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「全部説明してもらうからね!」

「はあぁ!?あんた、何言ってんの!!?」


 ひとまず相手が怖気つく必要が無い存在だと分かった瞬間、春芽は今にも手が出ようかというほどの勢いで彼女に接近して凄んだ。溢れ出る殺気をなだめるように夜風が吹いて、肩にかかる茶髪を優しく揺らした。これではどちらがヤンキーか分からない。


「落ち着いてください、山吹春芽さん。無駄な怒りでストレスを溜めてしまうと、肥満や鬱の原因になりますよ」


 初手煽り。無論、本人にそのつもりはない。


「……ねえ明日斗。この女、絶対ケンカ売ってるよね?」


 普段は明日斗の喧嘩癖をいじいじとバカにしている癖に、ひとたび自分のこととなるといつもこうである。当の明日斗は未だに呆気にとられたままだ。


「まあいいわ……あんた、一体何なの?見た限り、普通じゃなさそうだけど」


 そんな明日斗の様子を見て一旦心を落ち着かせた春芽は、目の前の物事に冷静に対処することにした。怒りやすいだけあって、感情の切り替えも早いのだ。


「はい。簡単に自己紹介させていただきますと、私はニフカ・フカフカといいます。ハッピ星という惑星からこちらに来たので、地球人の皆さんから見れば宇宙人ということになりますね」


「「──宇宙人!!?」」


 終始無感情で話すニフカの正体を知った二人は、ほぼ同じタイミングで驚きを発した。何を信じて、何を疑えばいいのか分からないこの複雑な現代社会だが、これほど単純明快に信じられない話も珍しいものである。


「本当にそうだってんなら、なんか宇宙人らしいことしてみろよ」


 ようやく正常な心理状態を取り戻せた明日斗は、ニフカが本当に宇宙人かどうかを確かめるためにそう言った。彼女の顔にはっきりと見覚えがある彼にとっては、彼女がより自分から遠い存在である方が安心できたのだ。


 しかし、なぜかその提案にニフカはあからさまな不快感を示した。


「気をつけてください。宇宙人に宇宙人らしさを強要するそれ、『エイリアン・ハラスメント』ですよ」


 指をツンと立てて、ニフカは宇宙人らしさの再検討の重要性を長々と説き始めた。あいにく、難しい言葉が多くてよくわからなかった明日斗はそこで躓いてしまったが、春芽は未知のハラスメントに大いに関心を抱いていた。


「エイハラか……世界は広いわね」


「最近条約ができてエイハラには国際的に厳しい目が向けられています。見つかると牢屋にぶち込まれちゃうかもしれませんよ?」


「何だと!?それはさすがに勘弁だ」


 アハハと3人の楽しい笑い声が軒先で広がり渡る。大事なことを全て忘れたように。


「──って知らないわよそんな条約!!なんであなたはその星から地球に来たのよ!なんであなたは明日斗の彼女になりたいのよ!!」


 いち早く我に帰った春芽。彼女の質問攻めがまた、ニフカと明日斗を現実に引き戻した。


「できれば全員が揃ってから話したいところなんですけど……どうやら私が一番乗りみたいですね。まあ、お先に失礼しちゃいましょうか。詳しい話はここじゃなんですから……あれ?綺麗なお宅ですね~」


 ニフカは急に猫なで声で明日斗の邸宅の外観を褒め始めた。だがその表情には、何かを称賛しようとする気概など微塵も感じられない。いくらバカな明日斗でもそれが何を意味しているのかくらいは理解出来た。


「ま、宇宙人だか何だか知らねえけど、とりあえず話を聞かないとな。ほら、うち入れよ」


「えっ、ちょっと!」


 男に対しては傍若無人だが特に初対面の女に対しては幾分か甘いその性格が本日も顔を覗かせる。春芽は思わず明日斗の腕を引き、そのままニフカに聞かれない程度まで距離をとった。


「あんた、本気であの娘が宇宙人だと思ってるの?絶対に新手の詐欺かなんかよ」


「お前なぁ、こんなかわ……オッホン!こんな俺たちと変わらないくらいの女の子が詐欺なんかやると思うか?声だけ聞こえてたのに急に現れたりしたし、宇宙人でもおかしくねぇよ」


「じゃあ仮にそうだとして、その得体の知れない宇宙人を簡単に家に入れようとするのはどうしてかしら。……そりゃそうよね、そっくりだもの」


 突如現れた自称宇宙人、ニフカ・フカフカ。明日斗と春芽の彼女に対する共通の認識は、二人が知るとある人物に非常によく似ているということであった。春芽はため息混じりに明日斗にそれを再確認させたのだった。


「……あいつは関係ねえ。ただ話を聞いてやるだけだ。とにかく、お前は家に戻ってろ」


 雑念を振り払うように首を振った明日斗は無理やり春芽を引っ張って山吹家に突き戻した。「何なのよ!」と怒声を飛ばす春芽をガン無視したまま、ニフカを自宅に引き入れようとする。


「全部説明してもらうからね!」


 相変わらずしつこいなぁ。そう思いながら明日斗は彼女に向けてノールックで適当に手を振った。そんな彼に手を引かれるニフカは、吸い込まれるように家の中へ消えていく春芽の背中をボーッと眺めていた。

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