第四話『昆虫軍団の行軍』
今回の話は前回のルシファーの話と時間が全く同じですが、ヘラクレスの視点を描いた物語になっています。
ワシは昆虫軍団総大将ヘラクレス。現在ベリアル様の命を受け、ここ『ファレスト高原』に獣人族の長『レオンカイザー』の『キング』に話を付けに来た。だが交渉は決裂してしまい、取り敢えず戦を回避する為、大将同士の決闘という形で話は治った。正直なところ、我が軍は『七本槍』しか連れてきていなかった為戦は避けたい。ちなみに『七本槍』はこのワシ、ヘラクレスを含め『カブト』『コーカサス』『ネプチューン』『グラント』『アクティオン』『ケンタウルス』である。
ヘラクレス
「なんと!ルシファー様は『パルス神殿』の天使族を引き連れ、ベリアル様はブロンドからプラチナに昇格しましたか!わかりました!このヘラクレスも負けてはおりませぬ!!」
決闘前にテレサ様から連絡が有り、ベリアル様とルシファー様が多大なる戦果を成し遂げたとの事、これは負けてはおられぬ。
キング
「如何されたヘラクレス殿!」
ヘラクレス
「待たせてしまって申し訳ない。では始めようか!!」
『キング・レオンカイザー』。レベル200。属性は『地』。種族は『獣人』。職業は『格闘』。
ライオンが二足歩行をした様な姿でオレンジの立髪が特徴。煌びやかな装飾品を付けている。
性格は誇り高く勇敢で仲間思いの戦士だ。出来れば殺したくはない。
キング
「強化奥義!『獅子闘魂』!!」
先ずは攻撃力を上げてきたか。さあ次はどう出る。
キング
「獣王奥義!!『百獣拳』!!」
ヘラクレス
「強化奥義!『武装硬化』!」
キング
「なに!?」
『武装硬化』は防御力を最大限まで高める防御奥義。当然奴の拳など蚊に刺された程度に過ぎない。
ヘラクレス
「ファイナルフェイズ!」
キング
「しまった!!」
ヘラクレス
「『ホーンバスター』!!」
キング
「ぐはぁ!!」
ワシは自らの角を全力で振り下ろし、奴ごと地面を破る様に叩きつけた。キングは少し地面に埋もれていたが意識は少しあった様だ。
キング
「最初から勝負にならなかったと言う事か。」
ヘラクレス
「降伏してくだされキング殿。ワシはお主を殺めたくはない。」
キング
「そうはいかん。他所者の下に着く訳にはいかない。例えレリックと戦になったとしても、我等の領地は我等の手で守り抜く!」
ヘラクレス
「そうか・・・・ならば是非も無し!」
ワシが留めを刺そうとした時だった。
アコ
「獣王奥義!百獣拳!!」
なんだ?
アコ
「てや!アチョ!はっ!」
なんか子猫が戯れに来たのか?
アコ
「お父様をこれ以上傷付けさせはしませんわ!覚悟しなさい!!」
キング
「よせアコ!お前の敵う相手ではない!!」
子猫ではなく小娘であったか。しかもキング殿の娘とは、親子揃ってなんと勇敢なのだ。
アコ
「ストライクレーザークロー!!」
まるでこの娘。
アコ
「シャシャシャシャシャ!!」
猫だな。攻撃しているつもりだろうが猫が戯れてる様にしか見えん。なのでいい加減鬱陶しくなってきたから彼女を首根っこを掴む様な感じで服を掴み持ち上げた。
アコ
「何するんですの!!離しなさい!!」
ヘラクレス
「娘よ。名は何と申す。」
アコ
「私はアコ!『アコーディウス・レオンカイザー』!キング・レオンカイザーの娘ですわ!!」
ヘラクレス
「ではアコーディウスとやら汝に問う。何故自分より強き者に立ち向かう。勝ち目が無い事がわかって何故逃げぬ。」
アコ
「そんなの決まっていますわ!!お父様は私の大事な家族ですの!!家族や友達を守りたいのは当たり前の事ですわ!!」
ヘラクレス
「己が身を滅ぼしてもか。」
アコ
「当然ですわ!家族も仲間も守れず自分だけ逃げるのは獣人族でも、いいえこの私のプライドが許しませんわよ!!」
今時の娘にしては中々しっかりしている。家族や友を守る事が誇りか。面白い小娘だ。
ヘラクレス
「いいだろアコーディウス!その度胸に免じてお主の父には手出ししないと誓おう。」
アコ
「はい?」
ワシはアコを下ろし、戦とは何かを教えた。この娘の将来のためにも。
ヘラクレス
「だが家族や友を護りたいのであれば、時には諦めや退く事もまた勇気。戦では生き残った者が勝者だ。」
アコ
「生き残った者が・・・・勝者。」
ヘラクレス
「そうであろうキング殿。お主も気づいている筈だ。『シャガの大森林』の惨劇の話を、なれば次に狙われるはこの『ファレスト高原』だと。」
キング
「そうなる前にガイロスの下に付けと!」
ヘラクレス
「そうだ!だが侵略ではなく救済と言う形で受け入れて欲しい。どうか降伏を所望されたし!」
アコ
「私からもお願いしますわ!」
キング
「アコ!」
アコ
「生きましょう!生きて明日を掴み取りましょう!!」
キング
「・・・・そうか。」
ヘラクレス
「返答やいかに。」
キング
「我等、ヘラクレス大将に忠義を尽くします。」
これで『ファレスト高原』の兵力は確保出来た。次は『カラストの沼地』だがダイナマンは獰猛な種族、そこでキング・レオンカイザーの軍勢から『ジュラフ』『ゼブラ』『ライノス』ともう一人同行する事になった。
アコ
「この私ですわ!」
アコーディウス・レオンカイザー、つまりキング殿の娘である。
キング
「なんでお前まで付いて来るんだ!?」
アコ
「私がいなければ話が始まりませんわ!」
キング
「いいから戻りなさい!母さんになんて言ったらいいか!!」
現在、我等は『カラストの沼地』の入り口でもある『カラスト森林』まで来ていた。不気味な森に見えるが魔族の気配を感じない。しかも暖かさを感じるなんとも不思議な森だ。それにしてもここに来て親子喧嘩とはなんと見苦しい。
カブト
「待て!」
突然、我が重臣であり七本槍の一人『カブト』が足を止めた。敵への襲撃に備え先頭を任せていたが、どうやらこの先の木々に何者かの気配を感じたらしい。
カブト
「何者だ!出て参れ!!」
???
「何者かと尋ねるのは此方の方だが。」
薄暗い木々の奥からその者は姿を現した。恐竜の様な姿をしているが、どちらかと言えば『リザードマン』に近い姿だ。
ヘラクレス
「我が名は昆虫軍団総大将ヘラクレス。お主の名を聞かせてもらおう。」
ジュラス
「俺の名は『ジュラス』!この先にある『ダイナマン』と呼ばれる集落の門番を担当している。」
ヘラクレス
「『ダイナマン』は種族名ではないのか。」
ジュラス
「他所者には勘違いされやすいが『ダイナマン』は村の名前だ。俺達の本当の種族は『恐竜人』と呼ぶ。」
ヘラクレス
「そうか。それは失礼した。」
ジュラス
「特に俺の様な奴は『リザードマン』と間違われやすいが、先祖代々『ティラノサウルス』の一族『レックス族』の者だ。」
なるほど、これ程凶暴そうなリザードマンは流石にいないが恐竜族なら話は別だ。これほどの屈強な戦士は初めて見た。
ジュラス
「では本題に入ろう。この沼地に何用か。」
ヘラクレス
「ワシは『ガイロス帝国軍』昆虫軍団総大将ヘラクレス。レリックとの戦に向け、周辺の村々に出兵を要請したく馳せ参じた。『ダイナマン』の代表者との面会を所望する。」
ジュラス
「良かろう。だが急に合わせるのは無理だ。そちらから使者を出してもらいたい。」
ヘラクレス
「その条件承った。」
何やら面倒な条件を突き出されたが、それがこの村の習わしなら仕方あるまい。だが誰を使者に出すかだが、適任なのはやはりネプチューンか。
カブト
「総大将。そのお役目、拙者に任せて頂きたい。」
カブトが?確かに任せても良いが此奴は七本槍の中ではかなりの小柄だ。角の長さを除けば、胴だけでも人間の身長と同じくらい。背丈はワシの半分しかない此奴を行かせて大丈夫だろうか。多分愚弄はされるだろうが任せてみよう。
ヘラクレス
「良かろう。お主に一任する。」
カブト
「ハハッ!」
カブトはジュラスと共に集落へ向かった。それにしても、随分とあっさりだったなあの恐竜人。何か思惑があっての行動か。
ジュラス
「何故自ら志願したのだ。」
カブト
「先日我が総大将は獣人族の長と一戦交えてな。無用な戦は避けたい。」
ジュラス
「それだけなのか?他に理由があるのではないか?」
カブト
「理由と申されると?」
ジュラス
「無礼を承知で申し上げるが見た所、貴方はあの軍団の中では余りにも小柄過ぎる。そんな者が代表者にお目にかかるなど、普通なら激怒されてもおかしくは無いはず。貴方もそれを承知のはず、何故自ら志願したのだ。」
カブト
「笑止。理由など最初からござらん。」
ジュラス
「なに?」
カブト
「某は昆虫軍団の中でも、総大将の次の強者と心得ている。それ以外の者が足を運んではそれこそ無礼に値する。」
ジュラス
「貴方の様な小さき者が。」
カブト
「さよう、この様な小さき者でも強さは桁違い。」
ジュラス
「なるほど。どうやら私は貴方を見誤っていた様だ。」
カブト
「理解して頂き感謝する。」
そして二人は沼地に出たが、そこは湖の様に沼があっただけで、ちゃんと陸の部分は歩ける様になっている。集落は沼地を抜けた陸の所にある。集落に入ると代表者のいる小屋が目の前にあり、入ろうとした時ジュラスがいきなり足を止めて妙な事を言っていたそうだ。
ジュラス
「余り期待しない方がいい。」
カブト
「なんだと?」
ジュラス
「ここの村長は頑固者で気性が荒い。話など聞いてもらえぬかもしれぬぞ。」
最初は大丈夫だと思っていたが、その村長と話してどう言う事か直ぐにわかった。
ジュラシック
「なるほど。それでこの昆虫族を村に入れたと。」
ジュラス
「その通りです。今度こそお話を聞いて頂く為村に入れました。」
ジュラシック
「この愚か者がぁ!!」
ジュラスの言っていた村長とはそう言う男なのだ。これではカブトの話も聞いてくれるかどうか怪しい。
ジュラシック
「お前はまともに門番も出来んのか!!この前も『パルス神殿』の天使を勝手に村に入れて似たような話をさせおって!!」
ジュラス
「いい加減にしてくれ兄さん!『シャガの大森林』の話を知らぬ訳ではなかろう!?いつかこの村にもレリックの兵士が来る!獣人族のキング殿は既に彼等と共に戦う為に降伏している!ならば俺達も!」
トリケロス
「ジュラスよ。そう言う話じゃない。」
ジュラス
「なに?」
トリケロス
「私達は村長の弟と言う事でお前を特別扱いしてきた。だが実際実力は弱い、まともに役目も果たせぬ。言ってしまえばお前は村のお荷物なのだよ。」
カブトの話によれば、ジュラスは村の中では落ちこぼれで周囲の目は冷たかったようだ。まともに役目を果たせず何も与えられぬままこの村で過ごしてきたらしい。まるでどっかのうつけ犬のようだ。
ジュラシック
「ジュラス。前々からお前には失望していたがもう身内どころか弟とも思わん。勘当だ!!即刻この村を出て行けぇ!!お前の顔など二度と見たくはない!!」
その後、ジュラスは黙ってその場を去ったと言う。所詮それが弱者の運命だ。愚かな男だとワシは感じていた。だがカブトは違っていたようだ。
ジュラシック
「さて御使者殿。見苦しい所を見せてしまい大変申し訳ない。」
カブト
「構いません。他所者の拙者が口を挟む訳にも参りませぬ。して先ほど話した上で返事はいかに?」
ジュラシック
「断る。他の種族と違い、人間如きに怯えるほど私達は臆病ではない。」
カブト
「浅はかなり。」
彼の言葉を聞いて、カブトが逆鱗した事には驚いた。奴は強いが普段は温厚で優しい。そんなカブトが怒るとこなど誰も見たことがないからだ。
カブト
「なんと浅はかなり!!お主等は人間を下等種族しか見とらんのか!!」
ジュラシック
「そうであろう!!何を恐れる必要がある!?」
カブト
「『シャガの大森林』の悪魔を殲滅させたのは他でもない人間なのだぞ!!」
ジュラシック
「だからその人間が召喚獣を呼び出して倒したのではないのか!?」
カブト
「否!断じて否だ!!レリックの魔術師が無傷で悪魔を殲滅させたのだぞ!!」
ジュラシック
「バカな!?負傷者が出たならまだしも無傷だと!?人間如きにそんな芸当ができる訳なかろう!!デタラメを言うな!!」
カブト
「嘘偽り無かれ!!我等が御門であるベリアル様自ら『ペルーニャ村』を襲撃した兵士の一人から聞き出した情報だ!!それ故拙者等は動いている!!」
ジュラシック
「だからと言って我等も引き下がれぬ。人間如きに多種族が同盟を組むなど前代未聞だぞ!?」
トリケロス
「ジュラシックよ。人間を少々侮り過ぎたかもしれん。」
ジュラシック
「何?」
トリケロス
「『ペルーニャ村』は人間族の住む村だ。おまけにモンスターもいない。」
ジュラシック
「そう言う事か、ここ等一帯の村を攻め込める唯一の拠点!」
トリケロス
「こりゃあ本当に他の村も殲滅しかねない。あの天使の嬢ちゃんの言ってた事は間違いじゃなかったって事だ。」
カブト
「なら尚の事、考えを改めよ!」
カブトのお陰で、ジュラシック殿を説得できたようだ。後は返事を待つのみ。
ジュラシック
「御使者殿。貴殿の御大将であるヘラクレス殿と獣人族の長キング・レオンカイザーと話がしたい。連れてきてはもらえぬか。」
カブト
「承知しました。」
カブトはワシ等を連れて来る為、一度村を出たのだったが、奴の表情は浮かない顔をしていた。
カブト
「ジュラス殿・・・・嫌いな男ではなかったが。寧ろ今回の事態に気づき、行動を起こしていた奴こそが賞賛に値すべきではないのか?それすらも無に帰すとは冷たい種族だ。だがそれが村の掟と申すならそれも運命であるか。」
カブトは我等の元に戻り、ワシとキング殿はジュラス殿のいる村に訪れ、両者会談に応じた。
ジュラシック
「御使者から概ね話は聞いた。お前達の王であるベリアルは、本当にこの地を救ってくれるのか。」
ヘラクレス
「如何にも、だが貴殿等が立ち上がらなければ勝機はない。我等に力をお貸し頂き申し上げる。」
ジュラシック
「キング、貴様もそうなのか。」
キング
「最初はお前と同じ考えで断ったが、事態は俺が知っていた以上に深刻な問題だった。お前も今はそうだろ?」
ジュラシック
「確かにな。『ペルーニャ村』を拠点にされたら統一性がない村々の種族は間違いなく、各地で全滅するだろう。なれば今がその時だ。」
ヘラクレス
「では!」
ジュラシック
「我等『ダイナマン』は貴殿の下に付く!俺達の故郷を守る為に!!」
『ダイナマン』は我がガイロスの配下として戦う事を誓ったか。ならば良し!
その頃、村の入り口で待っていた部下達の前に先程の男が現れた。
ジュラス
「カブト殿。」
カブト
「ジュラス殿、もう出立されるのか。」
ジュラス
「ああ、さっきは見苦しい所を見せてすまなかった。」
カブト
「行く宛はあるのか?もしよかったら我が軍に入らないか。殿に話してみる。」
ジュラス
「有難い話だが、気持ちだけ受け取ろう。もう仲間の前に現れるつもりはない。これからは、一人で世界を周ってみる。」
カブト
「そうか、なら達者でな。」
ジュラス
「こちらこそ。」
我等が来た時には既にジュラスは旅立った後だった。カブトは何も話さなかったが後ろ姿が寂しそうであった。そんな中、『ダイナマン』の方からはジュラシック殿を含め、『トリケロス』と『ブラキオン』が同行する事になり部下達と合流後、更に北を行った『カラッド高原』に出たが、そこに思わぬ敵兵が潜んでいた。
キング
「ここから東を行った先が『ペルーニャ村』だ。」
ヘラクレス
「なるほど、少し遠回りになってしまったが予定通り着けそうだ。」
恐らくルシファー様より早く到着できそうだ。ベリアル様も大層お喜びになられるであろう。このヘラクレス不覚無し!と思っていた矢先、さらなる障害が立ちはだかる。ネズミが三匹ウロチョロしているからだ。
ヘラクレス
「先程から見られているな。」
カブト
「数は三か。如何しましょう。」
ヘラクレス
「村まで付いて来られても面倒だ。ここで葬り去る。」
カブト
「御意!」
ヘラクレス
「小賢しいネズミ共!!姿を現せ!!」
すると突然我等の目の前に急に現れたのだ。奴等が持っていた宝具にその秘密はあった。
レイヴン
「やはり『ミラージュマント』で全ての感知能力を遮断しても気配だけは感じ取れたか。」
やはり『ミラージュマント』だったか。視覚だけでなく全ての感知能力を遮断する隠密向けの宝具だ。ただそれだけだが気配が駄々漏れだ。もはや勝手に付いて来てると言っているようなもの。気づかないワシ等ではない。
それにしてもエルフの小娘に赤髪の魔術師に黒い鎧の男とは妙な編成だな。
エルザ
「で?ここからどうするの。」
レイヴン
「穏便に見逃してくれればいいのですが。(まあヘラクレスなら上手く誤魔化して逃げてくれると思うけど)」
レイ
「けど相手は獰猛な獣人族とダイナマンだ。無事で見逃してくれるとは思えませんが。」
ジュラシック
「おい!エルフの小娘!何か勘違いしてないか!!」
レイ
「何がだ!」
ジュラシック
「『ダイナマン』は村の名前だ!俺達は『恐竜人』覚えておけ!!」
ジュラシック殿、それ言われる度に指摘しないと駄目なのか?なんと面倒くさくて機が遠くなる。
レイヴン
「私達は、王国より依頼を受けた冒険者だ。お前達亜人族が妙な動きをしていると聞いた。何を企んでいる!!」
ヘラクレス
「それを知った所で見られた以上死あるのみだ。愚かな人間共よ。」
もはや是非も無し、この場で斬り捨てる!!
レイヴン
「穏便に見逃してくれそうにはないな。(ちょっと待てぇ!!ヘラクレスの奴俺だって気づいてないのかぁ!?)」
ヘラクレス
「突貫。」
自慢の角を突き出し、背中の羽根を勢いよく広げた瞬間に目に見えぬ速さで飛び出し、鎧を着た冒険者をその角で挟み大空に飛んだ。
エルザ
「あの巨体でなんて速さなの!」
レイ
「レイヴンさん!!」
仲間の心配か。だが時すでに遅し。このまま地上に叩きつけてくれる。
ヘラクレス
「最終奥義・・・・・『地獄落とし』!!」
上空から勢いよく急降下し、カブト達のいる所に真っ逆様に落下した。無論ワシの身体はこの程度ではビクともしない。
レイヴン
「今のは中々効いたぞ。他の奴なら確実に死んでいた。(ヘラクレスの奴、最終奥義を全力で出してきた所を観ると俺に気づいていないな)」
バカな!?あの技を喰らって何ともないだと!?普通の人間なら即死してもおかしくないはず!!
エルザ
「向こうが引き下がらないならこちらも応戦するしかないわ!」
レイ
「確かにそのようだね!」
小娘二人もようやく動き出すか。だがこの異様な強さ、只者ではないのは確かだ。
キング
「小娘二人程度俺だけで十分だ!」
ジュラシック
「いや俺も行こう!レリックの小賢しい回し者など踏み潰してくれる!」
コーカサス
「いや!御二方はお控えなさいませ。」
やはりコーカサスも気づいたか。特にあの赤髪の少女は高レベルの魔術師だ。キング殿やジュラシック殿では敵わない強敵と見て良い。
コーカサス
「赤髪の魔術師は某がお相手申し上げる。」
エルザ
「いいわよ。昆虫族なんて丸焦げにしてあげるわ。」
カブト
「なればエルフの小娘は某が手合わせ願おう。」
レイ
「私も侮られたものだ。こんな小柄な昆虫族を相手にしなければならないとは。」
カブト
「小柄と言って侮るなかれ!某は七本槍が一人、カブト!耳長の娘よ、掛かって参れ!!」
ワシとレベルが同格のカブトに、レベル300のコーカサスと来たか。ならばワシの相手はこの珍妙な冒険者を斬る事と見つけたり!
レイヴン
(ヘラクレスの奴まだ主人である俺に気付いていないのか?)
ヘラクレス
「次は容赦はせんぞ!!愚かな人間よ!!」
レイヴン
(やっぱり気づいていない。俺、魔王ベリアルなのに冒険者レイヴンとなると皆んなに馬鹿にされるんだよな?)
では早速この人間を八つ裂きに・・・・ん?
エルザ
「進化魔法!『メテオストライク』!!」
あれは!?『ファイヤーボール』の進化魔法『メテオストライク』!よもや進化魔法の使い手だったか。
コーカサス
「進化魔法!『プラズマブラスター』!!」
だが我が七本槍のコーカサスも進化魔法の使い手なのだ。『サンダーボール』の進化版『プラズマブラスター』には貫通力がある。
エルザ
「虫の癖に魔法使うの!?」
コーカサス
「侮るなかれ!某とて魔法は使える。」
人間から見ればワシ等昆虫族が魔法を使うのが珍しいか。そう言えば『アークエイル』でも、そのような昆虫族はいなかったな。
レイ
「何!?」
ん?カブトの方から何か吉報があったか。エルフの娘に一撃与えたか。
カブト
「首を刎ねたつもりだったが、邪魔臭い髪が無くなってスッキリしたであろう。」
レイ
「エルフの髪は人間族にとっては高価な品なんだぞ。それを粗末に扱ったんだ。後悔しても知らないよ。」
カブト
「心配ご無用、戦に立った時点で等に腹は括っている。」
今の所コーカサスとカブトが優勢か。だが解りきってた事、人間とエルフの力量では天と地の差でしかない。そしてワシの目の前にいるこの男はそれ以下の人間だ。
ヘラクレス
「次は貴様の首を刎ねる!覚悟せよ!」
レイヴン
「いいだろう!来い!!愚かな昆虫族よ!!(ヘラクレスの鈍感さには呆れたけど、お前の実力を体感できる良い機会だ。付き合ってやるぞ!)」
なっ!?そう奴が口にして大剣を向けて来たが、奴の突き付けているあの剣は『黒帝剣グランレストソード』!?しかしあの剣は我が『ガイロス帝国軍』の所有物にして、我が帝の国宝!!それを・・・・それを何故このような男がぁ!!!
ヘラクレス
「クソガァァァァァァ!!」
レイヴン
「何だ!?(何で怒り出したんだ?)」
ヘラクレス
「キサマァ!!ソノケンヲドコデテニイレタァ!!」
レイヴン
「これか?黒炎魔王ディアブロを撃ち倒して手に入れた剣だが・・・・あっ!?(しまったぁ!これじゃあ冒険者レイヴンが魔王ベリアルを倒して手に入れた剣とヘラクレスが誤解するぅ!!)」
ヘラクレス
「ベリアルサマノコトカァァァァァァ!!」
ワシの怒りは最早有頂天!!その拍子にワシのある能力が発動した。それにより周囲の注目は一気にワシに向けられた。
エルザ
「ちょっと!あんた達のリーダーに何が起こってるの!?」
コーカサス
「殿が魔力解放と言う能力を解放させたのだが何か様子がおかしい!まるで暴走しているような!」
エルザ
「ようなじゃなくて暴走してるのよ!!魔力解放は感情的に発動させたら暴走する危険があるの!!それをわかって使ってるわけあの虫は!!」
コーカサス
「殿を愚弄するとは許さんぞ!!だがここまで怒りを露わにした殿は初めて見た。」
許さぬ!!絶対に許さぬ!!ベリアル様を討ち取り更にその遺品である国宝を平気で振り回す愚か者!万死に値する!!
ヘラクレス
「奥義魔法!」
ワシは地獄落としと同じ様に羽根を広げて目に止まらぬ速さで飛び出した。
ヘラクレス
「『グラビティホーンバスター』!!」
そのまま奴に突っ込み砂煙が衝撃波の様に飛び散り辺りは煙幕の様に視界が見えなくなり、更にワシが魔力を放出している為雑音も出ている。そんな状況下でも奴は剣で受け止めている!?馬鹿な!?ワシの必殺技を受け止めたと言うのかぁ!?
レイヴン
「流石は四天将の一人昆虫軍団総大将ヘラクレスの実力は私の予想以上だ。」
ヘラクレス
「何故ワシの事を知っている!!」
レイヴン
「お前は二つ勘違いをしている。」
ヘラクレス
「何!?」
レイヴン
「一つは、私が言っている魔王はベリアルではなくディアブロを倒した時にドロップした剣だ。」
ヘラクレス
「ディアブロ!?その名を知っている事は貴様は『アークエイル』冒険者か。」
レイヴン
「そして二つ目は、お前の主人が冒険者として目の前にいるからだ!!」
え?まさか?
ヘラクレス
「べべべべべべべ・・・・・ベリッ!?」
レイヴン
「最終奥義!『非情なる屈辱』!!」
ヘラクレス
「ふがっ!?」
ワシは何と愚かな事をしてしまったのだ。まさかベリアル様に無礼な言葉を浴びせた挙句刃を向けてしまった。
ジュラシック
「おいキング。お前さん大将に瞬殺されたんだよな?」
キング
「当たり前だ。でなきゃここにはいない。」
ジュラシック
「ならあれか?大将を倒したあの人間は・・・・。」
キング、ジュラシック
「化け物かぁ!?」
如何にも、ベリアル様は『アークエイル』最強の存在。その力、正しく強者の証!!そんなお方にワシは気付かず斬りかかってしまった。なんと無粋な真似を!!
カブト
「殿!しっかりして下さい!!」
コーカサス
「お気を確かに!!」
もう身も心も燃え尽きた・・・・真っ白に。
レイヴン
「さて、君達のリーダーは倒れたわけだがどうだろう、ここは痛み分けと言うことで手を引いて貰えないだろうか?」
もうそれで結構です。ワシは戦う気力を無くした。
カブト
「良かろう。両者その条件で幕引きと致しましょう。」
こうして我が軍とベリアル様達はお互い解散するような形で終幕を迎えた。
その後、ワシが目を覚ましたのは『ペルーニャ村』に着いた時だった。クトリとアルタイルが出迎えてくれたが、その場で皆に事の真相を話した。やはり青ざめてはいたがな。
その後の事の顛末は、前回のルシファー様の後半の話の通り、ワシはルシファー様に村長の家に引きづり込まれ説教を受けてる最中であった。
ルシファー
「ヘラクレス。実は虫の標本を作るのが趣味なのですが、昆虫族ぐらいの大きさの虫を探しているのです。そう、ちょうど貴方くらいの大きさの昆虫ですね。」
ヒェェェェェェ!!それってワシの事ではぁ!?
キング、ジュラシック
「ド・・・・ドSだ。」
そして話はベリアル様に返されるのであった。
次回からベリアルの視点で話は戻りますが、ルシファーとヘラクレスの物語の同じ頃の時間での話になります。