第五話『紅のエルザ』
今回はベリアルのライバル的なキャラクターが登場します。
この世界に来て一週間は経った。思い返せば、ひき逃げ事故で死んだ後、まさか今流行りの『異世界転生』をするとは思っても見なかった。しかも大人気アプリゲーム『アークエイル』で作ったアバターの姿で転生し、気がついた時にはNPC達が一緒だったから『アークエイル』に飛ばされたのかと思いきや全く別の世界だった。
そこで俺は『世界の写し』という能力を使い、その世界の地図を見てみるとある村に目を付けた。それが『ペルーニャ村』だった。『ペルーニャ村』は『レリック共和国』傘下の村だったがある日突然その兵士達に襲われ、見かねた俺は『双子悪魔』のアイネとミオを連れて村に向かった。情報収集と戦闘での魔法や能力の使用実験のついでに、村も救おうと言う事になって何楽殲滅に成功した。だが村は子供だけになってしまい、仕方無く『ソロモン軍(現在のガイロス帝国軍)』の配下となった。この村を切っ掛けに新たな目標も出来た。レリックを支配し、この南の地に安寧の安らぎを与える事だ。
それからは計画進行のため、四天将のルシファーとヘラクレスは東西の村々との交渉し、輝夜姫はレリックの大都市で情報収集、俺とアイネとミオは冒険者として情報収集を行なっている。
この前『パンジャドラムの大森林』で白き魔獣と呼ばれるチワワを拾った。名前は桃央である。だが奴の知名度が高かったのか、俺はブロンドからプラチナまで一気に昇格し冒険者生活を送っている。
ベリアル
「あっ!話の流れがなんかのアニメに似てると思ったら死の魔王が主役のアニメだった!!まあ所々違う部分もあるし、彼みたいに頭が良い訳でもないし、桃央の件は偶然だし大丈夫だよな。」
因みに現在は『まったりねこ屋』と言う宿屋の一室で過ごしていた。一緒に同行している双子悪魔のアイネとミオは『テポドンの遺跡』でサラマンダーの討伐クエストを受けている。桃央もそれに同行している。そして俺は・・・・暇を持て余していた。
ベリアル
「暇だ。」
使用人
「レイヴン様。」
ドアの外から宿屋の使用人が訪ねてきた。咄嗟にいつもの兜を被った。正体が人間じゃなくてアンデッドだってバレたら大変だからな。
レイヴン
「何でしょうか。」
使用人
「先程ギルド組合から連絡がありまして、急用のご指名の案件が入ったので至急集会所にお越しくださいとの事です。」
レイヴン
「わかりました。直ぐに伺います。」
急用の案件って何だろう?しかもご指名まで付いてるなんて。やっぱりプラチナになるとそれだけ大きな仕事が入ってくるんだな。
レイヴン
「さあ!冒険の旅に出発だ!!」
と息巻いて集会所に向かったが、こう言う調子の良い時は嫌な予感しかしない。集会所に着いた時、その予感は的中したからだ。
レイ
「レイヴンさん?貴方も呼ばれたのですか?」
レイヴン
「その様子ではレイさんもですか。急用なご指名の案件は貴女と私だけのようですが。」
???
「そんな訳ないでしょ。私を忘れてない?」
え?誰?この生意気なお嬢さんは?
レイ
「ちょうど良かった。紹介しましょう。私達と同じプラチナクラスの冒険者の。」
エルザ
「『エルザ・フォルテ』よ。よろしく。」
ああ、前にレイが言っていたプラチナクラスの冒険者か。念のため能力『デーモンの魔眼』でプロフィールだけでも見とくか。
『エルザ・フォルテ』。レベルは300。属性は『炎』。種族は『人間』。職業は『大魔法使い』。
この集会所のプラチナクラスのトップの冒険者で、『達人』の称号を持っている。
見た目は普通の女子高生くらいの歳の少女の姿をしている。ピンク色のメッシュが入った赤色のロングヘアの一部を三つ編み状にして頭頂部でまとめている。瞳の色はオレンジ色。服装は半袖での服に金色の胸当てをしていて、半ズボンを着ている。そこからマントを羽織っているような感じだ。
性格は自身溢れた上から目線で楽観的な振る舞いをしているが勘が鋭い。
それにしてもこの歳でレベル300って!?長命なエルフ族のレイならともかくエルザは人間、ゲームの世界ならまだしもここは現実の世界だ。彼女には何かありそうだな。
レイ
「それと彼女と組んでいるパーティのメンバーです。」
え?パーティなんて組んでるの?
カズマ
「『シラヌイ・カズマ』だ。よろしく。」
『シラヌイ・カズマ』。レベル164。属性は『風』。種族は『人間』。職業は『剣士』。
倭の国から来た侍だそうだ。
黒髪の侍の着物を着たどこか気だるげで無気力なニヒリストのようだ。右脇差しには日本刀を差している。
性格は、やる気が無さそうに見えるが何だか闘士の様なものを感じた。
なんか日本人みたいだけどこの世界に日本みたいな国が存在するのか?倭の国がそうだとしたら一度は行ってみたいな。
キララ
「スケープゴートの『キララ』だよ!よろしくね!」
『スケープゴート』。真名は『キララ』。レベル185。属性は『魔』。種族は『獣人』。職業は『魔術師』。
本来なら羊の姿をしているが、彼女は何故か人間の姿をしている。服装はなんかハロウィンで着る様なかぼちゃのコスプレをしたような感じで、ピンク色のメッシュが入った水色の髪を側頭部でお団子状にまとめてそこから羊の角が生えている。瞳の色は紫色。
見た所性格はおっとりした天然ちゃんだな。
キララ
「ねえなんでさっきから黙ったままなの?なんか喋ってくれないとメ〜ッ!」
怖!?なんか顔が怖いんだけど!?可愛く怒ってる様に見えるけど逆に怖い!!てか気に入らないことがあると「メ~ッ」と羊のような顔をして憤慨するようだ。まあスケープゴートだからな。
フォス
「・・・・・・。」
なんだ?ローブで覆われてる所為かプロフィールが覗けない。感知魔法や能力を遮断してまで自分自身を隠したいのか?慎重な奴だな。
フォス
「フォスでいい。」
なんか喋ったけどフォスね。わかった、お前の事はエルザと一緒に調べさせてもらうからいいよ。
レイヴン
「初めまして。私はレイヴンと申します。この集会所に入ったばかりの新米ですが、皆さんよろしくお願いします。」
懐かしいな。新入社員で入った時もこんな風にして挨拶していたな。
キララ
「新米なのにプラチナクラスっておかしくない?」
生意気だなこのスケープゴート!
レイヴン
「『パンジャドラムの大森林』で白き魔獣と交戦して手懐けた事を報告したらこうなりました。」
エルザ
「貴方が何にしても、この私の足を引っ張らないでね。」
お前もか!?生意気しか言わないなこいつ等は!!
レイヴン
「それ程の自信があると言う事は、相当な手練れと見て間違いないのでしょうね?」
エルザ
「挑発のつもり?」
レイヴン
「そんなつもりでは。ただ私は貴女の事をよく知らない。何せ放浪の旅をしていたので世間には疎いのです。」
キララ
「え!?エルザ様の事知らないの!?」
カズマ
「放浪の旅人ならこいつの悪行を知らない奴はいない筈だぞ?」
へ?何したのこいつ!?
キララ
「他国の市長さんを殴ったりとか、貴重な遺跡を破壊したりとか、後町全部消し飛ばしたりとかだよ!」
なんかそんな事してる奴他のアニメでいたような。
カズマ
「そんなんでいろいろな異名が付いて回るんだよ。良ければ『パーフェクトエルザ』とか『女帝エルザ』とか呼ばれる時もあれば、酷い時は『賊狩りのエルザ』とか『放火魔のエルザ』とか『赤い小惑星のエルザ』とか悪名高い二つ名まで付いてくる。」
まあ要するに優秀だけど残念な問題児なのね?
カズマ
「だが『パーフェクトエルザ』だけは納得出来ね!」
キララ
「なんで!?エルザ様魔法も凄いし、美人だし何が不満なの!?」
カズマ
「スタイルが貧相なんだよ。15であのまな板な胸と小さい尻を見てみろ?エルフでもまともな身体しているぞ!!」
あ〜なんか乱闘騒ぎに発展するな。
エルザ
「おい、そこのエロ侍もう一変言ってみろ?丸焦げにしてやろうか?」
おーいこんな所で『バーニングノヴァ』を使うなよ。
レイ
「そう言えば『倭の国』では罪を犯したら腹を刺した後に首を切り落とす習わしがあるようだけど、今から実行しようか。」
なんでこのエルフは物騒な事言うんだろうね?悪魔じゃないの?
受付係
「あの皆さん。ここで暴れるようでしたら、全員冒険者資格を剥奪しますよ。」
レイヴン
「え?私もですか?」
キララ
「キララも!?」
受付係
「当然です。連帯責任ですから。」
受付係が一番最強だったな。怒りで燃え上がっていたエルザとレイはすっかり大人しくなった。
受付係
「ではエルザ様、レイ様、レイヴン様。『レリック共和国カデンツァ市』市長『セレーナ・レリック』様からの緊急の依頼です。」
セレーナ・レリックだって!?輝夜の言っていたクーデターを企んでいるお姫様か!?まさかその人からの依頼だなんて!でもプラチナクラス三人の依頼となると余程の事態らしいな。
受付係
「今回のクエストですが『偵察任務』になります。内容は「南方の亜人族の動きを探れ」との事です。」
レイ
「何故亜人族の動きを?」
受付係
「詳しくは極秘事項と言う事でわかりません。」
亜人族・・・・あ〜嫌な予感がしてきた。
受付係
「ここだけの噂ですが。何でも昆虫族が獣人族を引き連れて『カラストの沼地』に向かった所を複数の冒険者が見たとか。さらに最近では『カラストの沼地』に住む『ダイナマン』までも加わったとの事です。」
ヘラクレスだ!まあいつかはバレると思っていたから計画通りだけど、まさかこんなに早く気付くとは思わなかった。後は俺とヘラクレスが接触して適当に話合わせて逃がせてやりたいが問題はエルザと未だ無口のフォスなんだよな。
受付係
「以上が今回のクエストになります。健闘をお祈りします。」
いつのまにか説明は終わっていた。直ぐにでも出立したい所だったが、その前に宿に戻って準備をしなければなかった。
レイヴン
「では私は一度宿に戻って必要な道具を揃えてきます。」
レイ
「わかりました。では正門で待ち合わせましょう。」
レイヴン
「はい、ではまた。」
そう言ってその場を去った。正直な所、あいつ等勘が鋭いから誤魔化すこっちが疲れるんだよ。まあこの後も疲れるんだけどね。そんな事を考えながら俺は宿に戻って行ったが、俺の予想以上に彼等は勘が鋭かった。
エルザ
「それにしても気難しい人ね。」
レイ
「そうかな。頼りになる人だけど。」
カズマ
「まっ!世間ズレはしているが悪い人でもなさそうだしな。いい機会だ、実力を見てきて判断してもいいんじゃないか。」
エルザ
「それもそうね。」
レイ
「それにレイヴンさんにはお弟子さんも付いているんだ。アイネとミオって言う双子の姉妹なんだ。」
キララ
「会ってみたいかも!!」
それで話が終わったかに見えたが終わらなかった。
フォス
「あいつは・・・・・人間じゃない。」
今まで口を閉ざしていたフォスがようやく喋り始めたからだ。
エルザ
「そう言えば貴方ずっと黙ったままだったわね?彼の何を警戒していたの?」
フォス
「鎧で姿を隠しているが、あれは人間じゃない悪魔だ。」
この世界に来て俺の正体に初めて近づいたのがこのフォスだった。彼が何者なのかこの時の俺は知らないままだったけど、『ペルーニャ村』で彼の正体に気付いた時は俺を含めガイロスの皆んなが驚きと恐怖を覚えたからだ。まあこの話はまだ先なんだけど、この頃のフォスは既に俺達の計画の一部にまで勘付いていた。
フォス
「それだけじゃない。この国に入ってから何か妙なんだ。まるで何かに取り憑かれたようなそんな空気を感じた。」
カズマ
「そうか?何の気配も感じなかったぞ?」
キララ
「街の人達も普通に暮らしてたよ?」
フォス
「多分、国の人達は気付いていないだけだと思う。」
百鬼夜行の存在にまで気付いていたのだ。感知能力を完全に遮断している筈の霊体化をどうやって見抜いたかはわからないけど、バレるのは時間の問題だった。
エルザ
「フォスの話が本当なら彼との関連性は間違い無いかもね。」
レイ
「まさか!?レイヴンさんに限ってそんな事は!?」
エルザ
「疑うべきよ。フォスはこう言う事に限って直感を外した事がないの。少なくとも私達の知らない所で、事は動き出しているわ。」
フォス
「エルザ。こっちが無効に勘付いたと悟られないように注意して。何をされるかわからない。」
エルザ
「忠告ありがとう。安心して、私も自分の身を危険に晒すようなヘマはしないわ。」
だそうだった。まあ彼女達の会話は全部宿に戻った俺の耳にも入ってきた。
ベリアル
「はぁ〜疲れたぁ〜。」
輝夜
「お勤めご苦労様です。我が君。」
宿の部屋に戻って一息付いてる所に輝夜が現れた。何か用かな?
ベリアル
「輝夜か、何かあったか。」
輝夜
「実はプラチナクラスに昇格した我が君の晴れ姿を一目見ようとあの席に参加していました。」
ベリアル
「なんだ集会所にいたのか?」
輝夜
「如何にも。ですが我が君が集いの会を退出された時の事です。」
集いの会?ああ集会所の事か。
輝夜
「フォスと言う少年がようやく口を開いたかと思いきや、恐ろしい事を口走りました。」
ベリアル
「聞かせて貰おう。」
まあその話はさっきも聞いた通り、でも俺は驚く事は無かったし、寧ろ好ましい状況だったのだ。
ベリアル
「そうか。それはそれで都合がいい。」
輝夜
「おや?驚きになられぬのですか?」
ベリアル
「正直喜ばしい限りだ。だが困った事がある。」
輝夜
「それは?」
ベリアル
「時期が早すぎるのだ。出来れば怪しまれる程度で良かったんだが、そこまで深く気付いてしまったのであれば知られるのも時間の問題だ。まだルシファーとヘラクレスは『ペルーニャ村』に着いていないし、はてさてどうしたらいいか。」
どうするかな。なるべくエルザ達にはまだ種明かしはしたくないし、もう少しだけ引っ張りたかったけど無理だしな。せっかくセレーナからの依頼なのに・・・・・・セレーナ?そうか!!いい事思いついた!!
ベリアル
「どうせ正体が知られるのも時間の問題だ。なら一層の事・・・・。」
そこは後のお楽しみと言う事で輝夜にだけは事前に話した。
輝夜
「何とも我が君の考える事は恐ろしくも面白いですな。」
ベリアル
「嫌いか。」
輝夜
「我が君の行動に疑念を抱く理由がございません。」
ベリアル
「そうか。それともう一つ頼みがある。」
輝夜
「仰せのままに。」
ベリアル
「この宝具を使ってエルザ・フォルテの経歴を調べて欲しい。」
輝夜
「畏まりました。そう言えば、今日は双子の姿が見えませぬが何処へ?」
ベリアル
「あの二人なら今日は『テポドンの遺跡』でサラマンダーの討伐クエストに出掛けたが?」
今頃二人共頑張っているんだろうな。
アイネ
「ミオ!」
ミオ
「これで終わり!『ウォータードラゴン』!!」
その頃、アイネとミオは『テポドンの遺跡』でサラマンダーと戦ってようやく倒した所だった。
アイネ
「やっと終わった!」
ミオ
「それにしてもサラマンダーも大した事なかったわね。なんか拍子抜けしちゃった。」
アイネ
「じゃあ帰ろ!桃ちゃんも外で待ってるし!」
ミオ
「待った!その前にやる事が有るはずよ。」
そうそう!ボス戦の後は、宝具の探索だ。これを見逃すと二度と手に入らないレアな宝具とかもあるから、逃す訳にはいかないのだ。
アイネ
「じゃあ宝探し出発!!」
ミオ
「はいっ!またちょっと待った!!」
アイネ
「今度は何!?」
ミオ
「先ずはサラマンダーがいた部屋から探索!」
アイネ
「はーい。」
宝具探しの基本はボスの部屋から。その部屋には回復宝具なんかがあるのが多いが、たまにレア武器なんかが落ちてたりもする。
アイネ
「この壁なんかおかしくない?」
ミオ
「ちょっと待って!『ホームズの虫眼鏡』で見てみるから。」
『ホームズの虫眼鏡』はステージにある隠しギミックを見破る宝具だ。遺跡や洞窟なんかを訪れた時に必ず携帯する。
ミオ
「あったわ!」
アイネ
「本当に!?早く開けて!!」
ミオ
「慌てないで、今調べるから。」
それにしてもアイネは目の前の物見落としてがちだが、こう言う細かいところは直ぐに気付くな。
ミオ
「何これぇ!?」
アイネ
「どうしたの?」
ミオ
「宝箱を確認したら、結界が張られているんだけど、何万もの結界が張られているの!!」
アイネ
「そんなに!?」
ミオ
「しかもこれ、術式が複雑過ぎて一つも解除出来ないわ!!」
アイネ
「そんな〜!」
流石に『アークエイル』でもここまで結界を張る宝箱は無かったぞ?なんか怪しい。
ミオ
「そんなお困りの貴方にこれ!反則宝具『勝利の鍵』をオススメするわ!!」
あのミオさん?なんで通販番組の商品宣伝になってるの?てか何でお前がそれを持っている!?
アイネ
「何それ?」
ミオ
「これは、宝箱を封印している結界を何でも解除しちゃうの!」
アイネ
「でも反則シリーズはレベル300の人にしか扱えないんじゃ?」
ミオ
「魔法や能力はそうかもしれないけど、|宝具『アイテム》は誰でも扱える物もあるから心配いりません!」
だからなんでそれ持ってるの!?
アイネ
「所でそれどうしたの?」
ミオ
「城を出る時に『クリスティーナ博士』から貰ったのよ。」
アイネ
「ああ!『技術開発部』の班長で『科学班の女』とまで呼ばれたあのクリスティーナ博士!!」
なんだその刑事ドラマのタイトルに出てきそうな二つ名!?そんなの設定した覚えはないぞ!!てかあいつ何俺の許可なしに宝具渡してるの!?
ミオ
「じゃあ早速開けるわよ!」
アイネ
「うん!」
だがこの封印を開けた事により、エルザは俺をさらに警戒していった。
ミオ
「何かしらこれ?竜のエンブレム?」
アイネ
「どうする?置いてく?」
ミオ
「いいえ。ベリアル様に献上しましょう。きっと何かわかるかもしれないわ。」
二人のクエストは終わったが、後にこれが彼女達二人の大きな手柄になるとは思わなかった。
エルザ
「!?」
レイ
「エルザ?どうかしたのかい?」
エルザ
「なんでもないわ。」
そのころ俺達は、ヘラクレス達の目撃情報があった『カラッド高原』に来ていた。この辺りでヘラクレス達を見かけたと言う情報があったんだが、どこにいるんだ?
エルザ
(封印が全て破られた!?けど間違いない!最後の術式まで破られたら私の方まで伝わるように組み込まれている筈だもの!!それにしても、昨日確認した時は問題なかった筈よ!?まさか一瞬にして全ての封印を解除したの!?有り得ない!!)
なんかエルザの奴深く考え込んでるな。何かあったか?おっと!ヘラクレス達を見つけたぞ。
レイヴン
「お二人共止まってください。発見しました。」
俺達は近くにあった岩陰に隠れて様子を伺った。ヘラクレスは獣人族と恐竜人を纏め上げたか。あっ!因みに『ダイナマン』は彼等の集落の名前で種族名ではない。本当は恐竜人なのだ。
エルザ
「昆虫族を見つけたとは言えこれからどうするの?彼等の目的地も探らないといけないしこの後どう動くのリーダー?」
何故彼女がそう呼ぶかと言うと、俺が今回のクエストの指揮に志願したからだ。その狙いは勿論、ヘラクレスと接触するためだ。
レイヴン
「勿論後を付けます。ですがお二人にはこれを羽織って貰います。」
俺が二人に渡したのは『ミラージュマント』。これを羽織れば姿は見えなくなるし、感知能力も全て遮断される。ヘラクレスは普通に気づくと思うけど。
エルザ
「随分高価な宝具を持っているのね?」
レイヴン
「状況に応じて臨機応変に宝具を使いこなしているだけです。この宝具は主に偵察や潜入などで使います。」
レイ
「なるほど。」
エルザ
「こう言う事には詳しいのね?」
レイヴン
「では参りましょう。」
ミラージュマントは足音も消せるため、気づかれる心配は無い。俺達はそのままヘラクレス達の最後尾から少し離れた所を維持しつつ尾行していた。
ヘラクレス
「先程から見られているな。」
カブト
「数は三か。如何しましょう。」
ヘラクレス
「村まで付いて来られても面倒だ。ここで葬り去る。」
カブト
「御意!」
ヘラクレス
「小賢しいネズミ共!!姿を現せ!!」
早!?もう気付かれた!?やっぱり四天将相手だと気付かれるか。少し早いけど仕方ない!!俺達はミラージュマントを脱ぎ捨て正体を見せた。
レイヴン
「やはり『ミラージュマント』で全ての感知能力を遮断しても気配だけは感じ取れたか。」
エルザ
「で?ここからどうするの。」
レイヴン
「穏便に見逃してくれればいいのですが。」
まあヘラクレスなら上手く誤魔化して逃げてくれると思うけど。
レイ
「けど相手は獰猛な獣人族とダイナマンだ。無事で見逃してくれるとは思えませんが。」
ジュラシック
「おい!エルフの小娘!何か勘違いしてないか!!」
レイ
「何がだ!」
ジュラシック
「『ダイナマン』は村の名前だ!俺達は『恐竜人』覚えておけ!!」
まさかそれ言われる度にツッコム気か?なんか面倒くさい事してるな。さてと、冒険者らしい振る舞いをするか。
レイヴン
「私達は、王国より依頼を受けた冒険者だ。お前達亜人族が妙な動きをしていると聞いた。何を企んでいる!!」
ヘラクレス
「それを知った所で見られた以上死あるのみだ。愚かな人間共よ。」
レイヴン
「穏便に見逃してくれそうにはないな。」
ちょっと待てぇ!!ヘラクレスの奴俺だって気づいてないのかぁ!?
ヘラクレス
「突貫。」
え?うわぁ!?いきなり突っ込んで来て角で掴まれた!?
エルザ
「あの巨体でなんて速さなの!」
レイ
「レイヴンさん!!」
え!?あのヘラクレスさん!?やめてまさか『地獄落とし』とかやめて下さい!!
ヘラクレス
「最終奥義・・・・・『地獄落とし』!!」
うわぁぁぁぁぁぁ!!落ちる落ちる落ちる落ちる!落ちテルぅぅぅぅぅ!!
レイヴン
「アダァ!?」
イタタタ・・・・あれ?何とも無いや?あっ!俺アンデッドだったの忘れてた。いやでもダメージが効いてないとは言えやっぱり怖かった〜。
レイヴン
「今のは中々効いたぞ。他の奴なら確実に死んでいた。」
ヘラクレスの奴、最終奥義を全力で出してきた所を観ると俺に気づいていないな。
エルザ
「向こうが引き下がらないならこちらも応戦するしかないわ!」
レイ
「確かにそのようだね!」
え?何二人共戦闘モードになってるの?お願いだからやめて!!余計面倒な事になる!!
キング
「小娘二人程度俺だけで十分だ!」
ジュラシック
「いや俺も行こう!レリックの小賢しい回し者など踏み潰してくれる!」
コーカサス
「いや!御二方はお控えなさいませ。」
『コーカサス』。レベルは300。属性は『雷』。種族は『昆虫族』。職業は『魔術師』。
ヘラクレスの率いる『七本槍』の一人で『アトラス』の弟である。
見た目通り、コーカサスオオカブトが二足歩行しているような感じだ。
知略を模した魔法攻撃を得意とするが、性格は極めて獰猛。大技で仕留める事が多い。
コーカサス
「赤髪の魔術師は某がお相手申し上げる。」
エルザ
「いいわよ。昆虫族なんて丸焦げにしてあげるわ。」
仕方ないエルザの実力を見るいい機会だし、コーカサスに任せよう。
カブト
「なればエルフの小娘は某が手合わせ願おう。」
レイ
「私も侮られたものだ。こんな小柄な昆虫族を相手にしなければならないとは。」
カブト
「小柄と言って侮るなかれ!某は七本槍が一人、カブト!耳長の娘よ、掛かって参れ!!」
『カブト』。レベルはヘラクレスと同じ320。属性は『地』。種族は『昆虫族』。職業は『槍使い』。
『昆虫軍団副大将』兼『七本槍』の一人だ。
見た目はこちらもカブトムシが二足歩行しているような姿だ。だが他の七本槍と違って見た目は小さいがパワーは七本槍でも二位を争う。あのコーカサスですらあっさり負けてしまったのだ。
性格は、芯が強く捻じ曲がった事が嫌い。ヘラクレスとは主従の関係だがライバルでもある。だから二人っきりの時は友として接している。
それにしてもヘラクレスの奴まだ主人である俺に気付いていないのか?
ヘラクレス
「次は容赦はせんぞ!!愚かな人間よ!!」
あ〜やっぱり気づいていない。俺、魔王ベリアルなのに冒険者レイヴンとなると皆んなに馬鹿にされるんだよな?
エルザ
「進化魔法!『メテオストライク』!!」
コーカサス
「進化魔法!『プラズマブラスター』!!」
こっちはこっちで進化魔法の撃ち合い始めちゃってるし。
エルザ
「虫の癖に魔法使うの!?」
コーカサス
「侮るなかれ!某とて魔法は使える。」
やっぱり昆虫族が魔法を使うのは珍しいのか。そう言えば『アークエイル』でも、そんな昆虫族はいなかったな。
カブト
「どせぇい!!」
レイ
「くっ!」
レイの方は苦戦しているな。カブト相手じゃ荷が重いか?
レイ
「何てパワーだ。」
カブト
「奥義!『辻斬り』!!」
レイ
「防御魔法『聖壁』!!」
カブト
「遅い!!」
レイ
「何!?」
あっ!レイの髪がバッサリ切れて短髪になった。
カブト
「首を刎ねたつもりだったが、邪魔臭い髪が無くなってスッキリしたであろう。」
レイ
「エルフの髪は人間族にとっては高価な品なんだぞ。それを粗末に扱ったんだ。後悔しても知らないよ。」
カブト
「心配ご無用、戦に立った時点で等に腹は括っている。」
何だかんだで二人共楽しそうだな。当初の計画とは大分ズレたが問題ない。まあヘラクレスの鈍感が原因なんだけどな。
ヘラクレス
「次は貴様の首を刎ねる!覚悟せよ!」
レイヴン
「いいだろう!来い!!愚かな昆虫族よ!!」
ヘラクレスの鈍感さには呆れたけど、お前の実力を体感できる良い機会だ。付き合ってやるぞ!
意気込んで俺は『黒帝剣グランレストソード』を向けた。流石に俺の体格では『約束された勝利の剣』は合わなかった為、大剣のグランレストソードを持ってきたのだ。
ヘラクレス
「クソガァァァァァァ!!」
レイヴン
「何だ!?」
何で怒り出したんだ?
ヘラクレス
「キサマァ!!ソノケンヲドコデテニイレタァ!!」
レイヴン
「これか?黒炎魔王ディアブロを撃ち倒して手に入れた剣だが・・・・あっ!?」
そう言う事かしまったぁ!これじゃあ冒険者レイヴンが魔王ベリアルを倒して手に入れた剣とヘラクレスが誤解するぅ!!
ヘラクレス
「ベリアルサマノコトカァァァァァァ!!」
なんか少年漫画のセリフ言っちゃったよ!?てか俺死んでないし!!いや死んでるけど・・・・アンデッドになっても生きてるし!!てか暴走して魔法解放発動してるし!!
エルザ
「ちょっと!あんた達のリーダーに何が起こってるの!?」
コーカサス
「殿が魔力解放と言う能力を解放させたのだが何か様子がおかしい!まるで暴走しているような!」
エルザ
「ようなじゃなくて暴走してるのよ!!魔力解放は感情的に発動させたら暴走する危険があるの!!それをわかって使ってるわけあの虫は!!」
コーカサス
「殿を愚弄するとは許さんぞ!!だがここまで怒りを露わにした殿は初めて見た。」
ごめんなさい!!ヘラクレス怒らせたの俺です!!
ヘラクレス
「奥義魔法!」
ヘラクレスの奴、ここで必殺技を使う気か!?
ヘラクレス
「『グラビティホーンバスター』!!」
グラビティホーンバスターを大剣で受け止めたが、その衝撃で砂煙が衝撃波の様に飛び散り辺りは煙幕の様に視界が見えなくなり、更にヘラクレスが魔力を放出している為雑音も出ている。これはまたとないチャンスだ。ヘラクレスと会話が出来る。
レイヴン
「流石は四天将の一人昆虫軍団総大将ヘラクレスの実力は私の予想以上だ。」
ヘラクレス
「何故ワシの事を知っている!!」
レイヴン
「お前は二つ勘違いをしている。」
ヘラクレス
「何!?」
レイヴン
「一つは、私が言っている魔王はベリアルではなくディアブロを倒した時にドロップした剣だ。」
ヘラクレス
「ディアブロ!?その名を知っている事は貴様は『アークエイル』冒険者か。」
レイヴン
「そして二つ目は、お前の主人が冒険者として目の前にいるからだ!!」
ヘラクレス
「べべべべべべべ・・・・・ベリッ!?」
ちょっと本名は伏せて下さい!!
レイヴン
「最終奥義!『非情なる屈辱』!!」
ヘラクレス
「ふがっ!?」
『非情なる屈辱』は相手のターン開始の行動を完全に無力化する。しかも戦闘終了までその効果は続く奥義だ。まあその前にヘラクレスは延びちゃってるから意味ないんだけどね。
ジュラシック
「おいキング。お前さん大将に瞬殺されたんだよな?」
キング
「当たり前だ。でなきゃここにはいない。」
ジュラシック
「ならあれか?大将を倒したあの人間は・・・・。」
キング、ジュラシック
「化け物かぁ!?」
ヤバっ!やり過ぎたか!?とにかく直ぐにこの場を離れないと!!
カブト
「殿!しっかりして下さい!!」
コーカサス
「お気を確かに!!」
レイヴン
「さて、君達のリーダーは倒れたわけだがどうだろう、ここは痛み分けと言うことで手を引いて貰えないだろうか?」
カブト
「良かろう。両者その条件で幕引きと致しましょう。」
カブトとコーカサスはヘラクレスを担ぎ上げ、彼等の軍隊はそのまま『ペルーニャ村』に向かった。なんとかこの場は切り抜けたか。
レイヴン
「レイさん。お怪我はありませんか?」
レイ
「はい。髪を切られた程度なので何ともないです。」
エルザ
「でも貴女、短髪になった所為か女装した男の子に見えるわよ?」
レイ
「失礼な!私は女だ!!」
エルザ
「いいえ!もはや男の娘にしか見えないわ!!」
レイヴン
「やはり胸に協調性が無いとそう見られるのでは?」
エルザ、レイ
「ア゛!?」
レイヴン
「いえ、何でもありません。」
火に油を注ぐのはやめて次の段階に踏みますか。
レイ
「けど彼等の居所までは掴めなかった。」
エルザ
「まあ、今回は昆虫族の反乱だけでも報告しましょう。これ以上の情報収集は不可能よ。」
レイヴン
「強ちそうでもありませんよ。」
エルザ
「どう言う事?」
レイヴン
「彼等が向かった方向にはある村があります。その村は私がこの国に入る前に立ち寄った村です。」
レイ
「『ペルーニャ村』!!」
エルザ
「ちょっと待って!あの村を拠点にしようにも王国軍が黙ってないわよ?」
レイ
「エルザが知らないのも無理はない。国内では『ペルーニャ村』はモンスターに襲われた事になってるけど、真実は王国軍に襲われたんだ。」
エルザ
「どう言う事?」
レイヴン
「移動しながら説明します。今は村の状況を確認する必要がある。少々遠回りになりますが亜人族の目から逃れる為ですのでご了承を。」
エルザ
「わかったわ。」
こうして俺達は『ペルーニャ村』に向かう事にした。まあ正確にはエルザとレイに『ペルーニャ村』をこの目で確かめて貰う事が目的だ。今後の計画の為にもね。
エルザ
「そう言えば貴方あんな高い所から落ちて良く平気な顔をしていられるわね。いくら鎧を着た人間でも普通なら即死よ?」
レイヴン
「え!?いやこの鎧には耐衝撃能力が備わっているのですよ!!ハハハハハ!!」
やっぱりやり過ぎたぁ!!この後どう誤魔化そう!!
そんな事を考えてる内に『ペルーニャ村』に到着した。一様ミラージュマントで城門の近くの茂みに隠れていた。
エルザ
「何なのこれ!?城壁!?」
レイ
「これを亜人族が作った!?」
二人は村の変わり果てた姿に驚いていた。まあこれ作ったの家なんだけどね。
レイ
「ちょっと待って!誰か来た!!」
あれは?ルシファーか。ヘラクレスはもう着いていてもいい頃だし、後から到着したか。
エルザ
「見て、正門が開いたわ。今なら中に入れそう。」
レイ
「そうだね。行こう!」
え!?ちょっと待っ・・・・行っちゃった。
レイヴン
「はぁ・・・・全く迂闊すぎだ。」
俺達が正門前に来たその時だった。
ヘラクレス
「ルシファー様。ご足労をお掛けしますが、お願いしたき事があります。」
ヘラクレス?目が覚めたのか。でもルシファーに何をお願いしてるんだ?
ヘラクレス
「この愚かな虫ケラに鉄槌の裁きをお与え下さい!!」
え?何を言い出すんだアイツは!?
ヘラクレス
「このヘラクレス!我等が主人であるベリアル様に斬りかかってしまいましたぁ!!」
ルシファー
「は?今何と仰いました?」
ヘラクレス
「この『ペルーニャ村』に進軍中、レリックに雇われた冒険者の襲撃に遭い戦闘になりました!その冒険者の中に偽装したベリアル様がいた事に気付かず、ワシ自らベリアル様に斬りかかってしまいましたぁ!!」
ちょっと待てぇぇぇ!!よりにもよってエルザとレイの前で俺の正体バラしてる様なもんだぞ!?
エルザ
「あの虫頭でもおかしくなったんじゃないの?」
レイ
「多分人違いだと思うけど?」
よし!なんか変な誤解をしてくれたみたいだ!!
ルシファー
「ヘラクレス。」
ヘラクレス
「はっ!!」
ルシファー
「貴方の罪状は、私個人の判断では出来かねません。何故なら・・・・・ガイロス其の物を巻き込む重要案件ですから、死刑や懲役に関しては軍法会議でベリアル様を交えて審議させて貰います。よろしいですね。」
ヘラクレス
「はっ!承りました!!」
ルシファー
「ですが貴方には罰を与えなければなりません。まあそれは私の楽しみでもあるのですが。」
ヘラクレス
「はい?」
ルシファー
「貴方が無様に泣き叫ぶ姿や命乞いをするところ、精々惨めに抗って踠がいて私を楽しませなさい。」
ヘラクレス
「あの・・・・ルシファー様?そこら辺に関してはせめてご慈悲を?」
ルシファー
「この後に及んで貴方はまた罪を重ねる気ですか?私から楽しみを奪うとは愚かな虫螻ですね。安心してください。楽しむだけ楽しんで最後は五体バラバラにしてカラスの餌にするだけですから。」
ヘラクレス
「ヒエェェェェェェ!!」
ルシファー
「ではお話を聞かせて下さい。その後でたっぷりと楽しませてもらいますから。」
ヘラクレス
「慈悲をぉぉぉぉ!!」
そのままヘラクレスはターシャが村長を務める家に連行され、静かに正門が閉まった。てかルシファー怖!?
エルザ
「止まって正解だったわね。」
レイ
「そうだね。何されるかわからないもんね。」
レイヴン
「お二人共焦り過ぎですよ。」
で・・・・また悩みの種が増える発言が城壁を超えて聞こえてきた。
ギーラ
「ちょっとクトリさん!!ヘラクレス総大将拉致られましたけど大丈夫なんですか!?」
クトリ
「大丈夫、大丈夫・・・・多分大丈夫だから。」
ギーラ
「いやヘラクレス総大将があんな調子だと俺達も同罪ですよね!?」
クトリ
「言わないで!!軍法会議に掛けられる前にルシファー様に何されるか想像するのも嫌の!!」
ギーラ
「俺達だってヘラクレス総大将同様に気づかなかったんですよ!?そもそもあんな鎧着てるベリアル様が悪いんですし!!」
コラァ!!完璧レイヴンの正体がベリアルだって言ってるようなものだぞ!?てかそんなに見分けつかないかこの鎧!!
レイ
「レイヴンさん・・・・まさか貴方は。」
エルザ
「バカ言わないの、こんなあからさまに正体を明かすなら飛んだ間抜けよ。彼が亜人族の長なわけないでしょ。」
なんか助かったけどスゲー腹が立つ!その間抜け今貴女の目の前にいるんですけど!?
レイヴン
「いずれにしても亜人族によるクーデターの主犯格はそのベリアルと言う者で間違い無いようですね。」
エルザ
「そうね。ならこれ以上の深追いは?」
レイヴン
「勿論撤退します。そしてこの事をギルド組合を通して王都に報告しなければなりません。」
レイ
「・・・・・・。」
エルザ
「どうかしたの?」
レイ
「さっき正門の中を覗いてたら、あの村にいた子供達が亜人族と楽しそうに話しているのを見たんだ。それに親がいないのに何事もなかった様に笑顔で暮らしていた。まさかとは思うけど、彼等もクーデターとして参加するのかな。」
レイの奴、そんな所にまで目が行ってたのか。確かにそんな惨状を目の当たりにしたら同情するのも分からなくもないけど、理解しようとは思わない。
レイヴン
「そんな子供達の笑顔の裏には悲しみと復讐心で満ち溢れているのでしょう。だからこそ、彼等は生きるのに必死なのです。例え亜人族に頼み込もうと、魔王に縋りつこうとも、生きる為ならなんだってする。それだけあの子供達は追い詰められているのです。」
レイ
「それを知っていながらそれでも貴方は王都に報告するのですか!!」
レイヴン
「逆もまた然り、国の危険を見過ごす事など私には出来ません。」
俺達のクエストは無事に終了した。エルザは黙ったままだったし、レイは納得していなかったけどそれが人の本質だと俺は思う。だから歴史の中で戦や戦争が続いたのだ。そうやって国は作られ、発展したのも戦争があったから成し遂げられた事だ。だから平和と言うのが続くのだ。けど時代の運河の中で再び戦争は始まり、新たな国が誕生し、発展していく国が生まれる。まさに『破壊による生成』だな。壊して作る、正に万物の法則なり。
そんで、集会所に着いた俺達を待っていたのは。
アイネ
「先生お帰りなさい!!」
キララ
「エルザ様もお帰りなさい!!」
笑顔溢れる仲間達だった。
レイヴン
「お前達もご苦労だった。」
ミオ
「いいえ!色々と聞いていただきたい話もあります!」
桃央
「いや〜ご主人様もお疲れ様です!」
桃央は今人間に擬態している。茶髪の髪に白のタンクトップのシャツにジーパンをはいている。こっちの方がまだ馴染みはあるか。
レイヴン
「そうか。そう言えばお前達に紹介しておきたい人がいる。前にレイさんが言っていたプラチナクラスの冒険者だ。」
エルザ
「エルザ・フォルテよ。よろしく。」
アイネ、ミオ
「よろしくお願いします!!」
レイヴン
「では私は受付で報告をしてきます。」
エルザ
「わかったわ。私は用事があるからここで解散させてもらうわよ。」
レイヴン
「わかりました。」
エルザ
「フォス、一緒に来てちょうだい。」
フォス
「わかった。」
彼女はフォスと一緒に何処かへ行ってしまった。そんな彼女達を見送り、俺は受付で今回のクエストの報告書と一緒にセレーナ宛に手紙を送り、報酬を受け取った。
ミオ
「レイさん髪切ったんですか?」
レイ
「ああ!さっきの戦闘でね。」
アイネ
「元気ないですけどどうかしました?」
レイ
「いや、何でもない。」
レイはまだ引きずってる様だ。今回の所はこれで解散かな。そして俺とアイネとミオと桃央は宿に戻って行った。
ベリアル
「もうクタクタだ。」
ミオ
「ベリアル様大分お疲れのようで。」
アイネ
「でもベリアル様ってアンデッドだから疲れないんじゃ?」
輝夜
「アンデットと言えど心がある限り誰でも疲れる。我が君は心労で草臥れておるのだ。」
はいそうです。心臓に悪い出来事ばかりでした。
ベリアル
「だがこれでエルザとレイには、村の現状を確認させたわけだ。それにセレーナにはある仕掛けを施した。」
アイネ
「仕掛け?」
ベリアル
「早くても明日、セレーナから私に謁見の申し出があるだろう。そう仕向ける様に彼女が食い付く内容の手紙を送ったのだ。」
アイネ
「そんな事までお考えになられていたなんて。」
ミオ
「ですがそれでは『ペルーニャ村』が危険に晒されるのでは?」
ベリアル
「それはないだろう。万が一戦争になったとしてもルシファーとヘラクレスがいるから問題ない。」
ミオ
「そうですか。」
ベリアル
「それに遅かれ早かれ何は攻撃され、向こうが無駄に終わる。それだけの事だ。」
まあセレーナの謁見の時に村の襲撃を提案するけどね。
アイネ
「そうだ!ベリアル様これお土産です!」
何だこれ?竜のエンブレム?
ベリアル
「そう言えばお前達は『テポドンの遺跡』でサラマンダーの討伐クエストを受けていたな。その時に見つけた物か。」
ミオ
「はい。ですがそれが入っていた宝箱には厳重な封印が何重にもされていたのですが術式が複雑過ぎて一つ解除するのは不可能でした。」
ベリアル
「ならどうやってその宝具を取り出したんだ?」
ミオ
「反則宝具『勝利の鍵』を使用させていただきました。」
ベリアル
「何故私の許可無しにその宝具を?」
ミオ
「クリスティーナ博士から頂いた物ですが?」
アイツか!!何で俺の許可なしに宝具渡してるの!?
ベリアル
「今回は大目に見るが、私の許可無しに勝手に宝具を持ち出す事は許さん。覚えておくがいい。」
アイネ、ミオ
「はっ!失礼致しました!!」
帰ったらクリスティーナにも説教だな!
ベリアル
「だが手の込んだ封印が何重にも設置していたのが気掛かりだ。それ程重要な宝具には違いない。」
まるで世界の滅亡を食い止めるかのようなそんな必死さが伝わって来る。
輝夜
「ところで我が君にお耳に入れたき知らせがあります。」
ベリアル
「なんだ。」
輝夜
「レリックのうつけのバカ殿が良からぬ事をしまして、何でも『ガングート山脈』に向けて兵を出撃されたそうです。」
ベリアル
「まさか敵の狙いって?」
輝夜
「我等が居城『ガルバトロス城』ですな。」
ベリアル
「ちなみにそれって偵察?」
輝夜
「いいえ、殲滅隊です。」
バカだぁ!!本当のバカだよレリックの王様は!!返り討ちに会う事考えてないのか!?もう「殲滅隊」じゃなくて「殲滅されたい」の間違いじゃないのか!?
アイネ
「ベリアル様どうしましょ!!」
ミオ
「早くお戻りにならないと『ガルバトロス城』がぁ!!」
ベリアル
「放って置いていい。」
アイネ
「どうしてですか!!」
輝夜
「城には三体魔神、ガンダイラーを含め強者が大勢いる。レリックの兵士など枯葉を潰すのと同じだ。」
けど幾ら何でもガルバトロスを見つけるの早くないか?
ベリアル
「城はテレサ達に任せておけば大丈夫だろう。今は我々の仕事をするまでだ。だがこの場にいる者達に話しておくが、これより計画は最終段階に入る。セレーナが『ペルーニャ村』を訪れた際全ての準備が整う。それまで己が役目を果たせ!!」
輝夜、アイネ、ミオ、桃央
「ハハッ!ベリアル皇帝陛下の身心のままに!!」
だがこの時、俺達の知らない所で二つの陰謀が蠢いていた。
エルザ
「そんな・・・・。」
その頃、エルザとフォスはアイネとミオがクエストで受けてた『テポドンの遺跡』を訪れていた。しかもサラマンダーが居たエリアにだ。そうアイネ達が持ち帰った竜のエンブレムがあった場所だ。だが宝箱が開けられて中身が無かった光景を見てエルザは膝を折り曲げながら座り込んでしまった。
エルザ
「なんで?あれだけ複雑な術式を組んでその封印を10万も設置したのよ?それがたった一瞬で・・・・。」
フォス
「エルザ、泣いてる場合じゃない。あれを持ち出されたら封印場所まで見つかるのも時間の問題だ。直ぐに犯人を探さないと。」
エルザ
「目星なら付いているわ。今日この遺跡でサラマンダーの討伐クエストを受けていたアイネとミオと言う冒険者。その二人はレイヴンの弟子だったわね?」
泣くのをやめたのか、エルザは再び立ち上がった。
フォス
「まさかあの二人が犯人だって言いたいの?無理だよ、彼女達にエルザ並みの知識があるとは思えない。」
エルザ
「レイヴンが絡んでるとしたら?」
フォス
「あの化け物なら考えられる。あいつの情報は得られたの?」
エルザ
「まあね。化け物だと言う事と、亜人族を率いていた昆虫族がレイヴンの部下と確信が言ったわ。おまけに『ペルーニャ村』は既に奴等に乗っ取られてた。」
フォス
「まさか!?国に攻め込む気じゃ!?」
エルザ
「そのまさかよ。レイヴンはベリアルが主犯格と言っていたけれど。」
フォス
「レイヴンの本性がベリアル。」
エルザ
「その通り。でも確信的証拠がないから、疑う事しか出来ないけど何もしない訳にはいかないわ。」
フォス
「それで、これからどうするの?」
エルザ
「奴が何を考えてるかわからないから、動きようがないけど、あの魔竜だけは復活させはしない。私の全てを賭けても阻止してみせる!!」
エルザは全てを見抜いていた。というか、あの状況で確信が行かない方がおかしいよな。まあギリギリ間に合ったって事か。後はセレーナを『ペルーニャ村』に引きずり込むだけだ。
そして二つ目の陰謀は、そのセレーナに動きがあった事だ。何時もの様に執務室で今回の報告書と俺が添えた手紙を見ていた。
セレーナ
「『ペルーニャ村』がベリアル率いる軍団に占拠されたらしいわ。しかも村の子供達もクーデターに加わるみたいよ。」
ジャンヌ
「子供達まで!?」
信長
「親を殺されれば当然の事だろう。まあ、そのベリアルってのが唆しただろうけどな。」
セレーナ
「私は一度彼に会ってみようと思う。もっと詳しく聞いてみたいわ。」
義経
「確かに、詳しい内容を聞くのも一興ですね。」
だが思わぬ来客が飛び込んで来た。
マグナード
「それはいい!是非私もその席に参加したいものだ。」
レリック国王、マグナード・レリックが訪ねてきたのだ。しかも謁見の席に参加したい?いや来なくていいよ。
セレーナ
「お兄様!?」
信長
「これはこれは国王陛下。御身自らこちらへ訪ねられるとはどの様な御用件で?」
マグナード
「実はセレーナに報告しておきたい事があってね。」
セレーナ
「なんでしょうか。」
マグナード
「実は南方の『ガングート山脈』に妙な城を発見したと知らせが届いた。よってこれを対象する事にした。」
セレーナ
「調査隊を派遣したのですか。」
マグナード
「いや、殲滅隊を派遣した。危険因子は排除しないといけない。」
信長
「ばぁ!?」
セレーナ
「なんて事を!?これ以上南方の亜人族には手を出すなと!!しかも貴重な兵士をまた無駄に失うつもりですか!?」
マグナード
「その為の『徴兵制度』ではないか。市民や冒険者から出兵の手紙を送れば問題ない。」
セレーナ
「お兄様は人の命をなんだと思ってるのですかぁ!?」
マグナード
「落ち着きなさいセレーナ。私だって心が痛い。だが国の一大事を見逃す訳にはいかない。それだけはわかって欲しい。」
セレーナ
「ですが・・・・・。」
マグナード
「では私はこれで。まだ仕事がのこっているのでね。」
そして彼はこの場を去って行った。本当に・・・・救いようの無いバカだと誰もが呆れ返っていた。
信長
「お前の兄貴はとんでもない『うつけ』だ!俺の世界や時代にもこんな政や軍略をする奴はいなかったぞ!!」
ジャンヌ
「まるで人の命を物みたいに捨てるなんて。いつか神の裁きが下りますよ。」
セレーナ
「もう・・・・どうしたらいいかわからない。」
この時のセレーナは、マグナードの勝手な政務活動にかなり頭を悩ませていた。そのタイミングで俺は彼女の交渉に成功するのだが、それは彼女が『ペルーニャ村』を訪れた時の話である。そして俺は『ガイロス帝国』と『ペルーニャ村』の襲撃後、いよいよ『レリック共和国』制圧に取り掛かろうとしていた。計画は既に最終段階まで来ていた。
そんであれから数日後、計画通りセレーナは俺を呼び出し『都市庁』と言う所に招かれていた。だが何故かエルザとレイまで呼び出されていたのが予想外だった。
会議室にはセレーナを始め、織田信長、土方歳三、源義経、そして・・・・。
マグナード
「よく来たね。私が『レリック共和国』国王マグナード・レリックだ。よろしく頼むよ。」
バカ殿だった。なんでいるの?
マグナード
「では話を聞かせて貰おうか。『ペルーニャ村』で起きた全てを。」
なんであんたが指揮ってるの!?妹の立場は!?
レイヴン
「ではお話ししましょう。今まで王国の外で起きた出来事を。」
まあ俺が最初に『ペルーニャ村』を訪れた事、それから前回の話、全て話だけどあんたがいない時にして欲しかった。
マグナード
「なるほど『ペルーニャ村』は、我が祖国に対するクーデター、並びに亜人族の戦線布告。なんとも悩ましい事だよ。」
レイヴン
「私が話せるのはここまでです。」
マグナード
「ありがとう。早速対策を取らせてもらうよ。」
このバカ殿なら喜んで引き受けてくれるな。仕掛けるなら今だ。
レイヴン
「でしたら、私から一つ提案があります。」
マグナード
「何かね?」
レイヴン
「一層の事、村に攻め込んでみてはいかがでしょう。」
俺の一言で、皆んな表情が一変した。そうか!俺の提案が素晴らしくて「こいつ!なんて大胆な!!」とか驚いてるんだな!!
レイ
「レイヴンさん!!何を言って!!」
え?
エルザ
「あなたわかってるの?亜人族諸共村の子供達も皆殺しにするって事よ?」
え?
セレーナ
「私は反対ですお兄様!!子供達を巻き込む事なんてそんな悪徳非道な事が出来るわけがない!!」
あれ?なんか批判の嵐?
マグナード
「なら子供達を救出してからでもいいじゃないか?それなら巻き込まずに済む。」
おいぃぃぃぃ!!何弱気になってるんだこのバカ殿は!?散々嬲り殺しにしといて今更いい人面かよ!?それに本気で攻めて来ないとこっちが困るんだよ!!仕方ない。只でさえ大炎上してるけど、向こうが本気を出すにはこれしかない。俺は今!悪魔になります!!あっ!てか魔王だった。ならいいや。
レイヴン
「それはやめておいた方がよろしいかと。子供達も皆殺しにしなければ後々面倒なことになりますよ。」
マグナード
「しかし・・・・何も子供達までは?」
レイヴン
「今更何を怖気付いているのですか国王陛下。」
マグナード
「なんの事かね?」
レイヴン
「国民にはモンスターに襲われたと公表していますが、現実には陛下が命じて襲わせたと言った方が正しいのでは?」
マグナード
「なっ!?何を言っている!?」
レイヴン
「隠しても無駄ですよ?貴方の内密な実行現場は私も目撃している。と言うより巻き込まれた方が正しいですね。」
マグナード
「何故その事を知っている!!」
レイヴン
「兵士の一人を尋問して殺しました。素直に全部喋ってくれましたよ。おまけに『シャガの大森林』で起きた事についてもね。」
マグナード
「では残りの兵士達も!」
レイヴン
「全員始末しました。私を罪状で訴えるのであればいかなる罰も受けましょう。ただそんな不利な私が陛下に助言を提供しているのです。その事をお忘れなく、御自分の立場も考えて決断してください。」
これだけ釘を刺しとけば問題ないだろう。ただこの場にいる全員の殺気が突き刺さってますが・・・・。
マグナード
「わかった・・・・承諾しよう。」
セレーナ
「お兄様!!」
マグナード
「ただでさえ国の危機なのだ!!全ての問題を断たなければこの国は終わる!!」
セレーナ
「その原因を作ったのはお兄様ではありませんかぁ!!」
レイヴン
「お二人共静粛にして下さい。正式な場で口論などみっともないですよ。」
すると二人は俺を睨み付けてきた。なんか「いやお前の所為だろ!!」みたいに訴えかけてきた。いやだな〜。
マグナード
「では私はこれで失礼する。」
あのバカ殿ようやく帰ってくれたか。あれ?マグナードが帰ったって事は?皆んなの怒りの矛先は・・・・。
セレーナ
「レイヴンさん。」
レイヴン
「はい。」
セレーナ
「私はただ貴方から『ペルーニャ村』の情報だけ話して頂きかった。なのにお兄様に余計な事を吹き込んで!!」
レイヴン
「とは言え事実です。私は国を思っての発言をしたまで。」
セレーナ
「どちらにせよ、今日はお帰り下さい。」
なんか空気がめちゃくちゃ重たいんだけど!?まあ自分でこんな空気にしたんだから自業自得だけど、でも計画の為にやってる訳で・・・・あーもう!なんでこんな思いしなきゃならないんだ!!
レイヴン
「ではこれで失礼する。」
その場を逃げるかのように立ち去ろうとしたその時だった。
信長
「お前さんの判断は正しい。」
織田信長が話し掛けて来たのだ。なんかこの人に話し掛けられると緊張するな。
信長
「だが奇妙だ。女子供を『撫で斬り』にする理由をまるで知っていたかのようだ。そう・・・・まさに猿真似のような戦をしている。誰に教わった。」
貴方に教わった戦ですがね。試しにカマをかけてみるか。
レイヴン
「遥か大昔、ある『倭の国』のお殿様は100年以上続いた乱世を終わらせる為立ち上がった。しかしそのお殿様は僧が住むお寺に攻め込み、僧侶から子供まで皆殺しにし、さらには別のお寺でも一般市民の門徒を含め、降伏して来た相手を不意打ちするかのようにその者達も亡き者にした。そんな悪評が広がり彼はいつしか世間からそして後世からこう呼ばれるようになりました。『第六天魔王』。その人からの先人の知恵です。」
信長
「ほう?そりゃあ大層な『大うつけ』だったのだな。」
レイヴン
「若い頃の話でしょう。ですが私から見れば、そのお殿様は常識人だったと思いますよ。」
信長
「なっ!?そんな訳あるか!だとしたらお前さんは狂っているぞ!?」
レイヴン
「かもしれませんね。ではこれで失礼します。」
俺達三人は会議室を去った。織田信長のお陰でなんだか心が楽になった。彼には感謝しないとな。
土方
「あの男、あんたを知っている素ぶりだったな。」
信長
「そんな訳ねーだろ!!『比叡山延暦寺の焼き討ち』に『長島一向一揆』!奴は俺の事を知り尽くしている!!」
土方
「おまけにあんたの悪名まで知っていやがった。何者なんだ奴は?」
セレーナ
「それよりも今は『ペルーニャ村』よ。彼がお兄様に余計な助言を吹き込んだ所為で事態がさらに悪化したわ。」
信長
「それだが俺も気になっていた。奴はバカ兄貴に村を攻めさせる為に誘導していたような口振りだった。」
土方
「なら奴も村を狙う理由があったからか?」
信長
「いや違う。もしかしたら返り討ちを狙ってるのやもしれん。」
セレーナ
「向こうに勝てる自信があったからお兄様を煽った!?でも何のために?」
信長
「わからん。だが妙な違和感を感じる。まるでこっちが知らぬ間に踊らされているような感じだ。」
流石は織田信長。そこまで見抜くとは思いもしなかった。だから貴方のやった事が間違いではなかったと、俺はそれを信じて進みます。
レイ
「レイヴンさん。」
俺達が施設内の廊下を歩いていると、レイが突然止まったて俺に話し掛けてきた。
レイ
「初めて貴方とクエストを受けた時から貴方の事を尊敬していました。けど見損ないました!貴方がそこまで冷たい人だとは思わなかった!!」
レイヴン
「私は国の大事を伝えたにすぎません。残念ですが、目の前で親の命を奪われた子供は復讐心に取り憑かれ、やがて国に大きな災いを呼ぶのです。なら・・・・早い方がいい。」
レイ
「そうですか・・・・これで失礼します。」
レイはそのまま先に行ってしまった。こりゃ嫌われたかな。まあ俺も譲れない計画があるので仕方ないけどな。
エルザ
「ねえ!」
なんだ今度はエルザも俺に文句があるのか・・・・ってメッチャ睨んでるし!?
レイヴン
「貴女も私に文句がおありですか?」
エルザ
「いいえ、寧ろ貴方の判断は正しいわ。レイとセレーナ皇女は納得していなかったみたいだけど仕方ないわ。国を守る為なら止むを得ないもの。」
レイヴン
「ではマグナード陛下は?」
エルザ
「あれはただのバカ!!」
ですよね〜。
エルザ
「そんな事はどうでもいいの!!貴方の弟子達が『テポドンの遺跡』でサラマンダーを討伐した時に何か妙な宝具を見つけなかったかしら!?」
もしかしてあの竜のエンブレムの事か?ここまで必死になると言う事は余程の品物らしいな。なら知らん顔しよう!!
レイヴン
「いいえ、その様な事は聞いていませんが。」
エルザ
「そう。なら自分で探すわ。後で後悔しても知らないから。」
あれ?これ疑われてるよね?不機嫌そうに立ち去ってったけど疑ってるよね?
レイヴン
「なんだこの罪悪感は・・・・。」
そんで俺も都市庁を出て近くの路地裏に入った。そんな複雑な気分な俺に不気味に語りかける声がした。毎度お馴染み輝夜だった。
輝夜
「先程は見事な交渉でした。我が君よ。」
霊体化を解いた輝夜は俺の前にひれ伏しながら現れた。
レイヴン
「輝夜か。先程の謁見を見たのなら分かるだろ。何の用だ。」
輝夜
「ええ、我が身も習わねばならぬと思いました。敵の弱みを脅しの道具に使うとは見事な手前でした。」
レイヴン
「一々私のご機嫌取りに来たのなら無駄な時間だ。己が職務に戻れ。」
輝夜
「滅相もございません。エルザ・フォルテについてお耳に入れておきたい報せがあります。」
レイヴン
「ほう?聞かせて貰おう。」
彼女について何かわかったなら、それなりなの対策は取れるし何よりその秘密を解き明かす事で、今後のガイロスに活かせたらと考えている。
そして輝夜はエルザ・フォルテという人物について色々な事を語ったが驚くばかりの内容だった。
レイヴン
「実に面白い話だ。確かに『賢者の石』を使えば1000年も長生きする筈だ。奴のレベル300も納得できる。」
輝夜
「ですが、一部はまだ発見されておらず未解明な部分も多い故、もう少しお時間が必要かと。」
レイヴン
「構わん。引き続き調査を頼む。」
輝夜
「はっ!」
レイヴン
「私は一旦城に戻る。後の事は任せた。」
セレーナの謁見が終わった後は、ガルバトロスに戻ってクリスティーナの所へ行かなければならなかった。アイネとミオからもらったあの竜のエンブレムを解析してもらう為だ。エルザが必死になってまで取り戻そうとしているくらいだ。きっと何かあるはずだ。
『異界の門』を使い、ガルバトロスに向い、到着した場所が俺が仕事をしている執務室だった。いつものベリアルの正装に換装し、クリスティーナのいる地下階層の『理科室』に行こうとしていた。そう言えばあのバカ殿がここを襲ってくるって話だったけど、見る限り被害は出ていない。まだレリックの軍勢は到着していないようだな。
テレサ
「失礼します。」
俺の存在に気づいたのかテレサが訪ねて入ってきた。流石は魔王の秘書官、気が効くな。
テレサ
「お勤めご苦労様です。お早い帰還でした。」
ベリアル
「うむ、お前も苦労をかける。」
テレサ
「いいえ。ところでベリアル様。」
ベリアル
「ん?」
テレサ
「お風呂にします?お食事にします?それとも・・・・ワ・タ・シ?」
はい?何その新婚夫婦で良くありそうな出迎えは?テレサの奴頬赤くしてるけど無理して言ってる!!
ベリアル
「テレサ?それは何の挨拶だ?」
テレサ
「申し訳ありません!!主従をお迎えするにはこの様な仕来りがあると本に書いてありましたので、お気に召しませんでしたか?」
ベリアル
「いや!お前の気遣いは伝わったぞ!」
寧ろご褒美です!!
ベリアル
「だが残念ながら私はクリスティーナに用があって来たのだ。済み次第またレリックに戻るつもりだ。」
テレサ
「そうですか・・・・ベリアル様は私なんかよりあんな変態博士の方がよろしいのですね?」
はい?
テレサ
「私スタイルは彼女に負けてないと思ってたのにベリアル様は細身の女性が好みなのですね。同じアンデッドですし。」
ベリアル
「テレサさん?」
テレサ
「正直寂しいですが、秘書官を彼女に委託しましょう。それがベリアル様の為なら仕方ありません。」
ベリアル
「アイツに秘書官が務まるとも思えないし、一緒にいると私が疲れるから嫌だ!!」
テレサ
「冗談です。こんな素敵なポジション誰にも渡す気はありません!」
ベリアル
「そうか?ならいいんだが。」
テレサ
「久々にベリアル様とお話ししたかったので、つい冗談を言うようになってしまいました。無礼な振る舞いをお許し下さい。」
そうか、最近は冒険者の方が忙しくって城に帰ってなかったからな。テレサなりの甘えかもしれないな。今回の件が片付いたら城の皆んなと話だけでもするかな。
ベリアル
「今回の事が済んだらゆっくり話でもしよう。今は耐えてくれ。」
テレサ
「ありがとうございます!!」
テレサと久々に話をしたが、なんだかこっちもリフレッシュ出来たような気がした。俺も疲れてるのかもな。アンデッドだけど。さて・・・・テレサの後のクリスティーナはもっと疲れるだろうな。そして俺は地下階層の理科室に向かい部屋の前に到着した。ドアをノックしたけど誰も出ない。
ベリアル
「勝手に入るか。」
相変わらず不気味な場所だ。ホルモン漬けにされてるモンスターにおりで飼われている合成獣に複数の宝石でから加工された指輪の宝具が置かれていた。さらに先に進むとそこに山積みの紙が積まれたデスクに赤髪の女性が座っていた。彼女がクリスティーナである。
クリスティーナ
「おや?ベリアル様ではありませんか。珍しいですね、こんな所まで顔を見せに来るなんて。」
『フランケンシュタイン』。真名は『クリスティーナ』。レベルは296。属性は『魔』。種族は『アンデッド』。職業は『錬金術師』。
『ガイロス帝国軍』科学班班長『理科室』所属のフランケンシュタインだ。
赤いワイン色のロングストレートヘアーに黒縁メガネを掛けていて、顔にはツギハギに肌を縫い合わせているところがある。服装は、OLが着ているリクルートスーツの上から科学者らしい白衣を羽織っている。
性格は人に対してちょっかいを出したり、ふざけたり、言う事聞かなかったり、隙あらば正論を突いてくるし、なのに仕事はできる腹の立つ奴だ。
ベリアル
「お前に頼み事と説教をしに来た。」
クリスティーナ
「説教は面倒くさいので頼み事だけお願いします。」
じゃあ説教は後回しにしてこっちを先に渡しますか。俺はクリスティーナに竜のエンブレムを渡したが、それを受け取った彼女も不思議そうな顔をしていた。
クリスティーナ
「これは興味深い品物ですね。」
ベリアル
「今すぐ鑑定をして欲しい。エルザ・フォルテと言う魔術師が必死になって探している。それ程貴重な宝具だと言う事は間違いない。」
クリスティーナ
「でも言ってしまえば盗難ではありませんか?」
ベリアル
「この世界に盗難云々関係ないでしょ!略奪、強奪は当たり前!!」
クリスティーナ
「いや〜流石はベリアル様。そこに痺れる憧れる。」
ケンカ売ってるのか此奴は!!もう頭に来た・・・・・このまま説教モードだ。
ベリアル
「さてここからが本題だが!?」
クリスティーナ
「いや明らかにこちらの宝具の方が本題なんじゃ?」
ベリアル
「物のついでだ!!そんな事より私の許可なしにミオに『勝利の鍵』を渡したのはどう言う事だぁ!?『王位の称号』も無いお前はいつから偉そうになったぁ!?答えろクリスティーナ!!」
クリスティーナ
「いや・・・・普通冒険者なら持たせるべきでしょ?」
え?
クリスティーナ
「ダンジョン系統のクエストを受ける際、探索用の宝具を用意するのは基本中の基本!なのにベリアル様は冒険者稼業から大分離れてた所為かその事すら忘れていた!貴方は双子悪魔に裸で大通りを歩かせるような事をしようとしていたのですよ!それに『アークエイル』ならまだしも未開の世界なら尚更『勝利の鍵』と言った反則宝具は持たせるべきではありませんか!?」
あれ?なんで俺が説教されてるの?説教しに来た筈だよね?
クリスティーナ
「ですからベリアル様!!」
ベリアル
「なんだ?」
クリスティーナ
「貴方は冒険者に関しては全くの『無能』なのですから余計な事はしないで下さい!!」
えぇぇぇぇぇぇ!?
ベリアル
「は・・・・はい。すいませんでした。」
俺は・・・・何も言わず理科室を出て行った。何しに来たんだ俺?
バフォメット
「あのベリアル様?如何されましたか?」
執務室に戻るとテレサだけでなく、バフォメットやレイアース、セレスにウィンダムが訪れていた。俺が帰還した事を聞き挨拶に来たのだ。けど今はそんな歓迎ムードを受け入れられる気分じゃない。
ウィンダム
「あの、余計なお節介かもしれませんが少しお休みになられては如何ですか?」
ベリアル
「ありがとうウィンダム。だがそんな暇はない。計画は既に最終段階に移行した。お前達もレリックの一団を迎撃したら直ぐに『ペルーニャ村』に合流せよ!決戦の時は近いぞ!」
テレサ、バフォメット、レイアース、セレス、ウィンダム
「はっ!」
まあ戦はしない方向なんだけどね。
ベリアル
「では私は再びレリックに戻る。城は任せた。」
こうして俺はレリックに戻ったが、その直後にレリックの軍団が到着した。彼等は城壁の外を観察しながらこちらの出方を伺っていた。
騎士団長
「見たところ城塞のようだが大した装備はしていない。攻め込むにはうってつけだ。」
ヴァイゼン
「お言葉ですが騎士団長、もう少し調べても良いのでは?罠の可能性も・・・・。」
騎士団長
「ええい!!雑魚の分際でこの私に逆らうな!!汚わらしい!!」
そんな彼等の存在に呼応するかのように『北の大森林』で眠るワーウルフも動き出そうとしていた。
ワーウルフ
「匂う、匂うぞ。戦いの匂いじゃ!」
今回はルシファーとヘラクレスの物語に実はベリアル様も近くにいましたね。次回は、四天将なのにガイロス帝国最弱の落ちこぼれのワーウルフのお話です。