪魔しようとするのもだけど、ここのコーエーがしてることなんか腹が立つな。そう思うと沙依は、声に出さずとも良い高英に対しての言葉を口に出して発していた。それを聞いた目の前の自分が、自分が置かれている状況に叔父である高英の策略があることに気付いたことに気付く。そして思う。ここのわたしはコーエーのこと信頼じゃなくて盲信してるんだなと。コーエーが敵になるはずがない。それは同意見だけれど、コーエーがわたしの不利益になるようなことをするわけがないとはわたしは思わない。ここのわたしだって知ってるはずなのに。だいぶ違う時間の流れを辿っているけれど、幼少期の過ごし方はほぼ同じ。同じように行徳(みちとく)さんに拾われて、同じようにコーエーに押しつけられて、コーエーとほぼ二人暮らしのような環境で同じように育った。だから、コーエーがわたしの意思より自分の意思が優先なのは解ってるはずだよ。だってコーエーは、わたしのして欲しを知っていながら何もしてくれなかった。わたしを護ってくれるけど、わたしに寄り添ってはくれなかった。それはコーエーが自分自身を守る事を優先した結果で、わたしの心は二の次だったから。わたしが生きているなら、わたしの心が壊れても構わない。コーエーはそういう人だよ。だからきっとわたしはコーエーを選ばなかった。絶対的に自分の味方になってくれると信じ、信頼もしているけれど、わたしを大切にしてくれる人ではないと思うから、コーエーには自分の心はあげられない。今ならそう思う。コーエーから告白を受けて断った当時はよく解ってなかったけど、今なら解る。あの頃直感で選んでいた全てがどういう意味だったのか、きっとそういうことだったんだと思えるようになった。ナルのおかげで。ナルを選んで、ナルとずっと一緒に過ごして解ったんだ。そしてナルと夫婦になって、わたしはようやく本当に相手を想うということが、大切にすると言うことがどういうことなのか解った気がする。ナルの想いを受け止めてようやく、わたしはまともな人に近づけた気がする。だから、わたしはわたしの世界から消えたくない。消えなくてはいけなくても消えたくない。だから、その意思を神様になった方の自分に伝えなきゃいけないんだ。ただ知っていてもらうのではなく、本気で解ってもらうために。だからわたしは自分の世界を飛び出してきた。世界が一つに戻るまで、あとどれだけの時間が残されているのか解らない。扉は開かれ、世界の境界はどんどん薄れている。今はかろうじて分かれている世界が同化しはじめるまでそう長くはないだろう。何処まで進んだら決断するんだろう。彼女が決断するその前に、わたしはあの場所に行かなくてはいけないのに。そう焦る気持ちが自分の中で、早く、早く、間に合わなくなる前にあそこに向かえと言っているのに、沙依は直ぐに動くことができなかった。自分から見て、自分よりはるかに甘っちょろくてどうしようもない、目の前にいるこの立ち寄ってしまった世界の自分。甘ったれで、簡単に人を盲信できてしまう、見たくないものを見ないふりができてしまう自分。そんな風にいられる自分が少しだけ羨ましく感じる。そして、それでもそんな自分にも現実に直面して、ちゃんと決断して欲しいと思う。わたし達一人一人の決断が、きっと神様になったわたしの意思になる。例えその中身がバラバラでも、全然違う事を思っていても。一人一人のわたしがちゃんと考えて、悩んで悩んで出した答えが、最後の答えを導き出す。その考える時間も、悩む時間も、そしてそれを受け止めて誰かと過ごす時間全てが、決断をした後の独りになってしまった自分に返ってくる。最後は全て自分に返ってくるのなら、何も知らず何もできなかったなんて後悔は一つでも少ない方が良い。そう思って、沙依は少しの間だけこの世界に留まり関わることを選んだ。

 そうして互いに言葉を交わし、今起きている自分の身に降りかかろうとしている事実を知って、混乱しているのか、まだ状況をちゃんと受け止められずにいる様に立ち尽くす自分に、沙依は声を掛けた。

 「わたしは行くよ。あとどれだけ時間があるのか解らないから。間に合わなくなる前に、わたしは神様になった方のわたしに会いに行く。あなたはどうする?あなたも一緒に行く?」

 そうきくと、そこにいた自分が少し考えるように視線を泳がしてから行かないと答える。

 「わたしは、神様になった方のわたしに会いに行くよりも、ここにいる大切な人達とギリギリまで向き合っていきたい。わたしはまだ知ったばかりで、全然受け止められてないけど。だからこそ、自分が消えないですむ賭けに出るよりも、大切な人達と今一緒にいられる時間を大切にしたい。」

 そう言う自分の真っ直ぐな瞳を受け止めて、沙依は小さく笑った。

 「だから、わたしの分も一緒に伝えてきて。わたしは消えたくない。軛になるなんてごめんだって。世界が滅びてしまっても、独りぼっちにはなりたくないないなんてワガママかな。でも、思うんだ。わたしには耐えられないって。自分の能力でまるで自分が経験したかのように人間との大きな戦争とその後の過酷な生活を視た時。わたしはあれと同じ事を過ごすなんて自分には無理だって思った。知っていてなおそこに飛び込んでいく勇気もなかったし、それを乗り越えて何かをなそうなんて覚悟を持つこともできなかった。同じ事が自分の身に起きたとき、わたしには乗り越えられないと思った。今も同じ。世界を維持する為にひたすら孤独に苛まされ続けるなんて、わたしには耐えられないと思う。そんな未来、想像するだけで怖くて怖くて仕方がない。ずっとこのまま皆と一緒にいたい。その時が来てしまえば、そうするしかないんだろうけど。自分でどうにもできないなら受け入れるしかないんだろうけど。でも、わたしは嫌だ。それなら、世界が終わってしまう方が良い。世界が終わってしまえば、誰も彼もいなくなってしまうけれど、誰も苦しまないで済むでしょ?だから、わたしと一緒に皆消えてくれないかな、なんて、自分で言って自分が凄く酷い奴だと思うけど。でも、それでもそんな風に思ってしまうよ。これがわたしの本音。きっと神様になったわたしは知ってるだろうけど、伝えて。あなたの言うとおり、思っているだけど、それを自分の意思で言葉にして伝えるのでは重みが違うと思うから。」

 そんな自分の意思を受け取って、沙依は解ったと応えた。やっぱわたしはわたしだなと思う。わたしは神の孤独を知っている。独りぼっちの恐怖を知っている。父様に拐かされて世界と切り離された時の恐怖が、わたし達の記憶には根付いている。わたし達に共通して根付いている。なら、わたし達は皆、あんな経験は二度とごめんだと思っているのは当然で、それでも軛になろうなんて心の底から決断できる訳がない。だけど思う。きっと神様になった方のわたしは軛になることを選ぶだろうと。なんでそんな風に思うのか。元々自分がそのために創られた存在だからなのか。それとも、自分の恐怖よりはるかに大切な何かがこの世界にはあると、この世界を継続させなくてはいけないと、心の底の底では思っているのだろうか。解らない。でも、今は自分達の想いを手にわたしは行かなくてはいけない。そう思って、沙依はその世界を後にした。


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